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第17話 お父さまといっしょ

 楽しいお茶の時間はあっという間に過ぎて、私は夕方にはユマと一緒に屋敷に戻っていた。

 ロレンス様と陛下の学生時代の話を聞いたり、トラヴィス様と私のことを聞かれたり、普段子供たちはどういうことに興味があるんだとか聞かれたり、なんかちょっとした親戚の集まりに来た気分だったんだけど、お菓子もおいしくて陛下とロレンス様の仲のいい兄弟って感じのやり取りも見れて私としては最高にハピネスだったわ! これが二次創作じゃなくて原作だなんて最高すぎる。

 ビバ兄弟。ビバ仲良し。そのまま仲良く過ごしてください。頼むから謀反とかと無縁に手を取り合って今後も国を盛り立ててくださいよろしくお願いいたします。土下座でもなんでもするんで。

 今日のことをお父さまに話しておきたいけど、まだ戻っていらっしゃらない。もしかしたら今日は遅くなるかもしれないものね。陛下とロレンス様があの魔道具について色々と処理しないととおっしゃってたし、

 遠見の魔道具があれだけとも限らない。ほかの魔道具を調べるにしても人手がいるだろうけど、大々的にも出来ないものね。なるべく迅速に、かつ秘密裡に、となるとお父さまにはお声がかかるかもしれないわ。

 戻られるまで何をして待とうかな。お茶菓子をまたもらってしまったからお腹は空いていないし、かと言って魔法の勉強はまだ一人ではだめと言われているし……うーん。

 部屋で悩んでいると、玄関先が騒がしくなってきた。窓から玄関先の方を見てみると馬車が見える。あれ? お父さまったらもう帰ってきたの?

 すぐに玄関ホールに降りていけば、ちょうどお父さまが外から入ってきて上着を侍女に渡しながらお母さまと話しているところだった。


「お父さま!」


 声を掛けつつホールに続く階段を駆け下りていけば、こちらを見たお父さまが少し顔を明るくしてぱっと腕を広げてくれた。遠慮なく飛び込んでいくと、勢いよく抱き上げられる。うーん、

こういうところはどこの親も同じだなぁ~。前世でも子供のころはよくやってもらってたな。それはさておき。


「お父さま、お帰りなさいませ!」

「ただいま。アル、今日は魔法の勉強に行ったんだろう? いい子にしていたかい?」


 お父さまは未だに火球事件のことを引きずっていらっしゃるご様子で、必ずこれ聞いてくるのよね。

 いい子ですよ。貴方の娘は貴方の仕える王家の存亡の危機を救おうとしてるんですからこれがいい子でなくてなんだっていうんです。まあそんなことはお父さまは知る由もないんですけど。


「もう、お父さまったら! アルはとてもいい子にしましたよ! 今日は国王陛下がいらっしゃっていて、褒めていただいたんですよ!」

「…………」


 父、無言なんだが。笑顔のまま固まってる。あ、なんか今呟いたな。あの野郎とか聞こえた気がする。もしかして陛下、仕事ほっぽったか抜け出してロレンス様のところに行ってたのかしら。あり得るなぁ、護衛らしい護衛もいなかったし……。

 使用人たちのお引越しも兼ねてたからそっちに紛れてただけかもしれないけど、確かに陛下が自ら陣頭指揮を取る必要はないところだもんね。もしかしてあの人面白がって……?

 やだ……うちの王族、奔放すぎ……?

 あっ、もしかして父が早く帰ってきたのって、陛下がいなくて決裁が出来なかったからとかいう可能性ある? 有り得るな……仕事進まないから諦めて帰ってきたとか、有り得るな……!


「お父さま? どうなさったんですか?」

「ん、あ、ああ。大丈夫だ。陛下はそっちに行ってらしたんだな」


 やっぱり知らなかったのか、父……。がんばれ。若干笑顔が引きつってる気がするけどまあ……がんばれ。


「そうなのです。今日、ロレンス様のお館の塔の中を見せていただいたのです。それでその時に陛下も一緒に中に入られて、色々あったのですがそこで褒めていただきました!」

「おお、それはよかったなぁ。しかし、塔とはあの……? 見せていただいたのか?」

「はい! それで私、嬉しくなって気が緩んでしまったのですが、そうしたらロレンス様が外に出るまでは危ないから気を付けて、って言ってくださったので、また注意深く動けたのです! お二人はとっても仲が良さそうで、わたくしも嬉しかったです。陛下が褒めてくださって、ロレンス様が注意してくださって、お二人って、まるで対のようで、とってもいい相性なのですね!」

「!」


 どうやお父ちゃん……この女児渾身のダイマ!! セット売りでどうですか! ユニットで推していきませんか?! いい塩梅なのでは、と思ったんでしょう?! 「なるほど……」って言ったんでしょう?!

 口元に手をやってもわかりますからね! もう片方の腕で私を抱きかかえたままなんだから至近距離ならわかってしまいますからね! それでなくてもオタクは空気読みスキル高いんですから!

 お父さまは常々ロレンス様の待遇については苦心していらっしゃるみたいだったからね……活路を見出してほしい。二人ともに違ったいいところがあるしあれだけ息が合うなら変に離さない方がいいから……二人はプ○きゅあだから……いやそれはちょっと違ったかな。

 とりあえず後はお父さまに任せればどうにかなるだろう。こうやって補填していけば良い方向に動いてくれそう……。


「しかしそうか、塔か。それで……」


 お、塔の話題? やっぱり塔の処理関係、お父さまもやるのかな? 話下りてきた?


「どうかなさいましたか?」

「……アル、もしかしたらしばらく魔法の訓練はできないかもしれないな」


 お父様が抱き上げていた私を下して手を繋いでくる。お、これはお散歩がてら私を説得しようとでもしているのですかな? 何か言いたいことがありそうですな?


「……お父さまは、何があったかお聞きになったのですか?」


 一応確認しておかないとね、ここであったことは秘密ってロレンス様がおっしゃってたから。多分お父様は聞いてるとは思うけど一応ね。


「魔道具の件なら、聞いたとも。ロレンス様が調査をされると」

「……内緒の話ですよ?」

「もちろんだ」


 ちらりとお父様を窺ってみると、少しいたずらっぽい笑みを浮かべている。あら、お父さまったらそういう笑顔をする方に振り回されるタイプかと思っていたけど、ご自分でもなさるのね! 7歳にして優しい父のちょっとやんちゃな部分を新発見だわ。


「調査についてはお前たちが心配することはない。今の段階でも、改めて身体に害はないと言うことだからね。ただ、色々と難しいことがあって、それを解決するにはロレンス閣下はしばらくは手がいっぱいだろうから」

「はい。難しいお話は、陛下とロレンス様がその場でお話されていました。ロレンス様は3日でと仰っていたように聞こえたのですが、もっと長くかかりますか?」


 2日だ3日だってやり取りあったものね。あのなんともいえない信頼感、たまらなかったわ……。

 まあそれはあくまで割れてしまった魔道具の出所の解析とかの類だろうから、ほかのものの整理も含めるとまた話が変わってくるでしょうね……文字通り「山ほど」あったわけだし……下手したらあの大量の本の中に呪いの本とかまであるかもしれないもんね。


「そうだね。壊れたものについては、ロレンス閣下なら3日もあれば解決なさるだろう。しかし、残りのものを確認するとなると、いくら閣下と言えどそうすぐには難しいだろう。1,2カ月くらいは……」


 待って。今お父さま、「閣下と言えど」って言いました?

 え? まさかあの魔道具だの魔導書だのの山を一人で処理しようとしてらっしゃるんじゃないでしょうね?


「……お父さま? それは……ロレンス様はお一人で調査をされるということですか?」

「そう聞いているが……。アル、これはとても重要で、しかも秘密裡に行う必要があるんだ、故に閣下はお一人で……」

「信じられない!」


 ちょっと待ちなさいよ、あの量を一人でってそれもおかしいけど、何よりあんな代物を設置されてた場所を拠点にしてた人間になんで調査を任せられるの?!

 明らかに標的なのに標的から相手に接触するようなことさせるとか頭おかしいの?!

 本来そういうのは専門機関がやるべきものであって、王族がやるべきことじゃないでしょ!

 所有者が王家であってもそれなら立ち合い程度にするべきであって間違っても本人が直接やるべきことじゃないわよ!

 調査の途中で相手が接触してきて交渉だのなんだの持ちかけてきたらどうするの?! 自動で発動する罠とか呪いとかが掛かってたらどうするの?!

 多分ロレンス様が言い出したんだろうけどそれを通しちゃダメでしょ! 誰がそんな提案オッケーしたの?! 専門機関を出しなさいよ!

 ロレンス様が魔法の研究をしていて優秀な論文もたくさん出している専門家だって言っても「そうかあ~、ほなええか~」ってなるか! ならんやろ! なっちゃダメなの!!

 ちょっと考えたらわかるでしょ! なんであそこに遠見の魔道具なんてあったのか! どう考えてもロレンス様の安全を最優先に確保するべきでしょ!

 本来ならあの壊れた魔道具の解析だって別の人にさせるべきなのにさ! 陛下がいた手前言えなかったけどうちの王族何でも自分たちで解決しようとしすぎでは?! どうなってんだこの国は! 王族は守られなさいよ前に出るんじゃない!


「お父さま、それはどう考えてもおかしいと思いますわ!」


 思わず繋いでいた手を振り払って吠える。お父さまは可憐な娘の豹変にぎょっとしているけど、勢いで出てしまったものは仕方がない。猫を被りそこなったのはやらかしだけど、ここはマジで大事なとこだから! 王家の未来がかかってんですよ!

 すぐにでもマシンガン説教したいところだけど流石に秘匿事項を実家とはいえ廊下で喚くわけにはいかない。庭へ向かう廊下だったから人通りもそんなにないけれど、念には念を入れて手近な部屋にお父さまを連れ込んだ。

 来客用の部屋の一つだ。扉付近はまだ信用ならないから部屋の中央のソファまで父を連れて行って座らせた。目線を合わせるために私はその前に仁王立ちになる。


「いいですか?! 壊れたあれは、塔の内部に置かれていたんですよ、目的はわかりませんが、あの塔の使用者は現在のところロレンス様のみ。あえてそこに希少価値が高く陛下ですら作成できなかった魔道具を置いた目的なんて十中八九よからぬ企みに決まっています。標的がロレンス様となっている可能性が一番高いのに、その本人が残りの魔道具を探すだなんて危険に晒すようなものですよ?! 今回のものがたまたま害がなかっただけで、他が同じとは限らないではありませんか! 解析で発動する魔法や呪いがあったらどうするんです?! お一人で助けも呼べないような状態になったらどうされるおつもりですか?! そういうことにならないように宮廷魔法師団がいるのではないのですか?!」


 そう、このゲーム、剣と魔法のRPGの側面を持っていて、王宮にはエリートを集めた魔法師団がいる。攻略対象の一人、ショタ枠のナイジェル・トーリもそこの所属だ。今はまだ所属どころじゃない年齢だけどね。

 とにかく王宮師団はとにかくエリートオブエリートなんだから、こういう時に力を発揮しないでいつするって言うんですか!

 お父さまは私のまくし立てる剣幕に圧倒されている。追い打ちをかけよう。


「……ロレンス様でしたら、害のあるものも事前に察知されるかもしれません。ですが、害がない場合もあり得るのではありませんか?」

「害がない、だと?」

「誰かが外部からロレンス様に接触するために敢えてあれを塔に置いた可能性だって、ないとは言い切れないと思います。交渉や、或いはロレンス様自身が……」

「アル!」


 お父さまの声が険しくなる。そうよね、私だってそれは考えたくない。すでにロレンス様が黒幕と繋がっていて、あれは連絡手段であった、とかね。一人で処理しようとするのは第三者に介入されると不都合だから……って。


「……それに、あの中はまるで倉庫のようでしたわ。お1人でだなんて、季節が変わってしまいます!」


 先までの剣幕から一転して、頬を膨らませて拗ねたようにそっぽを向いて見せると、父はようやく大きく息を吐いた。まあ最後のはおまけなんだけど、下手したら本当にそこまで伸びる可能性だってある。折角陛下とロレンス様の仲を取り持ってかつ自分たちも魔法の練習が出来て一石二鳥うへへとかやってたのが水の泡になるでしょうが! 一人で置いとくのが一番ダメだから人を寄越してって言ったんだからね!


「アル。お前の言い分はわかった……。私から陛下にいくつか進言しよう。ただし、滅多なことは絶対に口外してはならない。いいね?」

「ごめんなさい、お父さま。わたくしロレンス様のことが心配で、つい出過ぎたことを……」

「ああ、わかっている。だがどこで誰が聞き耳を立てているかわからないからな。そういう話をする時は私の書斎にしなさい」

「はぁい、お父さま!」


 今更かなと思ったけどとりあえず子供らしい元気さで答えてみる。てか、だろうとは思ってたけどやっぱりお父さまの部屋はそういう話が出来る仕様になってるのね。盗聴防止策というか……魔法なのかな、それとも物理的に壁が厚いとか……どうなってるんだろうね。気になる。


「……お父さま、これはここで言っていいことだと思うので言っておきますが……」

「なんだ?」


 お父さまは少し息を吐きながら髪をかき上げていたけど、私がそう言うとまっすぐにこちらを見てくれた。子供と侮らずにちゃんと話を聞いてくれるところ、いいよね! まあどう受け取るかはお父さま次第だし私を不審に思うこともあるかもしれないけど……まあれっきとしたあなたの娘だし、原作とは少し違ってしまったかもしれないけどここはもうゲームの世界ではないから許してほしい。


「わたくしはトラヴィス様の婚約者ですから、誰よりもトラヴィス様を優先に考えております。わたくしはトラヴィス様が安全でいらっしゃることが何よりも大切です」

「……」


 勘のいいお父さまなら私の言わんとしてることはこれで多分わかるはず。前世風に言うなら「あ、察し」。そう、推しを前にしたオタクの難解な解釈を聞いたときの、フレンドの冷ややかな反応である。

 察し、して! おk把握して! ネットスラングが古い? ウルセー! こちとら前世アラサーオタクぞ! 古参と言っても過言ではない!! 情報のアプデはそんなに早くないんだよォ! 

 いやそういう話じゃない。お父さまの推察能力の話ですよ。私のあのいかに婚約者のことが好きか語った、普通に読めばそれだけである一文の裏を多分お父さまは読んでくれるはず。

 優先順位の一番上にいるのはトラヴィス様であって、ほかの王族じゃないってこと。

 私にとって一番大事なのはトラヴィス様の今後の安全であって、それを脅かす可能性がある要素を捨ておくわけにはいかないってこと。

 ひいてはロレンス様の周辺に何かがあるかもしれない、というところまでは……まあ流石に直前の流れを加味しても読み取れないかもしれないけど。

 とにかくロレンス様が一人で作業をすることがトラヴィス様の安全にかかわるかもしれない案件ってのがわかってくれたらそれでいい。

 お父さまは私の言葉を聞いてから口元に手をやってしばらく考え込んでいたけれど、やがてちらりとこちらに視線を向けてきた。何か察してくれたっぽいのでとりあえずこくり、とゆっくり頷いてみた。

 すごい意思疎通出来てそうな一連の親子の流れだけど私はお父さまがどこまで掴んでくれたのか全然わかってない。多分なんとなく「おk把握」的な感じになってくれたんじゃないかと思っている。


「……お前は、トラヴィス殿下が好きなのか?」

「もちろんです。わたくしはトラヴィス様のことが大好きです!」


 政略結婚で愛のない婚約者なんてのがザラにある世界だってわかってる。女の価値はいかに家に有利な婚約を結ぶかにあるのもわかってる。

 剣と魔法を組み込んだ恋愛ファンタジーの世界がもとにあっても、それでも女性の地位がめちゃくちゃ高いなんてことはない。

 冒険者だって男の方が多いし、要職に就く女性は少ない。家柄のみが重要視されるからこそ、そういう愛のない婚姻の方が多いってことも。

 でもそこから愛が生まれることだって、ないわけじゃない。

 私の場合はそもそもトラヴィス様が推しだってっていう超幸運はあるけど、そうじゃなくてもあの顔面偏差値で国王相手に「あげませんよ」とか言う肝っ玉を持っててなおかつ危険があった時には真っ先に庇おうとしてくれるような(文字通りの)王子様を、好きにならないなんてことないでしょ。はあ~、トラヴィス様かわいい。かっこいい。顔がいい。好き!

 純粋な愛情かと言われれば首を傾げざるを得ないけど推しの幸せが私の幸せだから! それもある種の愛だから!!!!

 まあ欲を言うなら腐った脳内ではトラヴィス様と別の殿方が仲良くしていると私としてはそれはそれはニチャニチャ出来るんですけど……。落ち着いてアルスリーナ。ここは笑ってはいけない公爵家24時だから。

 満面の笑顔で答えると、お父さまは安心したように微笑んだ。

 おっ、くたびれたイケオジもいいけど、普段いかめしいおじさんが猫や子供を見て微笑むのもギャップでポイント高いですよ! 流石お父さまわかってらっしゃる! 私、守備範囲は少年からオジサマまで相当広いです! あっ、別に恋愛的な意味はないんで通報はやめてください!


「なら、我々はお前と殿下が平和に暮らせるよう尽力せなばならないな」


 おお……お父様これはわかっていただけたようですな……。重畳重畳。いけない、どっかの軍師みたいになってしまった。私は幼女私は幼女私は幼女……


「うふふ! うれしいです、お父さま! でも無理はなさらないでくださいね!」


 ニッコリ笑顔でそういえば、お父さまの表情金が一瞬緩み切った気がした。

 うん、まあ、親馬鹿だからなぁ。嬉しそうに頭を撫でられて若干気恥ずかしいけど、まあ悪くないわね! 仲が悪いより全然いい!

 手放しで褒めてもらえるのも幼女の特権だよね……。

 よく考えたら前世で読んだ小説だと小さいころから親に顧みられることのなかった高貴なご令嬢とか、虐げられてきた王女とか、濡れ衣で追放された聖女とか、そういう話がたくさんあったわけだから……私、とても恵まれてるよね……。

 こんなに幼女らしさが足りないのに両親にも使用人の皆にも褒めてもらったり愛してもらったり。……確かに私はアルスリーナだけど、今は前世の私でもあり、正直どっちが本当の自分なんだろうかと思わないでもない。性格だって近いとは言えない。前世を思い出す前はここまで挙動もおかしくなかったし……これって親的にはどうなのかしら。


「……お父さま、あの」

「ん? どうしたんだ?」

「その……」


 娘の豹変についてどう思われますか?

 ……とは、ちょっと聞きにくいな。なんて言えば……


「……いえ、なんでもないです」


 言いたいことがうまくまとまらなかったから、とりあえずはぐらかしてしまった。

 ……私は前のアルスリーナとは違うかもしれないけど、アルスリーナとしての自覚もある。両親を両親と認識してるし、両親のこともお兄さまのことも好き。今はとりあえずそれでいい……よね。


「何か言いにくいことがあるのか?」

「いいえ! お父さまが、私がトラヴィス様のお嫁に行くのが寂しくないかしら、って思っただけです!」

「そっ……!!!」


 前世で言う一般的な父親像(娘は嫁にやらん、的な)を思い出してとりあえず言ってみる。

 娘は政治的役割を果たすもの、という認識が強いこの世界でこの前世的な思考は通用するのかどうかと思ったけど、


「それは……考えないようにしていたのに……!!」


 あらら、がっくり項垂れちゃった……。よく考えたら日本人が日本人的思考で作り出してるゲームの世界だから日本的な部分が多々あるのかもしれないね。不思議な世界だな……。原理もよくわかんないけど今はまあいいか。


「まあ、お父さまったら! まだ先のお話ですのに!」

「先でもいつかはと思うと……!」


 あらっ、ちょっと涙目になってません?! ちょっとした疑問程度だったのに父親にこの手の話はやっぱり効果ありすぎるみたい。


「そんなに悲しまないでください! アルはお父さまも大好きですよ!!」

「うっ、アルスリーナ……」


 力無く抱きしめられたので、ぎゅっとしがみつく。

 あれだな、今後、この話題はタブーで! 思ったより面倒だったな!

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