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第20話 思わぬ助っ人

めっちゃくちゃお久しぶりです。色々と忙しくこちらに手が回っていませんでした…。

今後もしばらくはペースが落ちるかと思いますがぬるぬると更新出来ればと思いますので、またよろしくお願いいたします。

 塔の騒動からなんやかんやであっという間に1ヶ月が経ってしまった。

 ロレンス様の動向は全然……全っ然わからないまま! まあそうですよね! 機密ですよね! 王子の婚約者とはいえまだ子供ですもの、おいそれと国家機密を教えてくれるわけないってね! わかってた~!

 一応、トラヴィス様はロレンス様と定期的に交流しているみたい。曰く塔のあの魔道具の煙についてはすでに調査が済んでいて、今は他にそういうものがないかを魔法師団と連携しながら確認してる最中なんですって。数日置きに陛下に報告に来られていて、その度にトラヴィス様に魔導書を持ってきてくれるんだとか。羨ましい~! 私も読みたい!

 当初の目的とは違うけど、ロレンス様は関わる人が増えて陛下との会話も増えてトラヴィス様とも前以上に仲良くなってるとかなんとか。よ、よかった~!! これはもう付け入る隙とかなくないですか~!? 俄然絆が深まってるじゃな~~い?! 

 とりあえず第一段階はクリアって感じでいいかしらね?! いや~よかったよかった! 私ですら王宮で顔を合わせることがあるし、王宮魔術師団からも指導してくれって話が来てるとかで

ロレンス様人気者~! 引っ張りだこって感じね!

 これで一人寂しくあの暗い塔の中でジメジメ陰鬱に過ごす必要がなくなったわね。オタク的には「もしロレンス様が陰の者だったらこんなに人と関わる仕事ばっかりさせるなんて大丈夫かしら」とちょっと心配もあったんだけど、ロレンス様はどうやら穏やかなだけで陰の者ではなさそう。なんならちょっと、頼られるのは嬉しいタイプの人みたい。

 破天荒な兄と奔放な弟がいるからそもそも面倒見がいいタイプなのかも……。トラヴィス様も結構やんちゃタイプみたいだし。

 まあ順調なのはいいんですけど、私的にはちょっと問題あるんですよね……。なぜなら私の! 魔法の! 勉強が進まないからさ!!!

 以前王宮の廊下でばったりお会いした時に「まだ訓練の再開にはもう少しかかりそう」って申し訳なさそうに仰ってたから……はあ、魔術師団が介入してもなかなか終わらないって、あの塔の中どんだけ魔道具が置いてあったのかしら。困ったもんですね。どうしましょうかね!

 今日も今日とてお茶会会場である中庭のガゼボでトラヴィス様を待ちぼうけしている私ですよ。トラヴィス様とサイラスは毎日の剣の鍛錬の時間を増やしているし実際時々応援に行くと日々各段に動きが良くなっていってる気がするのよね。成長期なのかしら……成長期ってそんな10歳以下でそんなに急激に来るもんなの? 前世でいうと小学生だよ?

 何にしても私だけ何もできてない感じがしてめちゃくちゃ焦るのよね。何かしたいし、何かした方がいいのは重々承知なんだけど、どうしたらいいのか、何をしたらいいのかわからない……

うーん、周りがどんどん受験合格したり就職を決めたりしている中一人取り残されている感覚……! 大丈夫焦らないでって言われても焦燥感ってのは勝手に募るんですよそういうもんよ。

 用意された席で一人ぽつんと座って足をプラプラさせているだけの私……うん……いや、やっぱ辛ぇわ。どうしたもんかな~~~~~~秘密の特訓とかしてくれる人いないかな……


「アルスリーナ様、お茶をお淹れしましょうか」


 不意に声が掛かった。そう、トラヴィス様はまだ来ないけど、侍女さんたちはばっちり待機しているのよね。

 声を掛けてくれたのはネリーさんだった。私が手持ち無沙汰かつトラヴィス様が来るまでもう少しかかることをわかって、少しくらい紅茶を飲んでも問題ないと判断したんだろう。いやぁ、ほんとこの人しごできだなぁ。


「ありがとうございます。じゃあ、一杯お願いします」

「承知いたしました」


 ネリーさんは手際よく準備をしてくれる。ティーカップを先に温めたり、茶葉を蒸らしたり……紅茶ってきちんとした手順を踏むと本当においしいのよね。なるほど英国人がハマるのもわかるわ~。前世では大体安いいスタントのティーパックとかペットボトルだったからなぁ。

 英国が舞台の作品にハマった時はティールームなんかに行ったりもしたけど、なかなかそういうところのおいしい紅茶を家で再現できないんだよね。この世界では基本上手な人が淹れてくれるからどれを飲んでもおいしいわ……。


「失礼いたします」

「ありがとうございます。いい香り!」

「ニルギリとドライフルーツを合わせたフルーツティーでございます」


 ネリーさんが出してくれた紅茶はほのかに甘酸っぱいフルーツの香りがするストレートティーだった。おお、テンション上がるね。

 最近このフルーツティーがお茶会でも出るようになったんだけど、香りがよくて女性受けがいいの。王妃様とのお勉強会でも出てきて絶賛されていたわ。これは社交界ではブームになりそうな兆し……!

 もともとのゲームの設定に紅茶だのなんだの詳しく出てきてはないしもともとあったものなのかどうかはわからないけど、少なくとも私は家でこういうタイプのお茶が出たことはなかった。

つまり王宮の誰かの考案だと思うんだけど……。私はこのネリーさんが考案したんじゃないかと考えてる。だって彼女、お茶を淹れる機会がめちゃくちゃあるし、こないだの三献茶のこともあるし……。


「美味しい!」


 一口飲んでみるとフルーツの香りがぶわーっと広がる。すごく甘くはないんだけど紅茶自体があっさりしてるからなのかな、さわやかでとってもおいしい。

 私は紅茶の専門家じゃないんでよくある転生モノでやたらと種類に特化した説明とかは出来ないんだけどなんかおいしいということだけはわかる! あとニルギリって言うお茶前世で聞いたことある。

 ゲーム内でもアールグレイだのダージリンだのメジャーどころの名称は出てきてた気がするし(冒険者が飲んでるのもエールとかホップとか言われてたし)前世と同じなのかもしれない。産地については多分名称は違うんだろうけど! まあ似た味ってことだよね!


「ネリーさんの紅茶、いつもとっても美味しいわ」

「お褒めに預かり光栄でございます」


 そう言ってネリーさんが完璧な礼をする。ほんとしごできだわぁ……。

 私もしごでき女になってみたいものですわ。前世では仕事してたけど別に特段バリキャリだったわけでもなんでもないからなぁ。

 というかどちらかというと私はズボラだし出来ることなら仕事はしたくないタイプの人間だったからなぁ。勉強とかもあんまり好きじゃなかったし、そういうところが今の状況に響いてる感じがする……うぅっ、サボり癖があるやつに転生なんかさせちゃいかん……! こういう転生枠の子って純粋で真面目で優しくて努力家で、それなのに謙遜したりして健気さや賢明さに周囲が心を開いていくとかそういう感じだったやん……何を罷り間違ってこんな純粋でも真面目でも優しくも努力家でもないオタク腐女子が転生なんて……涙が出ちゃう。だって以下略。

 てか私ほんとにいつ死んだんだろ、不思議。ヒロインのケイトはどうなんだろうなぁ。転生者じゃないといいんだけど……。普通にゲーム通りのいい子だったらきっと皆ヒロインに癒されて絆されて骨抜きに……あれそれなんてエロゲ……いやいや違う違うそういうことじゃない、乙女ゲームのヒロインって本来そういう立ち位置なんだから普通なのよ。

 私、対立するつもりないけどほんとにうまく立ち回れるのかなぁ。同担拒否じゃないけど、推しがいざ婚約者の自分を捨てて結婚ってなったら許せるのかな……誰のものでもない間はいいかもしれないけど、目の前で搔っ攫われるのは私的にはどうなんだろう。アルスリーナ的にはアウトなのはわかってるけどさ。結婚したのか……俺以外の奴と……ってなるかなぁ。結婚式後に引出物のバウムクーヘン一人で食べて失恋の涙に溺れながら「幸せになれよ……」エンド出来るのかな……。あれこれ最近の子伝わる? 大丈夫そ?

 紅茶のカップを握りしめたまま遠い目をしていると、不意に目の前に小皿が置かれた。なんだろう。ネリーさんが用意してくれたお茶菓子……クッキーだ!

 スライスアーモンドが満遍なく乗ってるものとか、シンプルなバタークッキーとか! わー、美味しそう! いい匂い!


「フルーツティーに合うものを用意いたしました」

「ネリーさんマジでしごで……あっ、ありがとうございます! とっても美味しそう!」


 アブね~うっかりちょろっと本音が出ちゃったわ。だってあまりにもしごできなんだもの。

 クッキーを頬張る。ウッ……サクサク……ホロホロ……バターの風味がお口の中に広がるけど口説くない……あまりにもうまし……!! シェフを呼べ! 美味しいです!


「んん~~、とっても美味しいです!」

「それはようございました」


 ネリーさんもにっこりと笑う。めちゃくちゃ気遣いできすぎるなこの人……何者なんだ……。一家に一台ネリーさんほしい。


「美味しすぎて、殿下が来られるまでにお腹一杯になってしまうかもしれません……」


 恥ずかしながら食べる手が止まらないのですよ。おこちゃまだからそんなにたくさん食べれるわけでもないし!

 私としてはお恥ずかしい告白のつもりだったんだけど、それを聞くとネリーさんの表情が曇ったようだった。えっ、どうした?! あまりにも私の振る舞いがトラヴィス様に釣り合わなくて悲しくなってしまったかな?! 申し訳ない!


「あ、あのネリーさん……」


 すいませんなんか、こんなのが殿下の婚約者で……と言いかけたのだけど、それより先にネリーさんが口を開いた。


「アルスリーナ様、仕方のないこととはいえお一人でこんなにもお待たせしてしまい……なんと申し上げればよいやら……」

「えっ、え、あ、そっち?!」


 ネリーさんが大変に申し訳なさそうに口にする。そっちはネリーさんが悪いわけでもなんでもないのでは?! いや、誰が悪いわけでもないっていうかなんなら私が時間をずらしてもらうべきなんじゃないでしょうか?! いや王妃様とのお勉強会の後にお茶会っていう流れになってるからそこだけ時間をずらすのも面倒かもしれないんだけど!


「あの、お気になさらないでください、どなたが悪いわけでもありませんから!」


 慌ててフォローするけど、よく見たら待機している侍女さんたちも皆申し訳なさそうにしてない?! いやいやいやむしろ私がいるせいで皆さんの待機が終わらないわけだから、申し訳ないのこっちであるが?! みんな急にどした?!


「むしろ私がいるせいで皆さん他の仕事が出来なくなっているのではと思うとそっちの方が申し訳なく……」

「とんでもございません! これは立派な我々の仕事でございますから!」


 ネリーさんがきりっと顔を上げる。おお、まあ確かにそうだよな……


「ただアルスリーナ様を無為にお待たせすることが申し訳なく」

「ええっ、私なんてお気になさらないで……」


 あっ、でも待てよ。これもしかして使えるんじゃないか? うまくすればこの無為の時間を有意義に使うことができるんじゃ……?


「あの……その、つかぬ事をお聞きしますが皆さん魔法って……」


 へへ……と愛想笑いを浮かべながら侍女さんたちに視線をやる。この世界、貴族子女は必ず魔術学校に通ってたはず。そして王宮に仕える侍女さんたちは基本的に貴族家出身。だとしたら皆何かしらの魔法が使えるはず……。


「魔法……ですか。使えますが、しかしアルスリーナ様には実践をさせないよう申し付かっております」

「ええっ」

「ロッテンバーグ公爵様からのお達しでして……」

「お、お父さま……!」


 お、おのれ孔○ええええ……! 司○懿もかくやの勢いで胸中で唸る。ちょっとぉ! 用意周到すぎるよお父さま! 過保護! いや王城でこれ以上問題起こすなってことなんだろうけどさぁ!

 ふん、でもあなたの娘はそんなことで諦めはしませんわよ! この程度の障害なんて乗り越えてみせますとも!


「あの……私、トラヴィス様に追いつきたいのです。あの方はきっと私の前を駆け抜けてしまわれると思います。だからなんとかついていきたくて」

「アルスリーナ様……」


 しおらしく訴えてみるとネリーさん筆頭にみんな「健気な美少女」に心を動かされるような表情になった。幼女ってスゲー。

 皆仕事中だから口には出さないけど「こんな小さい子が……」「なんて健気な……」って感じが表情に出てる。それでもきちんと待機したままなの、ほんとすごい。


「それほどまでに決意なさっているのですね」


 ネリーさんがしみじみとしている。あれなんか思った以上に効果的だったのかな。別に思いつめたりしてるわけじゃないんだけど……


「よろしければ……トラヴィス殿下をお待ちする間の手慰みに、魔術書をお持ちしましょうか?」

「え?!」


 え?!?!?! どういうこと?! 聞き間違いでなければ今魔術書って言いました?! えっ?!


「い、いいのですか?!」

「ええ、実践さえなければ問題はないかと。これも大事な教育の一環でございます」


 な、な、なんてこった……! まさかこんなところに救いの手が転がってるなんて?! ネリーさん神か?


「うれしい! ありがとうございます!」


 うええええんやっとだよおおおおお! これでもし万が一トラヴィス様に危険が迫ったとしても少しは私も戦えるように……なるかはわからないけど、何もしないよりはいいでしょ!

 あとヒロインのことも気がかりだもんな……。ケイトちゃん、心優しい女の子のはずなんだけど、孤児院で会った時は戦闘大好きバーサーカーの気配を宿してたからなぁ……。


「それからこれは差し支えなければですが、魔力操作についてなら少しはご教授出来るかと思います。もちろん実際に魔法を使うことは出来ませんが」

「ええっ?! そんなことまで?!」


 ネリーさん貴方が神か?!?!?! 魔力操作って簡単に言うと火力に関わってくる部分なんだけど、要するにどれだけ一瞬で魔力を操作できるかによって放出できる魔法の威力が変わるってことらしいのよね。

 なんかゲームだと上位呪文を覚えるだけで純粋に火力が上がるものだと思ってたけど、実際にはやっぱり違うみたい。

 子どものころはこの調整が難しいから魔法の勉強はさせない、って話だったから……ほら、調整できないとこの間の私みたいにバカでかい火球が飛び出すっていう……。


「でも魔力操作って、実践になるんじゃ……」

「体内の魔力を練り上げるイメージトレーニングのようなものですから、実際に外へ放出しなければ問題ありません。私共は万が一王族の方に危険が迫った際にも対応できるようにと、日ごろから訓練しておりますので、ご安心いただけるかと」

「すごい……! 皆様スペシャリストなのですね!!」


 侍女さんたちが武器を構える姿が一瞬で想像できる。戦うメイドさんとか良すぎるでしょ考えた人神かよ。あっ、もしかしてうちの王族かな? グッジョブ過ぎる僕と握手。


「……あの、皆さんもしかして魔法以外にも戦う術をお持ちだったり……」

「……一通りは訓練を受けております」


 ネリーさんは一瞬言いよどんだ。多分子供に聞かせるのはどうかと迷ったんだろうな。大丈夫大丈夫、私幼女であって幼女でないようなもんだから。でも答えてくれたのはきっと私が目上なのもあるしトラヴィス様に追いつこうとする健気な姿を思い出したからなのかな。


「あの、もしよければ私でもできる防犯対策みたいなものがあれば教えていただけないでしょうか……。私はまだ何もできませんが、もしもの時に逃げ出すくらいは……」


 自分から矢面に立つのはね、いくらなんでも幼女(7歳)には無理なのよ。それくらいの分別は私にだってあるわ。だって走るのも遅いし力もない。でも公爵令嬢だから、危険な目に合わない可能性は0じゃない。

 立ち向かうための訓練じゃなくて、今は逃げ出せる術が知りたいのよね。この間みたいに突然カッツェンバッハ侯爵とかに鉢合わさないとも限らないし。

 どうやらネリーさんの方でもそこは懸念があったらしく、防犯のためならばと簡単な護身術みたいなものをついでに教えてもらえることになった。

 やった~! 思わぬところで助っ人登場だわ! あ、でもお父さまには内緒にしてねってちゃんと言っておいた。下手したらお茶会に来るのもダメとか言われそうだしね。

 そろそろトラヴィス様がお越しになりますって伝達が来たから次回からって話になったけど、帰ったらユマにちょっと動いてもいいような服を出してもらわないとね!


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