逃走戦
虚ろな目をした冒険者たちは、俺たちを囲うようにじりじりと距離を詰めてきていた。
円を描くような動きで、逃げ道を潰す気だと一目で分かる。
一人ひとりの動きは鈍くても、数が揃えば話は別だ。
包囲が完成するまで、そう時間はかからない。
「囲まれてるわね」
ノアが低く呟いた。
「このままじゃ、じわじわ削られるわ。長引かせるのは不利よ」
そう言って、彼女は正面を指差す。
「一点突破しましょう」
正面――まだ人数が少なく、動きも散っている方向だ。
「ああ、分かった」
ノアの提案に、俺はすぐさま賛同した。
この状況で、俺の魔法は役に立たない。
ノアの前で精神干渉を使うわけにはいかないし、既に操られている人間を、さらに操ることができないという話も聞いたことがある。
実際に試したことはないが、今ここで確かめる気にもなれなかった。
下手をすれば、効かないどころか逆効果になる。
結局、頼れるのは自分の体だけだ。
「俺が前に出る。ノアは後ろからサポートしてくれ」
「頼もしいわね。水の衛星ーー」
その言葉と同時に、俺の周囲に水が漂い始めた。
薄く、しかしはっきりと魔力を帯びた水だ。肌に触れるわけでもないのに、守られている感覚がある。
「いくぞ!」
「ええ!」
俺たちは同時に地面を蹴った。
正面に立ちはだかるのは三人。
剣士、双剣使い、そして少し距離を取って構える弓師。
最初に動いたのは剣士だった。
剣を振り上げ、こちらに踏み込んでくる。
――遅い。
振り下ろされる前に、間合いを一気に詰める。
握られている持ち手を、全力で殴りつけた。
鈍い音と共に、剣が手から零れ落ちる。
間髪入れずに腹へ蹴りを叩き込み、男を後方へ吹き飛ばした。
地面を転がり、そのまま動かなくなる。
次に迫ってきたのは双剣使いだ。
左右から刃が走る。
正面突破に集中しすぎるな。
双剣使いに注意しつつも、視界の端で、弓師の位置を確認する。
距離を取って、狙っている。
俺は足元に転がっていた剣を拾い上げ、そのまま弓師へ投げつけた。
牽制で十分。
弓師は反射的に身を引き、矢の狙いが逸れる。
その一瞬で、双剣使いの懐に踏み込む。
低い姿勢から足元を払うと、男はバランスを崩して倒れ込んだ。
止まらない。
最後の弓師との距離を、一気に詰める。
苦し紛れに放たれた矢が、風を切って飛んでくる。
紙一重で躱し、そのまま踏み込み、飛び蹴りを叩き込んだ。
弓が折れ、男は吹き飛んで地面を転がる。
「よし、切り抜けたぞ!」
そう思った瞬間だった。
横から、焼けつくような気配。
――炎の球。
しまった。
魔術師が一人、死角に隠れていた。
距離が近すぎる。避けきれない。
「大丈夫よ!水膜壁ーー」
ノアの声が、はっきりと聞こえた。
俺の周囲を漂っていた水が、一瞬で膜状に変化する。
炎の球は水にぶつかり、激しく蒸発しながら勢いを失って霧散した。
熱は感じない。
完全に防がれている。
次の魔法を準備している魔術師との距離を、一気に詰める。
「うおおおおおっ!」
全身の力を込めたアッパーを叩き込む。
男の身体が浮き、地面に叩きつけられた。
「今だ! このまま走り抜けるぞ!」
「ええ!」
俺とノアは並走し、そのまま前へ。
隠匿の結界を抜けた。
物理的な抵抗は一切なく、空気が一瞬だけざわりと変わる。
「結界を抜けたわ!」
「まだわからない! 完全に振り切るまで走るぞ!」
俺たちは足を止めず、宿へ向かって走り続けた。
しばらく毎日お昼の12時更新予定です。
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