第0話 誰かのプロローグ
ずっと書きたかった令嬢もの!
カクヨムでも連載していますが、よろしくお願いいたします!
「あら? おかしいわね……イベントが起こらないじゃない」
少女は首をかしげる。おかしな話だ、何せ物語はここから始まるっていうのに。可憐なヒロインと美しい青年たちの、目くるめく愛の物語の幕開け。
麗しく清廉な乙女は世界を見守る女神の声に呼ばれ、運命の出会いを果たす……。そういうシナリオだったはずだ。それなのに。
その舞台となるはずだった中庭には、彼女以外人っ子一人見当たらない。時間を間違えただろうか? いいや、入学式のすぐ後のことだったはず。
しかし、しばらく待ってみたものの誰もやってきそうにない。遠く聞こえていたざわめきも去り、辺りは静寂に包まれている。
「うーん……。まあ、いっか」
物語と違う動きをするだろう駒のことはわかっている。きっと彼女が、シナリオ通り進ませまいと小細工をしているのだろう。
彼女がどんな動きをしようと、結末は決まっている。イベントが一つ起こらなかったことくらい、些細なことだ。
「最後に勝つのは、私だもの」
少女はクスリと勝ち誇った笑みを浮かべ、踵を返した。この後、物語が大きく変わっていくとも知らずに。