彷徨う幽霊 3 挿絵あり
日比野と話して数日。スマホの着信に見覚えのないない着信があると確認したらSMSで簡潔に『完成したから流す。スーパー店員の話だ。日比野』とメッセージが入っていた。簡潔なのはいいとして、その話を探す方の身にもなって欲しい。スーパーを題材にした都市伝説なんて数多くあるし、符号と言う話をするなら学校とも同類だろう?
ただでさえ日比野と別れた次の日に妹から今年の盆はどうする?とLINEが来て話し込んでしまった。結婚した妹は子供がいてその流れなのか俺にも結婚しないのかと聞いてくるし、しないと答えれば彼女はいるのかと、まるで親のように詮索してくる。まぁ、祖母が亡くなって両親が暇をしているから早く孫の顔を見せろアピールだろう。
妹は実家の近くに嫁いだので、両親が孫の顔を見に頻繁に来ると愚痴をこぼす。その孫が俺にも出来れば注意が多少なりとも俺の方に向くからだろうが、生憎と俺にそんな浮いた話はない。
日比野がよこしたメッセージの内容を元にネットで検索をかけ、投稿の新しいモノを探していくと正午きっかりに投稿されたスーパー店員の話が見たかった。さて、どんな話を作ったのか?元々乗り気ではないと言っていたので駄作の可能性もある。
そもそも文章で人を怖がらせるとはなんなのだろう?心霊写真特集なら、視覚に訴えた上でコメントで恐怖や気持ち悪さを引き出せばいい。例えばThis Manだ。大多数の夢の中に現れた男は、種明かしされた今なら怖くはないのだろうが、その真相が語られていないなら俺も好きにコメントを付けてホラーに仕立て上げる。
ただ、文章だけで怖がらせるとするなら・・・、その文章特有の匂いと言うモノが必要なんじゃないだろうか?読んで行く内にフッと自身の記憶と被る様な描写やシチュエーション。そう言ったモノが文書の香りに呼び覚まされれば、多少は追体験してもらえるのでは?
256: 以下、Xちゃんねるから送りします
20XX/07/05(月) 12:00:00:000 ID:SnPGM9a
勤めてたスーパーでの話をする。
いや、スーパーだけじゃなくて俺も含めてか。こんなクソ暑い夏になるとどうしても思い出してしまうんだ。吐き出すから聞いてくれ。
俺の勤めてたスーパーはそんなに大きくないんだが、店舗の近くにパチンコ屋があってな。イベントなんかあるとウチの店舗にも車止めてパチンカス共がパチンコ屋に行く。何度注意してもやめないし、暗黙の了解とでも言えばいいのか勝とうが負けようが最後にはウチで買い物して帰る。多少は売上に貢献するし、店長は裏でパチンコ屋から多少金も貰ってたみたいだったしな。張り紙やらはするけど特段注意して回ることもなかった。
事が起こったのは暑い夏の日。
朝からカンカン照りでテレビではその年の最高気温を更新とか言ってたかな?車のボンネットで目玉焼きとか作りながら。でも、スーパーの中は客は多いが冷房も効いてるし外で仕事する奴は大変だってバックヤードで話してたのを覚えてる。
そんな日の昼過ぎだったかな?
客の車は駐車場に止めても冷房つけっぱなしで、俺達もたまに放置カートがないか見るけど、小さなスーパーで広くない駐車場だから店内を出てすぐに見回したら引っ込む。こんな暑い中で外をうろつくなんて正気の沙汰じゃないし、客の来るピークは昼を過ぎれば次は16時頃。ピーク後に一度駐車場を確認すれば放置カートなんてない。ただ義務的に見るにとどまる仕事はだけど、その日は駐車場の端っこにカートがあった。
行くのは億劫だけど苦情を入れられるよりはマシと、カートを回収しに向かい取っ手に手をかけた瞬間握れない程の熱さに手を引っ込めた。知ってるだろ?カートって大体黒塗りで黒は光を吸収する。そんなクソ熱いカートの取っ手をエプロンで巻いて運ぼうとした時にフッとカートの横の車に目がいった。
他の車と変わらずエンジンかけっぱで、中では赤ん坊と幼稚園くらいの子供が口を動かしながら寝てた。暑い中でもクーラーが効いた車内は快適なんだろうな〜なんて思ってたんだよ。暑い中で赤ん坊抱っこしてもう一人チョロチョロする子供を連れて買い物するのも辛いし、寝てるなら寝かせときたいだろ?短時間で済む買い物なら。
カート整理して客が商品交換してくれなんて言うクレームや、夕方から売上のが増え惣菜何かを品出ししたり対応したりなんかしてたら、時間はどんどん過ぎて車の事なんて完全に忘れてた。当然だろ?よくある車でよくある事をしてたんだから・・・。
ピークが過ぎて若干暇になった頃、外が急に騒がしくなった。パトカーのサイレンの音がするから、どこかで事故でもあったのかなぁ〜?なんて話を店の裏でコーヒー飲んでタバコ吸いつつ同僚と話してたら店長が血相変えて俺達の所に来て言うんだよ・・・。
『誰か端っこに止まった車の中を見なかったか!』って・・・。その時点で嫌な想像が頭を過ってとっさに『見てません』って答えたんだけど『なら、店内放送で呼びかけろ!大変な事になった!』ってな・・・。分かるだろ?放置子だよ・・・。夏のクソ暑いさなか冷房かけた車に子供置き去り・・・。
でも、俺が見た時はエンジンが付いてた。中の子供も口を動かしながら寝てた。なら、その車じゃきっとない。一緒にタバコ吸ってた奴に放送任せて駐車場に飛び出したら、既に警察が来てて車の窓ガラスを叩き割ってる光景が・・・。警察は離れろって言うけど俺はそんなのお構いなしに近づいた。せめて車が確認できれば俺の見た子じゃないって!俺は無関係だって言う確証が欲しかったんだ!
でも、エンジンの止まった車は昼間見た車だった・・・。運び出された子はパンツ一丁で背中が真っ赤に焼けてた。多分車内が暑くて湯だったてたんだろう・・・。顔も真っ赤になっていたように思う。呆然とする俺に店長がパチンコ屋に行けと言うから慌てて向かう。どう走ったかなんて覚えてないし、パチ屋の店員にどう話したかも覚えてない。多分、車の特徴と子供が大変な事になったって言ったんじゃないかな?
親と思しき人物はすぐに出てきた。どこにでもいそうな人で、特段特徴はなかったけど『勝ってたのになに?』って言ってたような気がする。改めてその人に車の特徴と誰かを連れて来てなかったかと聞いたら血相変えて飛び出していった。
その後は警察の事情聴取。見てないって咄嗟に言ったけど、監視カメラで俺の姿はバッチリ映ってたから、話を聞くって連れて行かれた先で子供が2人共死んだ事を知らされた。
ガス欠でエンジンが止まって暑さで服を脱いだと思ってたけどそうじゃなく、赤ん坊を守ろうとして自分の体を盾にして、それでも暑くて仕方なく服を脱いで焼ける背中の痛みに耐えて・・・。あのクソ熱い日なら車内温度は70度を超えていたかも・・・。
俺の聴者はカートを取りに行っただけの店員としてすぐに終わって解放された。でも、仕事に行く気にもなれなくて店長からも『2、3日休め』と言われて休んだ。その間何をしてたかはよく覚えてない。多分、子供の事を思い出してたんじゃないかな?もしかしたらあの動いた口は助けを求めてたんじゃないかって・・・。
そして休んで仕事復帰して何日か経った頃、閉店作業をして最後に駐車場を見回りしてた時それを見た。22時を回った熱帯夜、アスファルトは冷えずに熱気を帯びた中で駐車場の端にいる店舗に背を向けた小さな子供。事件後だから子供に話しかけたくはなかったけど、周りに親と呼べるような人もいない。
「こんな時間にどうしたんだ?家の人は?」
当たり障りのない声をかける。幼稚園生が一人で出歩くような時間でもない。最悪また警察を呼んで対処してもらわなきゃならないが、名前も何も知らないんじゃ通報のしようがない。
「・・・、暑くて喉が渇いた。」
かすれた声で粘っこく子供は話した。ちょうど口の中が乾いたような声。唾も水分が抜けて粘り気が出て、舌に絡みつばを吐いて口の中をリセットしたい様な感じ。脱水症状を疑いたくなるような・・・。
「そうか・・・、何かジュースでも飲むか?」
「・・・、赤いのがいい。」
「コーラか?」
「違う・・・、暑い中で飲んだ・・・。」
振り返った子供の口は赤く濡れていたような気がする。よく覚えてないんだよ・・・。気が付いたのは朝で駐車場で倒れてたらしい。通りかかった人が通報して俺は病院のベッドで目を覚ました。事件性があるかもしれないと聴取しに来た警察官にその夜の事を話したんだけどさ・・・。
背中が焼けた子供・・・、目は茹だって白く濁り見えなくなった中でも最後の最後まで生きようとしたのか、赤ん坊の血を・・・。
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文章を読み終わりじっとりとした嫌な気分がまとわりつく。俺には何1つ当て嵌まるべき箇所はない。子供もいなければギャンブルなんてしない。バイクは所有しているが車は持っていない。ただ、何処かこの話には纏わり付くような嫌な気配がする。
これは創作のはずだ。似たような事件はあったとしてもその後の部分は・・・、幽霊の部分は創作でしかないはずだ。なら、何で日比野は幽霊を出した?1つ前の話では怪異はあっても実態は乏しかった。なら、幽霊と呼称出来るモノを出したと言う事は一歩踏み込んだと言う事か?
確かに事の始まりは彷徨う幽霊と言う噂だ。なら、この幽霊は彷徨っている?相変わらず登場人物に名はなく性別も曖昧だ。記号として拾い上げるなら・・・、どれがミームだ?夏の暑さ?夜中の幽霊?ギャンブルをする親?どれもこれもアイデアとするなら思い浮かべやすい。
なら、何の話を日々は改変させた?前回は事件だった。なら、今回もそれか?学生を拡散媒体とするなら、この話はおおよそ学生には少し遠い。夏休みで昼間に買物をしに来るにしても何か違う。なら、閉じ込められた子供?
話を読み返し元の形を考える。嫌にリアルなこの話は、日比野が言ったファンタジーが登場している。いや、怖いものを書くなら幽霊が出てもおかしくはないのだが、何故子供を選んだ?
「・・・、花子さん?」
過去の事件、現れる子供、悲惨な事件、結果としての怪異。成る程、現代版花子さんの亜種とするなら符合する点は多い。なら、何故店員はノックを・・・。
「呼んだからなのか?子供を・・・。」
話の全容を夢想するが、真実は日比野しか知らない。結末も曖昧で結果は出ていない。この話はどこまでが過去で、どこからが今なんだ?
「また日比野に会う理由ができたな。」




