表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

君を愛する

お付き合いくださいまして、ありがとうございます。

◇それからの聖女◇ 



 国王は肩を落とし、ミーナスに言う。


「どう詫びていいのか、分からない、聖女よ。ただ乞い願うのみ。

この国を、見捨てないで欲しい。

國民を、裁かないで欲しいのだ。

咎は全て、王たるわしにある」



 神官長も頭を下げる。


「もう一度、聖女として、いや聖光女として、神殿に力を貸してはいただけないでしょうか」


 ミーナスはイリオスと手を繋ぎ、国王に向かう。


「陛下の御言葉、痛み入ります。私の最後の力を以て、現在のわが国を覆う、暗雲を祓いましょう」


「最後の……?」


 神官長の疑問にミーナスは答える。


「私の加護を神殿に戻します」

「えっ! それでは」


「次代の聖女に渡してください。聖女の候補が神殿の女神像に祈れば、その人に一番合った加護が降ろされるはずです」


 ミーナスが両手を組む。

 目を閉じ祈祷の姿勢に入ると、彼女周囲に光の渦が生まれる。

 渦からは、一つ、二つと玉が浮かび、それらは天井に消えていく。


 七つ目の玉が消えた時、ミーナスは自然に笑顔になっていた。

 十代の少女のあどけない笑顔に、イリオスはしばし見惚れた。


 いつしか夜が明け、長く続いた雨は止んでいた。


 あとの始末は国王と側近に任せ、ミーナスとイリオスは邸に戻る。



 寝室で、ミーナスはイリオスに深くお辞儀をする。


「今までお世話になりました」

「え?」

「王命の婚姻は、もう終了で良いでしょう」


「ちょっと待て。俺はこのまま、夫婦でいるつもりだ」


ミーナスの頬に手を当て、そっと顔を上げさせると、ミーナスの瞳が濡れていた。


「でも、もう私には、何の力もないです。あなたには、もっとふさわしい女性が……」


 ミーナスの言葉は、イリオスの唇で塞がれた。


「俺は、ありのままの君が好きだ。

今の君が好きだ。

陛下にも臆することなく物を言う君が好きだ。

七つの玉を手放した、あの笑顔が大好きなんだ」


 ミーナスは涙で何も言えなかった。

 ただ、イリオスの胸に顔を埋め、温かさを感じていた。


「君を愛している。

ずっと一緒にいて欲しい」

「承知、しました」




◇後始末◇



 国王は王子二人共、臣籍降下とする。

 荒れた領地を与え、一定以上の収穫を上げるようになるまで、王都への帰還を禁じた。

 次期国王には、他国へ嫁いだ国王の妹から、養子をとる。


 神官長は、従来の聖女の選抜方法を改め、聖女を希望する全ての者たちに教育を与えることにした。

 然るべく教育を受けた者たちが、神殿で祈祷し加護を授かれば、出自に関係なく聖女の身分を与えるとし、多くの国民に支持された。



 クローバー聖女の三人は、剃髪し、諸国巡礼を命じられる。

 各人が、それぞれ一万人を救うことが出来れば、還俗して良いと。

 脱落しないように神官が付き、女神の威光を国の隅々にまで広げる役割である。


 ミーナスに薬物を投与した医者たちは、その身を後進の医学教育に捧げることになる。

 新しい薬物や治療方法の実験体になったのだ。



 そして数年後。


 ミーナスは二人の子どもの母となる。

 夫のイリオスは、国王直属の近衛騎士として、今も王宮勤務だ。

 ミーナスが作る御守りを、今も胸に入れている。

 

『君を愛することは、ない』


 結婚式にイリオスが言ったセリフは、きっと女神が呑み込んでしまったと、ミーナスは思っている。


 了

お読みくださいまして、心より感謝申し上げます。

感想、評価、ブクマ、いいね、その全てにありがとうございます!!

大変励みになりました!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] GJ。
[一言] ストーリー構成が完璧ですね! お見事です!
[良い点] 完結おめでとうございます(∩´∀`)∩ ちょっとミーナスが怖かったですが、ハッピーエンドでよかったです(●´ω`●)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ