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七つ目の宝玉

◇罪の自覚◇


 国王は片手を挙げる。


 同時にぞろぞろと、入ってくる面々。

 第二王子のタレス。

 聖女ニコル、ルリアナ、モアン。

 クローバー聖女の上司とも言える神官。

 国王付の医者二人。



 いずれも、ミーナスが聖女を辞めるきっかけを作った者たちである。


 タレスはミーナスの姿を認めると、いきなり騒ぐ。


「お、お、お前、ミーナス! 俺を呪殺するのか!」


 ミーナスは小首を傾げ、曖昧に微笑む。


「タレス殿下には、クローバー聖女が一人、ニコル様が、ついていらっしゃるではありませんか。簡単な呪いなど、祓ってくださいますでしょう」


「な、何を! わたくしは、あなたと違って現役の聖女ですのよ。殿方と二人きりで過ごすことなんて……」

「あら、お二人きりで、お過ごしされているのですね」


 ニコルは真っ赤になる。


「それはともかく、ニコル様、ルリアナ様、モアン様には、お渡ししたいものがありますのよ」


 微笑みながら、ミーナスは三人に、ぽいぽいぽいと球体を投げる。

 ツヤツヤした真っ赤なリンゴを見て、三人の顔は一気に青ざめる。


「如何でしょう。咽喉も渇いたことでしょうから、それで潤されては? ねえ、お医者さま」


 ミーナスは右手に、細い注射器を持っていた。


「私は不思議だったのですよ、ニコル様。たいていの薬物や毒物は、匂いで分かります。丸ごと一つのリンゴには、皮には何の匂いもなかった。果実を飲み込んだ瞬間、気を失ったのに」


「そ、それが何よ」


 ニコルの声は震えている。


「気がついたら、知らない部屋で、見たことも会ったこともない、殿方と一緒にいました」

「あなたが、男と遊んでいただけでしょう!」


 ルリアナが叫ぶ。


「それでね、仕方なく私は、自分に加護を使いましたの」


 三人の聖女と医者たちは、一斉に白い顔色になる。


「ご存知でした? 『癒し』は『清浄』の加護と同時に発動すると、体内の薬物や毒物を分解出来ます。分解する際、毒物の種類も分かるのですよ」


「し、知らないわよ、あなただけでしょ! そんなことが出来るの」


 モアンは泣きそうな顔である。


「まあ、それは失礼。それで私は、意識を失うことになった薬物を特定しましたの。所謂、睡眠薬ですね」


 ミーナスは片手の注射器を天井に向け、内筒を押す。


「でもね、神殿にはこのような薬、置いていないのです。ましてや、皮に匂いを残すことなく、果実の中身にだけ薬を入れるなんて、聖女だけでは出来ない所業です」


「俺じゃない、俺じゃないんだ!」


 一人の医者が叫ぶ。


「そ、そうだ、モアン様に頼まれて、注射器に睡眠薬を入れた医者は、既に処分されている!」


 もう一人が頭を抱える。


「も、もういいだろう。陛下の御前だ」


 王太子ゼノンが、額に冷や汗を浮かべている。


「ええ、そうですね王太子殿下。このまま尋問を続けたら、第二王子殿下の暗殺疑惑に辿り着きますものね」


「なんだと!」

「まさか、兄上!!」


 王太子と第二王子は互いに睨み合う。


「ち、違うぞ、誤解だ、タレス。これこそ陰謀だ」


 王太子の猫なで声に、いきり立つタレスも矛を収める。


「一体、お前は何が言いたのだ、ミーナス。聖女や医者を脅したいのか? 金が欲しいか?」


 怒気をはらんだ王太子ゼノンにも、ミーナスが怯むことはない。


「まさか。ただ、私が聖女の務めをおろそかにして、男性と通じていたという戯言を、この場で撤回していただきたいだけですわ」


「今更であろう。撤回など、する気はない」

「では、する気になっていただきましょうか……」


「お、お、お待ちください!!」



 バーンと音を響かせ、転がるように入って来たのは、神殿の最高責任者である、神官長であった。




◇七つ目の加護◇



「お待ちください、ミーナス様。いえ、女神キニージュ様の再臨、聖光女様!」



 神官長の発した言葉に、それまで黙して語らずの国王が口を開く。


「今、なんと」

「陛下、ミーナス様は、既に七つ目の加護を有していらっしゃいます」


 平伏しながら、神官長は言う。


「何!」

「いえ、今まで、過去数人いたという、六つの加護を持つ聖女たちは皆、七つ目の加護も同時に授かっていたのです」


 ミーナスはゆっくり瞬きをする。


「なぜに。それと七つ目の加護とは、一体……」


「陛下、わたしは記録を調べました。過去の六つ加護を持った聖女が現れた時、国に何が起こったのか」


「して、どうであった」


「天候不順による農作物の不作と病の蔓延。そして王宮内での権力闘争」


 まさに今、この国で起こっている事象である。


「記録にはこうありました。『聖女が光を発し、王族と王宮は封印された』と」


「なんと! では、七つ目の加護とは!」


「悪しきものの、『封印』でございます」


 ミーナスが跪いたまま、国王に答えた。


「国王陛下の病が完治したのも、病の元を封印したのです。病の元を叩くのは、人も国も同じこと」


 国王の脳裏に、幼い頃、先代の王に連れて行かれた宮殿奥の風景が過ぎる。

 朽ち果てた城跡に、懇願する姿勢の石像が何体かあった。


『父上、あれは、何の石像ですか?』

『元は人間であったはずの、成れの果てだ』


 あれこそが、聖女の封印だったのか!


 じんわりと、国王の背中に汗が流れる。


「国の封印をするつもりはないです。ですが、私へ詫びを一言、お願いしたいだけです」



「ごめんなさい! ごめんなさい! 私が悪かったんです。でも悪かったのは私だけじゃなく、ニコル様もルリアナ様も、みんな悪かったんです!!」


「モアン、うるさい! 一人だけイイコぶらないでよ!」

「ルリアナが一番、喜んでやってたじゃない! わ、私はただ、羨ましかっただけよ」


「羨ましかった? 私が?」


 ニコルにミーナスは問いかける。


「そ、そうよ。持って生まれた資質だけで、誰からも愛されて」



 そうだろうか。

 自分以外の三人の方が、爵位も高いし人気もあって、幸せそうに見えたが。


「悔しかったのよ。簡単に陛下の病気を治して、第二王子と婚約までして」


「俺はお前なんかと婚約したくなかった!」


 タレスが吐き捨てる。


「タレスとの婚約を結ばせたのは、わしの短慮であった。申し訳ない。結局、二人の王子はどちらも継承権を……」



 国王が言いかけた時に、第二王子タレスが剣を抜き、控えていたイリオスに切りかかっていく。


「不幸にさせるための結婚だったのだ! 聖女よ」


 イリオスは拘束されたまま、体の自由が利かない。


「お前のささやかな幸せを、断ち切ってやる!」

「イリオス様!」


 ミーナスはイリオスに向かって走る。


 刃が振り下ろされた、まさにその瞬間だった。イリオスの胸から眩い光が、放射状に生まれた。

 光は七色の玉になり、剣を持つタレスを貫く。



「うおおおおおお!!!!」


 弾き飛ばされたタレスは、そのまま倒れた。


 ミーナスはイリオスに抱きつく。

 拘束をようやく解いたイリオスも、彼女を抱きしめた。


 イリオスは胸のポケットを握る。


「守って、もらった。君の御守りに」



 神官長がタレスを抱き起す。

 息をしている第二王子に、神官長は嘆息した。

次話で完結します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今までこの国、実は王朝代替り何回もしてるんじゃあ、乃至、本流から傍流へとか。 前国王はそれ知ってたんだろうな。
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