課長と残業
夜19時。
営業部フロアには、昼の喧騒とは違う静けさが広がっていた。
今日も締切前で、部下たちは残業中。
そして——
その静寂を破る、ふわ…ふわ…とした影。
ミスティ課長、残業見回りのお時間である。
課長「……ふむ、まだ仕事が終わらんのか」
佐伯「す、すみません課長!今日ちょっと立て込んでて!」
山根「はい…資料の確認が…!」
課長は“シャム猫とは思えない重みのある視線”を部下たちに向ける。
しかしその尻尾は、ゆら…ゆら…と柔らかく揺れている。
佐伯(心の声:尻尾で癒やしてくるのやめて…!集中力が死ぬ…)
山根(心の声:威厳あるのに尻尾は完全に天使…!)
課長はトコ…トコ…とデスクの上に飛び乗り、資料の山を見下ろす。
その姿、どう見ても“ふわふわした猫が紙に興味持ってるだけ”なのに
部下たちは真剣に見守る。
課長「……この書類は、まだチェックが甘いな」
佐伯「ひっ…すみません、明日までに修正します!」
課長は前足で書類をちょい、と押す。
佐伯(心の声:その“ちょい”がかわいいのよ!!叱られてるはずなのに癒される!!)
課長は気にせず、佐伯のマグカップの横を通る。
微妙に身体が当たって、
ちょん…とマグが揺れた。
山根(心の声:あ…かわいい…いやいや仕事しろ俺!)
課長「コーヒーの飲みすぎは良くないぞ」
佐伯「は、はい…!」
(心の声:たぶん、当たった拍子に揺れただけ…だよね…?)
課長は次に複合機の前へ向かう。
においをクンクン嗅いでいる。
課長「……この機械、今日の稼働率が高いな」
山根(心の声:いや課長、それただの“猫が初めて見る物を警戒してる顔”…)
しかし山根がそのツッコミを口に出すことはない。
命が惜しいからだ。
課長「山根、スキャンは終わったのか?」
山根「あっ、はい!あと少しです!」
課長は複合機の横で座り込み、
前足で自分の顔を洗い始める。
シャッ…シャッ…
課長の毛繕いタイム。
部下の集中力が一気に死ぬ。
佐伯(心の声:あー!!顔洗ってる!!かわいすぎる!!なんで職場でそんな反則行為!!)
山根(心の声:“残業の見回り”というより“癒しテロ”…!!)
課長は毛繕いを終えると、
ケーブルや段ボールをじっと見て、
コンセントの影にトコトコ入っていく。
佐伯(心の声:やめて課長!!危ないから!!)
しかし課長は威厳たっぷりにこう言った。
課長「配線チェックだ。事故防止が大事だぞ」
山根(心の声:絶対ただの“暗い場所が好きな猫の行動”…!!)
その後、課長は部下たちの机を巡回し、
書類を前足でトントンし、
キーボードの上を歩き、
デスクライトの明るさに文句をつけ、
時々、コピー用紙の箱の上に乗って休憩した。
佐伯はそっと呟く。
佐伯「……課長って、ほんとすごいですよね」
山根「うん…あの…なんていうの…可愛いけど、威厳あって…」
2人(心の声:けどやっぱ、ただただ可愛い……!)
そんな部下の気持ちなど知らず、
課長はコピー用紙の箱の上で
ふわふわのお腹を見せながら寝転がっていた。
課長「む……すまん、少し休憩だ」
佐伯(心の声:それ完全に“猫の寝落ち”!!!)
山根(心の声:可愛すぎて仕事どころじゃない!!!)
しかし、部下たちは気づいていない。
その“寝落ち5分”こそが、
部下の残業ストレスを根こそぎ消し去る最強の休憩タイムであることに。
課長は寝返りをうちながらつぶやく。
課長「……ふむ、残業も悪くないな」
部下二人(心の声:いやアンタが可愛いからだよ!!!)




