Ⅰ 婚約破棄with宇宙
「本当によろしいのですか?」
「もういいのです。疲れました」
キラキラとラメが輝く黒髪を夜会巻きに結い上げたまま、正装姿のマントを外し、姫様は椅子に身を委ねた。
「姫様・・・」
お労しい。
この小型の専用機に乗っている人員は4人。
この第3エリアと呼ばれる空域はジュベルジエオ連立王国といい、8の惑星国家の共同体である。
12年盟主であったアルディオ家がこの度の星争で交代し別家に盟主を明け渡したのです。
その新たな盟主となったのは姫様の婚約者の御家でした。
1人娘だった姫様に婿入り予定だったその男は、自分の生家が盟主の御家になったその日に、姫様に婚約破棄を告げたのです。
「フィーリア・レミファン・アルディオ。婚約は破棄だ。政略価値が無くなった今、私は真に愛する人と結婚」
と、盟主の就任祝賀会で衆人環視の中のたまいおったのです。
男の傍らに居たのは、男と同じ一族のグラマラスな、乳と尻のデカい女でした・・・ウエストは細くありませんが。
その女は姫様を見て鼻で笑ったのです。
スレンダーなのが姫様の魅力なのです!
姫様の肩幅はあんたの3分の2だし、身体の厚みとウエストは半分だから!
「ではご創建にフィーリア嬢。貴女の聴こえない声が誰かに届けばな」
元婚約者が言うと、笑いの渦が拡がっていくのを姫様を庇いながら退出しました。
姫様は口を開き何かを言っても誰にも届きません。
散々な祝賀会を終えて、惑星に戻ると、父たる御当主様の急逝。
あれよあれよと言う間に、新当主は折り合いの悪い従兄弟となり、姫様は決断されたのです。
「わたくしはこの国を・・・この世界を出ます」
静音システムを最大に施した特別仕様の宇宙船で姫様はおっしゃいました。
「ここの世界でわたくしの声はどうあっても届かないのです」
姫様のお声は不思議なことに雑音に混ざってしまう周波数で、人混みや図体も声量も多い場所ではかき消されてしまうのです。
宇宙のような煌めくセミロングに、第3エリアでは小柄な姫様はどうあっても大人しく見え印象が弱いのです。
私は、マナ。
姫様の護衛侍女。
宇宙のような果てまでもお供いたします。




