愉快な仲間たち?
目が覚めると、いつもと違う、見知らぬ天井が視界に入った。
のそりと上体を起こすと、全身にずっしりとした疲労感がのしかかる。
陽の高さからして、もう昼前だろう。昨日は夜遅くまで起きていたせいで、起きるのも遅くなってしまったようだ。
昨日の出来事を頭の中で整理する。
自宅への襲撃のこと。
エルグ司祭が犯人かもしれないこと。
精神干渉の痕跡を辿れる力が、俺独自のものであり、調査に協力することになったこと。
とても一晩のうちに起きた出来事とは思えない。
セフィラさんの話では、王都アルセインにいる対魔管理局の仲間を呼んでいるらしい。
王都アルセインから辺境ルミネまでは、馬車で急いでも五日ほどかかる距離だ。彼らが到着するまでは、この白鹿亭で待機するしかない。
とりあえず遅めの朝食――いや、もう昼食が始まっているかもしれないが、何か口に入れよう。
そう思い、食堂へ向かうことにした。
素早く着替えを済ませ、顔を洗い、ドアノブを捻って廊下へ出る。
「おはよう、ユーマ」
廊下に立っていたのはノアだった。
「おはよう、ノア。待ってたのか?」
「ちょうど起こしに来たところよ」
「そうか。今から食堂に行こうと思ってたんだが、何か用か?」
「王都から、残りの班員が到着したの。ご飯も部屋に運ばせてあるから、そこで食べながら今後の話を詰めましょう」
王都から到着?
昨夜セフィラさんが連絡を入れてから、まだ半日も経っていないはずだ。
たまたま近くまで来ていたのだろうか。
「どうしたの? 行きましょ?」
「あ、ああ」
よくわからないまま、俺はノアの後を追うのであった。
*
ノアに連れられて、昨日と同じ部屋へ入る。
そこには、見知らぬ男が三人いた。
一人はソファに腰掛け、残りの二人はその後ろに立っている。
赤い髪にバンダナを巻いた男。民族衣装のような、ゆったりとした服装をしている。
もう一人はこの辺では珍しい、褐色の肌の男だ。頭はスキンヘッドにしており、服装はフォーマルなジャケットを着ている。
そして、短い黒髪に無精髭、半袖から見える隆々とした筋肉質の太い腕。他の二人に比べ圧倒期な存在感を放つ男。ソファに座っているのは彼だ。隣には剣――いや、刀が置かれている。
別のソファでは、セフィラさんとリナが並んで座り、何やら楽しそうに話し込んでいた。
「ユーマを連れて来ました」
ノアが告げる。
「おう。ご苦労だった」
黒髪の男が、こちらを一瞥する。
「……お前がユーマか。まあ、座れ」
目線で正面のソファを示され、俺はそのまま腰を下ろした。
ノアは男の側へ回り、後ろに立っている二人と並ぶようにして、その背後に立つ。
「俺の名はジン。ジン・ルクスフォルムだ。今、起きたばかりなんだろ? 飯でも食いながら話そう」
人は不的な笑みを浮かべる。
目線をジンと俺を挟むテーブルにやると、いくつかの料理が並べられていることに気づいた。
ノアの言っていた通り、食堂から運び込まれたものらしい。
「ユーマだ。それじゃ、遠慮なくいただく」
俺はテーブルに置かれていたピザに手を伸ばした。
温かく、朝食には少し重たいかとも思ったが、トマトのさっぱりしたソースが程よい。油分も控えめで、なかなか美味い。
「最初に聞こう」
ジンが低い声で切り出す。
「これまで、精神干渉魔法で人を不幸にしたことはあるか?」
「ない」
即答だった。
それは俺の信条であり、生き方でもある。
「聞き方を変えよう。自分の利益のために使ったことは?」
「ない」
「そうか、では仲間の命が危険な時、精神干渉魔法を使えば切り抜けられるとしたらどうする?」
「愚問だ。躊躇わず使うさ」
実際に昨夜はそうしたしな。
「へぇ……。じゃあ最後の質問だ」
最後の質問――。
俺はわずかに身構えた。
「セフィラからは、ノアが選んだ男だと聞いたが……どこまで進んだ?」
「は?」
俺がポカンとしているとジンさんはさらに続けた。
「だから、アイツとどこまでやったか聞いてんだよ」
そう言って、親指で後ろを指す。そこにはノアがいた。
ゴンッ。
鈍い音が部屋に響く。
ノアが、背後からジンを殴っていた。拳で。
「ふざけた質問しなくていいから。さっさと本題に入ってちょうだい。――お父さん?」
かなりいい音がした。
殴った側の手も無事では済まないだろう。
案の定、ノアは自分の拳を見つめている。少し赤くなっていて、痛そうだ。
――あ、水魔法で治してる。
「痛てて……お前なぁ。自分の手を痛める威力で殴るなよ」
「うるさい。早く話を進めましょう。いつまでラシュさんとザイードさんを、無言で立たせておくつもり?」
「はは。俺は構わねえけどな」
「ええ。私も構いませんよ。ジン班長がこうなのは今に始まった話ではありませんので」
後ろに立っていた二人が、ようやく口を開いた。
*
その後、二人からも自己紹介を受けた。
赤髪にバンダナの男はラシュ。見た目通り、火魔法を得意とするらしい。
褐色肌のスキンヘッド男はザイードで、雷魔法を使うとのことだ。
どちらも、ノアが所属する対魔管理局・第4班の戦闘員。
そして、諜報員であるセフィラさんとは同期とのことだ。
対魔管理局・第4班は班長のジンを筆頭に、戦闘員のラシュ、ザイード、諜報員のセフィラ、ノア、それに、ここにはいないがミラというノアの後輩の計6名で構成されているらしい。
そして、班長のジン・ルクスフォルム。
驚いたことに、ノアの父親だという。
……ということは、ノアもノア・ルクスフォルムなのか。
この国で家名を持つということは貴族、もしくは国にとって著しい功績を残した名家である証明だ。
見た目からして、貴族ではないと思うが……。
この人は、なんというか――カタギじゃない。
酒場で見かける冒険者の中にも、かなりの実力者はいた。実際、手合わせして喧嘩を教わったこともある。
だが、ジンさんほどの“圧”を感じる人物はいなかった。
脱力して、だらしなくソファに腰掛けているというのに、隙が見えない。
別に舐めていたわけではないが、改めて気持ちが引き締まった。
その後は、俺とリナのこれまでの話や、辺境ルミネのこと、そして俺の職場である『狩人の止まり木』の話など、他愛のない会話が続いた。
ジンさんも、最初こそ少し威圧されてしまったが、よく話を聞いてくれ、よく笑い、たまにノアを怒らせ、気付けば緊張もほぐれていた。
テーブルの上の料理が片付き、空腹も満たされた頃――。
「さて、腹も膨れたところで、そろそろ本題に入ろうかね」
ジンさんが一言そういえば、部屋の空気は一瞬で切り替わる。
話題は、教会への侵入作戦へと移っていった。
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