課長、今日も青い瞳で指示をする
朝8時45分。オフィスの自動ドアが開くと、ひょこひょこと歩くシャム猫が現れた。肩には小さな革鞄、胸には社員証。青い瞳がきらりと光り、耳をピンと立てながら歩くその姿に、社員たちは自然に頭を下げる。
「おはようございます、課長!」
部下たちは皆、声を揃えて挨拶する。視線は課長としてしっかり見据え、可愛い猫だから癒されているなんて自覚はない。
加藤課長は机に向かいながら軽く鳴いた。高い声で「ニャッ」と一声。部下は瞬間的に振り返るが、すぐに気を取り直す。
「今日の資料、チェックしておけ」
佐々木はメモを取りつつ、課長の動きに無意識に目を追ってしまう。机の上で毛づくろいを始める青い瞳の課長に、ほんの一瞬、心がふわりと和む。
「課長……その、手の動き……なんか、見てて落ち着きますね」
加藤課長は真面目な顔で振り返る。
「落ち着け。仕事に集中しろ」
部下ははっとしてペンに手を戻す。しかし課長が次の瞬間、椅子の背もたれにしなやかにジャンプして乗ったのを見ると、思わず笑いそうになる。
「……課長、机の上歩くの早すぎませんか!」
加藤課長は胸を張って威厳ある姿勢で机に座り直す。
「迅速に、効率よく、だ。猫だからとか関係ない」
部下たちは真面目に頷くが、猫のしなやかな動きに、仕事の合間にちょっと心が緩む。
昼休み。課長は社員食堂で椅子の端に座り、部下が用意した資料を覗き込む。膝に乗ってゴロゴロ甘える仕草は見せず、あくまで課長としての姿勢を貫く。だが、青い瞳で見つめるだけで、部下の心はほっこりする。
「……課長、なんか安心しますね」
「え? 安心?」
「はい、課長としてじゃなくて……なんか、猫として…」
加藤課長は無言で前足を揃えて座り、顔を少し上げる。威厳ある課長として振る舞っているつもりだが、その姿は確かに可愛く、部下の心を癒すのだった。
午後の会議でも同じだ。課長は資料を指さしながら部下に指示を出す。毛を揺らしたり鳴いたりは一切ないが、青い瞳の輝き、猫らしい仕草が、部下の集中力をそっと和らげる。
「課長の言う通りですね…!」
誰も課長を「可愛い」とは口に出さない。しかし全員が無意識に、ちょっと癒されている。加藤課長はそれに気づかず、今日も威厳ある課長として仕事をこなす。
夕方。オフィスに一人残る課長は、机の上で資料を整理しながら、今日の仕事を振り返る。部下たちは帰宅し、誰も猫の可愛さに言及していない。しかし、無意識の癒しは確かに残っている。青い瞳を細めて毛を整える課長。
「今日も、完璧に課長だったな」
可愛い猫の姿で、威厳ある課長として振る舞い、知らず知らずのうちに部下たちを癒す。それが猫課長・加藤の日常だった。




