ある朝、目覚めたら……
ある朝、目覚めたら目が見えない。
おかしい。瞼は開いてるはずなのに、真っ暗だ。
手探りでスマホを探しあて、電源ボタンを押してみたがやっぱり点いたのが見えない。朝だと思ったけどまだ真夜中で、スマホは充電が切れてたのかな? あたし、ボケだからな……とも思ったが、うっすらとすら何の影も見えないのはやっぱり変だ。
目を触ってみると、眼球がふたつともなかった。
そういえば最近、お医者様に言われてたっけ──
『眼圧の数値が異常すぎます。あんまり毎日お酒ばっかり飲んでいたら、そのうち眼球が破裂して何も見えなくなりますよ』と。
そっか……
その場では『そんなことあるわけないでしょーww』と笑い飛ばし、これだけがあたしの生きてる意味とばかりに毎日10杯以上のハイボールをアルコール摂取欲全開で飲んでたけど、ほんとうにこうなったんだ。
手探りで破裂した眼球を探すと、確かにサザエの中身みたいなヌルヌルしたものが二つ、手に触れた。
後悔、先に立たず──
どうしよう……
これじゃ大型トラックドライバーの仕事はもちろん続けられないだろうし──
スマホも見られないから、趣味の小説投稿サイトも続けられない。
途方に暮れていると、すぐ横のほうから女性の声がした。
「だからあれほど言ったのに……」
「美沙!?」
その陰気なジトジトした声に聞き覚えがあったので、あたしは友達の名前を口にした。
しかし声の主は否定した。ゆっくりと首を横に振る気配とともに──
「私の名前は死野霊子」
なぜだか音だけで漢字までがわかった。
「誰だかわかんないけど……」
あたしはお願いした。
「お願い。目が見えないの。救急車を呼ぶこともできないの。車を運転することもできないし、歩いて外に出たらたぶん、車に轢かれちゃう……」
「……それで、どうしろと?」
「えっ?」
「『お願い』とか言われても、それでは何をしたらいいかわからないわ。具体的に何がしてほしいの? それを言いなさい」
あたしは頭に浮かんだことを口にした。
「目を見えるようにして?」
「了解」
ぱっと灯りが点くように、明るくなった。
いつもの自分の部屋が見えた。いつも通りの汚部屋だ。ペットボトルや酒瓶が床に散らばっている。
「ありがとう、霊子!」
霊子の顔を見て、あたしは悲鳴をあげかけた。
霊子は目も鼻も、手も足もすべてない、芋虫だった。
「後悔するなら先にしなさい。今ならまだ間に合う。遅くはないわ」
言い聞かせるように、歌のようにそう言うと、霊子は消えた。




