朝礼でのaccident☆
朝9時。
営業部フロアに全員が揃い、いつものように朝礼が始まる。
部下A「では、加藤課長。ご挨拶をお願いします」
加藤課長は堂々と前に立つ。
威厳そのもの…のはずなのに、部下たちはすでに内心ざわついていた。
(今日の課長…ちょっと機嫌よさそう…?)
(いや、耳の角度が…なんか可愛い…)
もちろん言えない。
言った瞬間に終わる。
加藤課長「おはようございます。本日は――」
その時だった。
カサッ……
朝礼スペースの端で、誰かが紙袋を動かした音がした。
加藤課長の耳がピクリ。
ほんの一瞬だが、誰もが見た。
(……動いた…?)
(やばっ、可愛い……いや違う、課長!課長だから!!)
(私の集中力が終わる…!やめて…!)
加藤本人はまったく気づいていない。
気づくはずがない。威厳の塊だ。
加藤課長「本日は15時から、社長が視察に来られます。各自、応対の準備を――」
再び、カサッ。
今度は紙袋の中から、パンの甘い匂いが漂ってきた。
加藤の目が、一瞬だけ細くなる。
(……甘い……)
完全に無意識。
心の声は本人にしか聞こえない。
が、その一秒の“間”が、部下たちには衝撃だった。
部下B(今…絶対、匂いに気を取られたよね!?)
部下C(明らかに可愛い…いやちがっ…落ち着け私!!)
部下D(課長が匂いに気を取られるとか尊…あっいや仕事中!!)
しかし加藤課長はすぐに平静を取り戻す。
加藤課長「――というわけで、以上です。何か質問は?」
「「「……ありませんっ!!」」」
皆の声が揃いすぎて逆に不自然。
加藤課長は首をかしげる。
加藤課長(今日は妙に反応がよい…。
いや、部下が優秀なのは良いことだ。うむ。)
満足げに頷いた瞬間――
ぽとっ
後ろの机から、ペンが一本落ちた。
その音に、加藤課長のしっぽ(※想像)が反射的に跳ね上がる勢いで、身体が一瞬だけピンッと伸びた。
部下たち(やばいやばいやばい!!!)
部下たち(今の可愛さは反則!!!)
部下たち(でも声に出したら終わる!!!!)
朝礼の緊張感はどこへやら。
みんな心の中で絶叫していた。
加藤課長は気まずそうに咳払いを一つ。
加藤課長(驚くのは、いけないことではない。
ただ…もう少し、落ち着かねば…)
本人は必死に威厳を保とうとしていた。
部下たちは思う。
(課長…必死で可愛い……)
(いや違う!必死で“偉い”の!)
(でも可愛い……)
(違う違う違う!!)
朝礼終了の声がかかった瞬間、全員が一斉に散っていった。
誰も気づかないフリに全力を注ぎながら。
加藤課長だけが、堂々と胸を張ってフロアに戻る。
加藤課長(よし。今日も完璧だ)
――完璧に可愛いと思われているとは知らずに。




