とある日
「伊藤君、怪談と言うか都市伝説の収集はどうだい?」
「そこそこです。記事としてはページを作るまでには持っていけますし、ホラーとしてもいい娯楽になると思いますよ?」
「そうか、一部を読ませてくれると嬉しいかな?流石に部長として現状把握は必要だからね。それに持ちかけた側としても記者にまいられては困る。」
「大丈夫ですよ、元気に毎日過ごしてますしね。」
「違うよ伊藤君。心霊写真なら意味は僕達が好きに付属して勝手に当てはめればいい。集合写真なら誰かに思いがあった、その行事の前に不幸があって参加出来なかった。或いは・・・、その場にいなかった事に未練があったとね。でも文章として読ませる物では受け取りて側に全て依存してしまう。」
「共感ってやつですか?俺は怖い話を商品としてしか見てませんよ。読者が怖がるならそれは両作だし、荒唐無稽でもどこかに『もし』があればデジャヴも起こるでしょう?」
「う〜ん・・・、伊藤君は自分を部外者として置こうとしてるけど、本当にまずい文章と言うのはあるよ。例えばドグラ・マグラとかね。特に都市伝説と言うものは日常に潜むズレだからスルリと入り込んで無意識に認知してしまう。荒唐無稽であればあればある程それは認知されても娯楽に転換されるけど、逆に静かだと日常に潜み続け違和感として残り続ける。」
「脅かさないでくださいよ部長。潜んでも理由が分かればコレはアレだと解釈出来るでしょう?」
「解釈か・・・。うん、そうだね。確かに本人がそうだと解釈すれば消える恐怖は多い。でも、伊藤君。ならのなんで左側にマグカップを?君って右利きでしょう?」
そう言われれば確かに俺は左側にマグカップを置いている。多分日比野が全部悪い。あの怪談と言うかテスト?を読んでから無性に右に気を割く事を嫌に感じる。それが誘導なのか仕掛けなのかは分からない。分からないが利き手側に何かあると思わせる方便としては成功してるんじゃないか?
何かを向か掴む時、手を伸ばす時、或いは自由に事をこなそうとする時。利き手は自由に動き最適な結果を出しやすい。だがそこに何かあると思わせれば使う手は逆になり、不自由なら左手を意識する。PC全盛期とは言えペーパー書類後ないわけでもないし、書類がないわけでもないなら利き手で書く。そうなると必ず右側に意識が向く。
「ちょっとした意識改革ですよ。両利きなら不自由もなくなるし、署名も楽でしょう?」
「確かにそうだけど気をつけなよ?ただの編集者ならひたすらに客観的に判断すればい。でも、内容理解が必要なら無意識に共感や恐れを抱く。都市伝説と言うのは娯楽であると同時に『あり得るかも?』と思わせる部分がある。例えば昭和初期の話と前置きされているならそんな事もあるかもと思わせる。でも、スマホに非通知の着信がありうっかり取って奇妙な声を聞いたなら今の人は『あり得るかもかも?』と思ってしまう。そうだろう?」
「同意を求めて怖がらせるのは辞めてくださいよ部長。最近はアドレスのみ着信を許すとかの設定もあるんですよ?」
そうは言いつつもそれはメールやSNSメッセージ等で知らない番号からの着信を完全に拒否する事はない。海外からの着信ならある程度拒否出来るがフリーダイヤルやら日本からのメッセージや着信ならね・・・。どうでもいいが深夜にあるものは会社から以外全てイタズラだ。無言電話とかそれが無言ならそうとしか思えない。
「ふ〜ん、それは知らなかった。でもその電話の先に本当に人がいるかは微妙だよね。」
「だから脅かさないでくださいよ。」
「?、何を脅しと受け取ったかは知らないかど詐欺の話だよ?オレオレ詐欺とか死言かな?」
「えっ?いや、そんな事はない・・・、かな?」
確かに部長が言う様に電話先の相手が本当本人かは分からない。コチラからかけていれば本人とも言えるかも知れないが、かかってきた電話先の相手は目にも見えなければ声だけで判断しなければならない。そうなると、確かに相手がいるのかもわからなくなるか。
だからこそに不意な着信には出ないし、電話番号を調べて必要ならかけ直す。そう・・・、知らない番号な必要ならかけ直す。部長との話を終えて仕事に集中しようとするが、日比野以外の都市伝説も調べなくてはならない。
電話まつわる都市伝説として有名なのはメリーさんか?電話がかかってきて取ると『私メリーさん、今〜』から始まる都市伝説。だんだんと近寄ってくるが、そもそも捨てられた人形はなぜ電話と言う手段を取ったのだろうか?
原文を考えるなら引っ越しの際に古くなった人形を捨てたから怪異は起こった。しかし、人形が電話をかけるとも思えなければ、そもそも単純に捨てられた人形が怪異となるならメリーさんは西洋人形、ビスクドールではなく縫いぐるみでもよかった。しかし、メリーさんはビスクドールであり電話をかけながら近寄ってくる。
ん?そう言えばメリーさんの声って何の声なんだ?少女?電子音?それとも・・・、なんかの録音か?まぁ、夜に知らない奴から電話がくれば警戒もするし最悪出ない。と、言うか昼でも電話番号調べてかけ直す。フリーダイヤル?そんなモノに構う必要はない。
「ん?日比野か。」
電話番号を教えたから掛けて来てもおかしくないが、日比野からこうして電話があること事態珍しい。そもそも俺と日比野は今は仕事を依頼する側とされる側でしかない。真っ昼間になんの用だ?
「もしもし?日比野か。どうした急に。」
「急?電話と言うものは急以外ありえない。サイレントモードでもバイブレーションでも、音を出していようと自分本位ではなく必ず他人から強要される。」
「日比野・・・、今はかけてくれってメールする奴もいるんだぞ?それで?」
「取る取らないの判断がそこで消えたな。取るしかないと言う状況に自分から足を踏み込んだ。顔の見えない誰かを信じてソレから掛かってくると。要件は報酬だ。回らない寿司を寄越せ。」
「あ〜、給料日後にな・・・。そう言えばメリーさんは知ってるよな?」
「メリーポピンズか?」
「違う。私、メリーさんの方だ。」
「くだらない話だな。」
「有名な話だぞ?」
「あれには欠陥がある。」
「欠陥?何だそりゃ。」
「単純な話だ。なぜ対象は電話に出るのか?その部分の理由が欠落しているし、連続で出る必要性もない。要はあの問いと一緒で一度出て気になったから再度出るを繰り返しているだけの条件反射に近い。」
「なら人形は?ゴミ捨て場から帰ってくるだろう?」
「それは母親だ。子に何度も電話を掛けてどこにいるか知らせる。そしてそれが親なら出ないわけにもいかない。アンチテーゼ的な話をするなら大人の自分、或いは電話に出る事が出来ると判断されたはずの自分を必要以上に監視する対象。それの象徴だろう。」
「象徴ねぇ。ならさしずめ今も母親は怖いものの象徴か?メリーさんの声も女性だろうしな。」
「家にいて子を怒るのは母親だ。ただメリーさんももう忘れ去られる都市伝説の部類だろう。」
「なんでまた。」
「舞台装置が既に足りないんだよ。あれは怪異が来る事で成立する。しかし、固定電話は少なくなりスマホなら持って逃げればいい。逃げ出す時に行くのは人が多い所だ。そして繁華街は常に明るい。結局母親の目は夜遊びしたと繁華街に行き怒られる。」
「さよか。あ〜、寿司は給料入ってから奢る。」
「分かった。ただ伊藤・・・、忘れるな形のない監視者はどこにでもある。では。」
そう言って電話が切られる。形のない監視者ね。いや、監視してるんだからカメラやらGPSだろ?確かに電波はないが・・・。なんにしてもメリーさんの話が急に怖くなくなった。まぁ、真っ昼間に怖い話をしても驚く所はない。
「伊藤さん、領収書くださいね?」
「おっ、おう!」
背後から急に経理の女性から声をかけられる。取材やらで使ったガソリン代のレシートやらは出しておかないと後からの請求は出来ない。デスクをあさり鏡付きのティッシュボックスを退かしたりして集めたレシートを経理の女性に差し出す。
自分で自分の顔を見てどうこうと言う話はないが、取材を考えるなら身嗜みは大事だからこうしてデスクに置いてるが、最後に見たのはいつだったか・・・。最近は編集とかで人と会うのは日比野くらい。
そんなティッシュボックスは若干ホコリを被ったのか汚れている様だから拭いておくか。持ち上げてティッシュで鏡を拭く。当然そこには俺の顔が・・・。どうせ何もない。ことりとティッシュボックスを置く。
あれ・・・、今は俺右手で鏡を拭いたけど右手が動いてなかったか?




