託された想い
「……エルグ司祭、が……?」
リナの口からその名が出たあと、部屋には重たい沈黙が落ちた。
俺は無意識に、拳を握りしめていた。
エルグ司祭は一体何が目的でそんなことを?
辺境の人々の平穏を誰よりも望んでいる彼がこの事件の元凶だとはとても信じられなかった。
「……現時点では」
沈黙を破ったのは、セフィラさんだった。
「エルグ司祭が、犯人としては最有力候補になるね」
リナがびくりと肩を揺らす。
「ただし」
セフィラさんはすぐに続けた。
「断定はしないよ。精神干渉魔法の性質を考えれば、本人が操られている可能性もあるし、裏で協力者がいる可能性も高い」
「……教会の中に、一人とは限らない、ということね」
ノアが静かに補足する。
「ええ。だからこそ、ここからは慎重にいこう。エルグ司祭を中心に、さらに細かく関係者を洗い出して、行動と資金の流れを絞り込んでいく。今はまだ正面から踏み込む段階じゃない」
その話を聞きながら、俺はふと、ある考えに至った。
「……なあ、一ついいか?」
視線が集まる。
「集中すれば……精神干渉を受けてる人間がなんとなくわかるよな?それを見れば犯人がわかかると思うのだが」
「え?」
「どういうこと?」
セフィラさんとノアが同時に声を上げる。
「魔力が……こう、胸の辺りにモヤみたいに見えるだろ?で、操られてる場合、そのモヤから細い線みたいなのが伸びて、術者まで繋がっている」
自分で言いながら、少し居心地が悪くなる。
今まで、当たり前だと思っていた感覚だったのだが……。
「襲撃してきた猫背の男からも、それが見えた。だったら……エルグ司祭を見れば、操られてるかどうか、すぐわかるんじゃないか?」
一拍。
「…………」
「…………」
二人は、完全に固まっていた。
「……ちょっと待って」
最初に動いたのはノアだった。
「それ、普通の魔術師には見えないわよ?」
「え、そうなのか?」
「見えないね」
セフィラさんも即答する。
「精神干渉の痕跡を“視覚的に”捉えられるなんて聞いたことがないよ」
セフィラさんは、じっと俺の顔を見つめたあと――突然、ぱっと表情を輝かせた。
「……ノアちゃん!」
「な、なに?」
「あなた、とんでもない逸材を見つけたわね!?」
「え!? ちょ、ちょっと、そんな急に――」
「天然の精神干渉魔法使いなうえに、干渉状態を視認できるなんて!彼、ほぼ対精神戦の切り札じゃない!」
セフィラさんはテンション高くまくし立てる。
今にもノアに抱きつきそうな勢いだ。
「ノアちゃんの嗅覚、優秀すぎない? さすが天才!最高の後輩!」
「だ、だから! そういう言い方やめてっていつも言ってるでしょ!」
ノアは顔を赤くして、ぷいっとそっぽを向いた。
明らかに照れている。
「……?」
俺だけが状況を完全に理解できていなかった。
ただ、何か役に立てそうだ、ということだけはわかる。
「俺にできることがあるなら、使ってくれ」
セフィラさんはにっこり笑った。
「すでに戦闘部隊の人たちには連絡してあるから、仲間が揃ったら教会に突撃ね!」
これで一気に畳み掛けられると喜ぶセフィラ
「全員で行くのか?」
「うーん、最後は班長次第だと思うけど、私の魔法は守備寄りだから、多分リナちゃんとお留守番かな」
「今日みたいな戦闘にリナを巻き込むのは危険だから、そうしてもらえると助かる」
「任せてよ。こう見えても諜報と籠城防衛には自信があるんだ。リナちゃんはバッチリ守ってあげるよ」
セフィラさんが腕を曲げて力こぶを作るポーズを取る。
リナを見ると少し残念そうな顔をしていた。しかし、こればかりは譲れない。
「リナ、必ず事の次第は話す。だからここでセフィラさんと待っていてくれ」
「ユーマ……」
きっと、本当はついて行きたいのだろう。
「うん。私は力になれないからね。怪我しないで、気をつけてね」
リナはそんな思いを押し殺したような笑顔でそう言った。
想いを託された。そんな気がした。
「さて、今日はもう遅いわ。とりあえず今日は休みましょう」
窓の外を見ると、すっかり夜は更けている。
セフィラさんは俺とリナを見る。
「二人とも、安全のためにしばらくは白鹿亭に泊まってもらうわ。すでにそれぞれ部屋は取ってあるから、後で案内するね」
こうして、長い一日はようやく終わりを迎えた。
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