共同戦線
「つまり……」
リナは指を折りながら、混乱した表情で言葉をまとめようとする。
「ノアさんたちは、辺境ルミネで起きてる精神干渉魔法の事件を追っていて……ユーマは実は精神干渉魔法の使い手で……ノアさんはユーマを監視していて……そんな中突然何者かに襲われた、ってこと……?」
「……そういうことだ」
ひと段落ついた俺たちは、これまでの経緯を包み隠さずリナに説明していた。
一気に情報を叩き込まれたせいか、リナの頭からは今にも煙が立ち上りそうだった。
俺たちが今いるのは、白鹿亭。
王都から派遣されてきた対魔管理局の面々が拠点としている宿で、ここは当初ノアが利用していた場所でもある。
「……うぅ、ちょっと待って……今、整理してるから……」
リナは額を押さえ、深く息を吐いた。
「……とりあえず、ユーマが悪い人じゃなくてよかった……」
そう言って、安堵したように肩を落とす。
リナが一息ついたのを見計らって、次は俺が疑問を口にした。
「犯人がわかってるなら、どうして俺はここに連れてこられたんだ?『止まり木』の様子も気になる」
「ごめんね〜。それも今から説明するから、ちょっと待ってね」
間延びした声でそう言うと、セフィラさんはスケッチブックを持ってきて、さらさらと何かを書き始めた。
「結論から言うとね」
彼女はページをこちらに向ける。
建物と人が描かれており、ところどころに線や短い文章が書き込まれている。図を使って解説してくれるようだ。
「今夜の襲撃は、ユーマくん……正確には、精神干渉魔法の“使い手”を確認するためのものだった可能性が高い」
「……どういうことだ?俺はこれまで、この魔法について誰かに話したことはないぞ」
それこそ、リナやナナミさん、ルーク兄さんにもだ。
「ここからは、あくまで調査に基づく予想だけどね」
セフィラさんは淡々と続ける。
「犯人は、精神干渉魔法のテストとして小さな事件を起こしながら、少しずつ“駒”を増やしていた。その過程で――偶然、ある異変に気づいたの」
「異変……?」
「すでに精神干渉を受けている人間がいたのよ。
しかも、それは自分のものじゃない」
セフィラさんは視線を俺に向けたまま、続ける。
「精神干渉魔法は上書きできない。
つまり犯人は、そこで理解したの。――この街に、自分以外の使い手がいるって」
「……なるほど」
精神干渉魔法を知っているからこそ、逆算的に同類の存在に気づいたというわけか。
「でも、まだ誰が使い手なのかまでは掴めていなかった。それを特定するために、その現場と、そこに関わる人間を洗い出した」
「それが……『狩人の止まり木』だった、ってわけか」
セフィラさんは小さく頷く。
「そしてこの襲撃で、精神干渉魔法の使い手は君だと認識されたと思っていた方がいい」
あえて操られていない者を混ぜた襲撃も、相手の反応を見て、使い手を炙り出すための網だったのだろう。
その意味では、俺はまんまと釣られてしまったということになる。
「話を戻すね」
セフィラさんはスケッチブックを閉じた。
「今、ユーマくんを保護しなきゃいけない理由。
それは、犯人にとって君が最も厄介な存在として認識されてしまったから」
彼女は、少しだけ笑った。
「自分と同じ魔法を使える未知数の存在。放っておく理由がないでしょう?」
「……理解した」
「それにさ」
セフィラさんは続ける。
「君だって、このまま何も知らされないまま、私たちが全部片付けるのは嫌なんじゃない?」
「……!」
「ここからは君次第だよ。全良な精神魔法使いが力を貸してくれるなら、すごく心強いんだけど……」
彼女はにやりと笑った。
「一緒に犯人、捕まえに行かない?」
俺は普段、平穏を何よりも望んでいる。
普段なら、こんな誘いに乗ることはなかっただろう。
……だが、自宅を、リナを、そして『止まり木』を踏みにじられた今――
黙って引き下がるつもりはなかった。
「こちらからも頼む。連れて行ってくれ」
「よし、共同戦線だ。よろしくね」
セフィラさんが手を差し伸べる。
「こちらこそ、よろしく頼む」
俺はその手を握り返し、共同戦線に合意した。
横に目をやると、ノアと視線が重なる。
ノアは柔らかな笑みを浮かべて、
「なんだか、不思議な気分ね。
監視対象だったあなたが仲間になるなんて」
「何を言ってるんだ?」
「へ?」
「一週間と少しとはいえ、ノアも『止まり木』で一緒に働いたんだ。
俺たちはもう仲間だろう?」
「……っ」
なぜか驚いた表情をしているノア。
そのあとは、嬉しがっているような、嫌がっているようなよくわからない表情をしている。
「それに、『止まり木』の襲撃を対処してくれたのはノアだ。それだけで、俺はいくら感謝しても足りないくらいだ」
「べ、別に私は任務として『止まり木』にいたんだから、潜入先に危害が及ばないように努めるのは当然よ!」
「それでも、だ。ありがとうノア。改めて礼を言わせてくれ」
「あーもう! わかったから!わざわざそんなこと言わなくていいわ!」
「いや、しかしだな……」
「だから、そういうのは……!」
「はいはい、二人ともそこまで」
しばらく押し問答が続き、セフィラさんが止めに入った頃には、ノアの頬はすっかり赤く染まり、そのオーラは毛を逆立てた猫のようになってしまった。
……怒らせてしまったかもしれない。
あとで反省しておこうと思った。
しばらく毎日お昼の12時更新予定です。
よろしければブックマーク・高評価・コメントよろしくお願いします!




