課長と職場
朝8時45分。
加藤課長はオフィスのドアを押し開ける。
今日も部下たちが揃っているか確認するのが日課だ。
(皆、まだ眠そうだな…)
課長の視線は鋭い。威厳を保つため、目はしっかり開けている。
でも尾(※想像)は少し揺れている。
「今日も一日、しっかり指導せねば…」
部下の佐伯が書類を整理している。
その手際は悪くないが、目線がたまに課長に向く。
加藤課長は気づいている。
(ちらっと見ているな…集中力を保て、佐伯)
次に山根がコーヒーを淹れている。
香りが漂う。
加藤課長(心の声:ふむ…香りの調整は悪くない。だが仕事の邪魔にはならぬように)
課長は自分が可愛いなどとは微塵も思っていない。
ただ、部下たちの仕事が円滑に進むかどうかだけに集中している。
午前中の会議。
課長は机の端に座り、資料を前足でちょいっと押す。
(人間から見れば可愛いかもしれないが、これはただ効率的な配置だ)
部下たちはひそかに息を呑む。
(課長…やっぱり猫っぽくて可愛い…!)
加藤課長は気づかない。
威厳を保つため、ひたすら真剣に書類と向き合っているだけだ。
昼休み。
課長は自分の席で書類整理中、ふと窓の外を見る。
(天気が良い…午後からも部下たちにしっかり働いてもらおう)
資料に頭を突っ込んでいる間、部下の加代がちらっと課長を見ているのを感じる。
(見られている…集中せねば…)
でも課長は「自分が可愛い」とは一切思っていない。
ただ、今日の目標を達成するために全力を注ぐのみ。
午後の外回り。
加藤課長は颯爽と歩く。
猫らしいしなやかさは無意識。
部下たちが内心ざわつくのも知らない。
(今日も完璧だ…)
心の中でそう思いながら、書類を片手に軽やかに歩く。
威厳は絶対に崩さない。
夕方。
フロアに戻ると、部下たちが黙々と作業している。
目線を確認しながら、軽く前足を動かして書類を整える。
(微妙な仕草かもしれないが、業務上の必要な動きだ)
部下たちは完全にノックアウトされている。
課長は気づかない。
なぜなら、今日も目標を達成したことしか頭にないのだ。
退社前。
フロアを一周して、書類や資料の最終確認。
(明日も部下たちがしっかり仕事できるように…)
そして、自分が猫っぽく見えるかどうかなど、考えもしない。
加藤課長は胸を張ってオフィスを後にする。
部下たちの心に残るのは、威厳と可愛さが絶妙に混ざった、ギリギリの尊さだけである。
――加藤課長目線では、今日も完璧な一日が終わったのだった。




