ハロウィンの祭り”王都アンダルシア”編
「トリックオアトリート!」
子供たちが思い思いの仮装をし、家々を周る。今日は年一度の収穫祭で、今年の収穫の感謝と来年の豊穣を願う催しが開催されている。子供向けにはトリックオアトリートといってお菓子を貰う日として王都は賑やかになっていた。メインストリートは華やかに彩られ、パレードも開催される。
「精霊召喚!」
パレードカーの上から王国魔導士や祈祷師が植物の精霊を呼び出し、観客から歓声が沸き上がる。昼過ぎに始まったパレードは王都を夜にかけて一周する。呼び出された精霊も、カボチャなどの被り物をして召喚される。それらも今日は特別な日で、精霊王への祝福の意を込めて仮装してパレードへ現れた。
「さぁさぁ今日は大放出だよ! 野菜果物なんでもあるよ! お、精霊さんはなんか持っていくかい!」
露店の野菜売り、果物売り。所謂八百屋と呼ばれる商人は自らの収穫品を安価で販売する。法令でいつもは市場の売値は管理されているがこの祭りの一日だけは市場価格以下での、尚且つ流出制限の一時撤廃が許されているため、売る側買う側双方のかき入れ時となる。最たる意味は、収穫されたものを余すことなく流通させ、来年の豊穣を神に願うことでそれにあやかっている。
「トリックオアトリート!」
聖堂の扉を開け、数名の子供が中に入ってくる。この聖堂は国で一番大きく、国教であり国民の9割以上がこの神を崇めている。一番奥にジンジャークッキーをカゴに入れた神父が子ども達に手招きをする。
「よくいらしました。お菓子をあげる前に、豊穣神への祈りを捧げましょう」
「はーい!」
聖堂でお菓子を貰うには神父と共に豊穣神へ祈りをささげ、神父の言葉を繰り返す。
「主よ、今年の豊穣へ感謝を示すとともに。願わくば来年の豊穣の祈りを聞き届け給え」
仮装した子ども達は膝をつき、手を組んで繰り返した。その様子を見た神父はにこやかに声をかける。
「ではみなさん、今年も聖堂からはパンプキンクッキーをお配りします。それとこのチャームを一緒に持っていきなさい」
聖堂の裏手には畑があり、そこで神父やシスターなどの従者の食事を賄っている。中から毎年違ったお菓子が製造され、豊穣の祈りと子供を対象に悪魔除けの祈りの意味も込めて神父から魔よけのチャームを配っている。チャームはシスター達の精製魔法によって、王都のおおよその子供の人数分製造される。
神の加護が付いており、悪夢や王都郊外で魔物に襲われた際に効果を発揮し天使が子どもの助けとなる。実際に起きた子どものモンスター遭遇件数に対し、冒険者や衛兵の助けが来るまでチャームを持っていた子は天使が攻撃を防ぐ防御魔法を展開している。
「よいですか? 天使や主の加護は日ごろの信仰によって顕現します。毎日近くの教会などで祈りをささげましょう」
聖堂を後にする子どもに最後の言葉をかけて見送る。その後、数件の家を周りお菓子をカゴ一杯にした子どもは、家に帰る。パレードのにぎやかな音楽が遠くに聞こえる夕暮れだった。
「ただいま!」
「おかえりなさい。今年もたくさんもらったのね」
「うん、クルシュちゃんと。フェルネッタちゃんと、キスカくんと聖堂にも行ってきたよ!」
「今年のチャームは緑で綺麗ね。外に出るときは必ず持っていくのよ」
帰った子どもと母親は談笑している。父は王国音楽隊の一員としてパレードで演奏をしているため、帰ってくるのは夕食のころになるだろう。その食事も、母が今仕込みをしている。昨日の夜から豊穣際のためにお菓子を作っているため、食事はどの家庭もやや遅めになる。
と、家の扉がコンコンコンとノックされる。母親は火の番を娘にお願いし、作ったお菓子をもって扉を開ける。外には思い思いの仮装をした子ども達が集団で家の前にいた。
「トリックオアトリート!」




