君を愛する
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◇それからの聖女◇
国王は肩を落とし、ミーナスに言う。
「どう詫びていいのか、分からない、聖女よ。ただ乞い願うのみ。
この国を、見捨てないで欲しい。
國民を、裁かないで欲しいのだ。
咎は全て、王たるわしにある」
神官長も頭を下げる。
「もう一度、聖女として、いや聖光女として、神殿に力を貸してはいただけないでしょうか」
ミーナスはイリオスと手を繋ぎ、国王に向かう。
「陛下の御言葉、痛み入ります。私の最後の力を以て、現在のわが国を覆う、暗雲を祓いましょう」
「最後の……?」
神官長の疑問にミーナスは答える。
「私の加護を神殿に戻します」
「えっ! それでは」
「次代の聖女に渡してください。聖女の候補が神殿の女神像に祈れば、その人に一番合った加護が降ろされるはずです」
ミーナスが両手を組む。
目を閉じ祈祷の姿勢に入ると、彼女周囲に光の渦が生まれる。
渦からは、一つ、二つと玉が浮かび、それらは天井に消えていく。
七つ目の玉が消えた時、ミーナスは自然に笑顔になっていた。
十代の少女のあどけない笑顔に、イリオスはしばし見惚れた。
いつしか夜が明け、長く続いた雨は止んでいた。
あとの始末は国王と側近に任せ、ミーナスとイリオスは邸に戻る。
寝室で、ミーナスはイリオスに深くお辞儀をする。
「今までお世話になりました」
「え?」
「王命の婚姻は、もう終了で良いでしょう」
「ちょっと待て。俺はこのまま、夫婦でいるつもりだ」
ミーナスの頬に手を当て、そっと顔を上げさせると、ミーナスの瞳が濡れていた。
「でも、もう私には、何の力もないです。あなたには、もっとふさわしい女性が……」
ミーナスの言葉は、イリオスの唇で塞がれた。
「俺は、ありのままの君が好きだ。
今の君が好きだ。
陛下にも臆することなく物を言う君が好きだ。
七つの玉を手放した、あの笑顔が大好きなんだ」
ミーナスは涙で何も言えなかった。
ただ、イリオスの胸に顔を埋め、温かさを感じていた。
「君を愛している。
ずっと一緒にいて欲しい」
「承知、しました」
◇後始末◇
国王は王子二人共、臣籍降下とする。
荒れた領地を与え、一定以上の収穫を上げるようになるまで、王都への帰還を禁じた。
次期国王には、他国へ嫁いだ国王の妹から、養子をとる。
神官長は、従来の聖女の選抜方法を改め、聖女を希望する全ての者たちに教育を与えることにした。
然るべく教育を受けた者たちが、神殿で祈祷し加護を授かれば、出自に関係なく聖女の身分を与えるとし、多くの国民に支持された。
クローバー聖女の三人は、剃髪し、諸国巡礼を命じられる。
各人が、それぞれ一万人を救うことが出来れば、還俗して良いと。
脱落しないように神官が付き、女神の威光を国の隅々にまで広げる役割である。
ミーナスに薬物を投与した医者たちは、その身を後進の医学教育に捧げることになる。
新しい薬物や治療方法の実験体になったのだ。
そして数年後。
ミーナスは二人の子どもの母となる。
夫のイリオスは、国王直属の近衛騎士として、今も王宮勤務だ。
ミーナスが作る御守りを、今も胸に入れている。
『君を愛することは、ない』
結婚式にイリオスが言ったセリフは、きっと女神が呑み込んでしまったと、ミーナスは思っている。
了
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