ランチTimeは地獄と天国
昼休み。
営業部フロアには、静かなざわめきと、ほんのりした緊張感が漂っていた。
理由はひとつ。
今日は——
ミスティ課長が社員食堂に降臨する日だから。
佐伯「山根…覚悟はいい?」
山根「うん…今日も平常心で…いられる気がしないけど…」
佐伯(心の声:だって…あの見た目で食堂に来るんだよ…?猫がごはん食べに…いや課長だけど…)
山根(心の声:先週なんて、隣の女子社員が“キレイ…”って泣きそうな声出してたし…)
ガチャッ。
エレベーターが開く。
フワッ…と、気品あるシャム猫が姿を現した。
青い瞳、きゅっと揃った前足、すべるような足取り。
ミスティ課長、堂々の入場。
課長「今日はカレーの日だろう? 行くぞ、佐伯」
佐伯「は、はい!!」
山根(心の声:カレーの日に嬉しそうなのやめてほしい…そのしっぽの揺れ…破壊力…)
社員食堂は、ざわ…ざわ…!と騒ぎ出す。
社員A「ミスティ課長…!」
社員B「今日も神々しい…」
社員C(心の声:なんで“猫が食堂に来る”ってだけでこんな癒やされるんだ…?)
課長はそんな視線など気にせず、
「並べ」と言わんばかりに前足をトントンと床に置いて並ぶ位置を示す。
佐伯(心の声:トントンが可愛すぎて死ぬ…)
山根(心の声:あの仕草、絶対威厳のつもりなんだろうな…かわ…っ)
食堂のおばちゃんが、課長を見ると微笑む。
おばちゃん「はい、課長さん。いつものですか?」
課長「うむ。いつもの頼む」
“いつもの”とは、カレー大盛り。
しかし課長はシャム猫なので、小さなお皿で出てくる。
(猫が大盛りは無理だからだ)
山根(心の声:小皿にちょこんと盛られたカレー…似合いすぎてる…)
佐伯(心の声:課長、全然気づいてない感じがまた良い…)
席につくと、ミスティ課長はまずスプーンを見つめる。
そう、課長はスプーンが使えない。
毎回、謎の“猫用アタッチメントスプーン”を佐伯がセットするのだ。
佐伯「課長、スプーン装着しますね」
課長「うむ」
部下が課長の前足にパチンとスプーンをつける。
周りはもう悶絶。
社員D(心の声:部下が課長の前足にスプーンつけてるの可愛すぎる…)
社員E(心の声:あれ写真撮りた…いやダメだ…仕事…仕事…)
ミスティ課長は堂々と一口。
ペロッ。
佐伯(心の声:ああーーーかわいいーーー!!!)
山根(心の声:威厳ある顔でペロッてするギャップやばい…)
課長「……うむ。今日のカレーはスパイスが強いな」
食堂全体(心の声:コメントかわい…!)
課長は食べながら部下に指示を出す。
課長「午後は資料の確認をする。まとめておけ」
佐伯「はい!」
山根「了解です!」
だが、
課長「それから……ん…む」
スプーンが外れて、カレーが前足につく。
佐伯(心の声:うわ…ついた…ついたけど…かわ…)
山根(心の声:ふぉぉぉ……かわい……っ)
課長は気にせずぺろぺろと前足をきれいにする。
食堂の空気は、社会人の昼休みではなく
“癒やし系動物カフェ”みたいになっていた。
課長「何をぼうっとしている? 食べるのが遅いぞ、お前たち」
佐伯「す、すみません!!」
心の中(課長が可愛すぎて集中できるわけがないんです!!)
午後の業務を前に、
営業部のふたりのHPはすでに“癒やされすぎてゼロ”になっていた。
それでも、
ミスティ課長は今日も威厳たっぷりに、堂々と歩いていく。
自分が“癒やしの破壊兵器”であるとは露ほども知らずに——。




