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夢十夜考  作者: 彩煙
4/6

他作品への影響「阿刀田高「闇彦」」

この作品は、冒頭がどうとかいうのではなく、作品の持つ主張、いわば、メインテーマが夢十夜のと近いものがあるのだ。

 そもそもこの作品のあらすじを話すと、

「幼いころから「私」の眼前に見え隠れする不可思議な存在"闇彦"。それはどこから来て、何を伝えようとしているのか。むかし聞かされたお婆あの言葉、死んだ同級生の少女、海沿いのひなびた温泉宿、ギリシャの血をひく美貌の女優…。人生の要所要所に現れる"闇彦"に導かれるように、「私」は神話と物語の源流に遡っていく」

というものである。そしてこの作品における「闇彦」とは「独特な共通点を持つ語り部達」「思い出や自分の知らない自分の記憶に纏わる何か」と云うものである。そして、その他にも古事記やギリシャ神話を絡ませて物語は進んでいく。例えば、ギリシャ神話の「オルフェウス」。この話は知っている人も多いと思うが念の為、概要を少しだけ紹介しておこう。

 或る天才的な音楽家、オルフェウス。彼が竪琴を引けば、動物のみならず木々や石までも動き出すと言われるほどの腕前。しかし、彼の妻はある日のこと、毒蛇にかまれ死んでしまう。そこで彼は妻を取り戻すべく冥界へと向かう。無事、冥府のハデスから彼女を返してもらえたが、彼は「決して後ろを見てはいけない」という忠告を破ってしまい、彼女は二度と彼の許には帰ってこなかった。その後彼は、彼女への愛・哀しみを歌い続け、今でも冥界で竪琴となり音を奏で続けている。

そして、「闇彦」にも似た場面が存在するのだ。

それは、同級生の少女の葬式でのことだった。彼女の葬儀は遠い沿岸部で小ぢんまりと執り行われた。

その土地の慣習なのだろう。式の最後に、一人ずつ彼女の思い出を一言話すというのだ。

また、この作中に友人として登場する坊さんの三男。彼のセリフには次のようなものがある。

「思い出してやるんだ。死んだ人。お経を挙げれば、死んだ人を思い出すだろ。死んだ人はそれが一番うれしいこてね。それが供養じゃねえかて」

 この「闇彦」の作中で語られる2つの「死んだ人を思い出す」と云うエピソード。先に述べたオルフェウスとも同類の存在であることは確かだろう。それに、「闇彦」の中で語られるオルフェウスは「彼女が確かにこの世界に存在していた。それを証明するために彼は歌い続けたのではないか」と云う感じで触れられている。つまり、彼女を知るものに、彼女の存在を「思い出させよう」としているのだ、と考えられる。

 さて、ではこれらの例がいったい「夢十夜」とどのように類似しているのか。

 それは「思い出す」と云う点だ。例として、比較的分かり易い1夜と3夜を挙げよう。

 先ず1夜。「夢十夜」の中でも最も有名な話だろう。自分の目前に、美しい女が寝ており、「もう死ぬ」と言う場面から始まる。そして女は自分に「死んで、百年待ってくれたら、もう一度会いに来る」と言い、死ぬ。それから自分は女を待ち続け、百合になった女と再会する。話の筋としては、こんな感じである。

 この話の要となるのが、終盤の百合にキスをし、ふと顔を上げ百年が来ていたと気付く場面である。

 主人公は、初めこそ律義に一日、二日と数えていたが、いつしか今日が何日目であるか分からなくなってしまう。そして、主人公が女に騙されたのでは、と疑念を持ったとき百合が徐に生え、主人公とキスをする。そこで初めて百年経っていたと気付くのである。

 女に疑念を持ったというのは、つまり女を思い出していると云うことであり、女はそれに応えるようにして百合となったのである。

 次に3夜であるが、これは文章を読んでそのままである。自分が百年前に盲人を殺したことを思い出し、その直後に背負っていた息子が石の様に重たくなった。考えることなく主人公が盲人を思い出したことが引き金となって、盲人の復讐にあう。ここも、「思い出す」が切っ掛けとなって物語の中心部を迎えているのだ。

 以上二つの例を見ても、どちらも「死者を思い出す」ことを語っていると考えられる。つまり、阿刀田高の「闇彦」と夏目漱石の「夢十夜」は近しい、あるいは同じ類の現象を題材としているのではないだろうか。


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