ガールズクロスライン第1話(夜) 朝と夜のあいだに見える街
気がつくと、僕は見知らぬ街の入口に立っていた。
足元は雪に覆われ、空気は凍えるほど冷たい。吐く息が白く舞い、頬を刺す風が吹き抜ける。
見上げた空には、緑色の光が揺れていた。オーロラ、そう呼ぶしかない幻想的なカーテンが、夜空いっぱいに広がっている。
その下には、巨大な構造物がそびえていた。空に浮かぶ城のような円盤状の都市。無数の灯りが瞬き、下層の工場群からは白い蒸気と炎が立ち上っている。遠くで爆ぜる音が響き、街全体が生き物のように脈動していた。
「ほら、遅刻しないで、間に合ったでしょ」
声のする方を振り返ると、そこには朝と同じ笑顔があった。
白い髪、澄んだ瞳。寒さの中でも頬はほんのり赤く染まっている。
彼女は僕の手を取ると、ためらいもなく雪道を駆け出した。
走りながら、僕は気づく。朝に見たカモメの群れと、夜空のオーロラの光は、不思議なくらい同じ色をしている。
もしかしたら、あの朝からすべてが繋がっていたのかもしれない——。
彼女の笑顔が、僕を夜の街へと引き込んでいく。
背後では、氷と炎の街がうねりを上げていた。
そして僕は確信する。この世界には、朝と夜のあいだにだけ開く扉がある。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
この物語は、朝と夜という二つの時間を行き来しながら進む連作短編シリーズです。
朝は日常、夜は幻想世界、同じ登場人物が異なる顔を見せる瞬間をかいていきます。