他作品への影響「星新一「ノックの音が」」
星新一の「ノックの音が」と云う作品をご存じだろうか。この作品は全15作品によって編集された星にしては少し長めの、短編小説集なのだが、この15作品は全て「ノックの音がした。」という一文から物語がスタートする。では、それはいったいどんな意味を持っているのだろうか。
星自身は、あとがきにおいて次のように述べている。
「フレドリックブラウンの『ノック』という、たった二行の怪談がある。それは『地球上で最後に残った男が、ただ一人部屋のなかに座っていた。すると、ドアにノックの音が……。』というもので、ここでの恐怖とは、ノックの音。つまり扉の向こう側という未知の世界。そこには一体どんな者がいるのか。風ではつまらない。宇宙人は月並み。答えは最後の女性なのだが、私はこの作品と同様に、観測できていないものへの恐怖を描いたのだ」
ここで、目を向けたいのが『観測できないものへの恐怖』と云う点である。
夢十夜に限らず、当たり前のことではあるが、「夢」というものはそれを、観測(見る)まで観測(見る)出来ない。これは、先の「ノックの音の向こう側」と同様の存在であると言えるだろう。そして、「ノックの音が」における「恐怖」。これは、夢十夜を呼んでいてみんなが感じるであろう、「不安感」に置き換えることが可能であると考えられる。
つまり、夏目漱石も、星新一と同じく、「観測し得ない」物への恐怖(不安感)によって、読者に「続きを読みたい」、もしくは彼らの購買欲をそそるエッセンスとしているのだろう。