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堕ちた聖女は王命での結婚相手に「愛することはない」と言われたのです  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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2/4

断罪

◇王都◇



 ミーナスが結婚式を挙げる、少し前のことだ。


 聖女三人が口論をしていた。


「祈祷は順番だって決めたじゃない! ニコル」

「だって、あなたの加護の方が、祈祷向きだもの、ルリアナ」

「もう、止めてよ二人とも! そうじゃなくても仕事が増えて大変なのよ」

「「うるさい! モアン」」


 ミーナスがいた頃は、祈祷は彼女の担当だった。


 誰よりも深く強く祈ることが出来るミーナスは、文句も言わず延々と祈祷していた。

 祈祷には、相当な集中力を必要とし、体力も消耗する。

 ニコル、ルリアナ、モアンの三人は、基本的には神殿に祈祷を申し込む人の受付だけしていた。


 三人が騒いでいると、背後から神官が咳払いをする。


「祈祷は、三人でやりなさい」


 あからさまに不満を表出する、三人の聖女。


「お前たち三人合わせても、祈願力はミーナス一人の、一割にもならん」


 最近、王都の神殿でご祈祷を頼んでも、全く効果がないと囁かれている。

 そして同時に、広がる噂がある。


「聖女を降りたミーナス様は、本当は強引に辞めさせられたのだ」

「あの方を妬んだ、他の聖女の仕業だ」

「女神様は厳しいぞ。キニージュ様は、不正を許さぬ」



 神殿への噂は、当然王宮にも伝わっていた。

 何よりも噂の信憑性を増したのは、王族の度重なる不幸である。


 国王が再び寝込んでしまったし、立太子の儀の際シャンデリアが落ちて、複数のケガ人が出た。

 それらを目の当たりにした第二王子は、ガクガク震えながら家臣に言う。


「の、呪いだ! ミーナスが王家に呪いをかけたのだ!」


 神経衰弱状態の第二王子に呼ばれ、王家御用達の医者が呼ばれる。


「殿下、お薬を用意しました」


 それは単なる睡眠薬だった。

 だが、服用した第二王子は、直後に吐血した。


「ど、毒……」



 家臣がすぐに解毒剤を渡し、第二王子は一命を取りとめたが、王族に毒を盛った疑いで、医者は拘束された。王族へ危害を加えた者への刑罰は、当然死刑である。

 その医者は、元は国王直属だった。

 ミーナス排除のために、ひと役買った人物である。


 神殿と王宮には淀んだ空気が漂い、冷たい雨が降り続く。

 王都は活気を失い、王家直属の領地では、ほとんどの作物が腐っていった。


「もう一度、もう一度だけ、ミーナスを、真の聖女を呼べ!」



 病床で咳き込む国王が、宰相を呼びつけて命令したのは、ミーナスが結婚して半年後のことだった。

 同時期に、神殿の神官長は、ある疑惑と仮説を基に、神殿の過去の歴史文書をひも解いていた。


 もしも……。

 もしも彼の仮説が正しいのであれば、とんでもないことをしてしまっている。


 この国は、ロガリア王国は滅んでしまう!




◇断罪◇



 帰宅しようと準備をしていたイリオスは、王宮に呼び出された。

 王太子となったゼノンと宰相が中央におり、部屋の四隅は王太子付の騎士が鎧を着けて立っている。


 イリオスがミーナスとの結婚を命じられた時よりも、重苦しい雰囲気だ。


「貴殿に折り入って頼みがある」


 王太子が歪んだ笑顔を見せる。

 この表情でゼノンが言いだす時は、たいてい、碌な内容ではない。


「貴殿の細君、元聖女のミーナスを、王宮まで連れて来て欲しい」


 一呼吸おいて、イリオスは答える。


「既に聖女を引退した妻に、何の用がおありですか?」


「既知であろう。国王陛下は再び病に見舞われた。医者たちの薬は何の役にも立たん。神殿の聖女では、祈祷力が全く足らん」


「妻ミーナスは、聖女として相応しくないと、神殿のみならず王都からも追放されたはずですが」


「くどい! 王命であるぞ! つべこべ言わずに今すぐ連れて来い!」


 王太子が怒鳴る。


「お断りいたします」


イリオスの返答と同時に、背後の騎士が抜き身の剣をイリオスの首に当てる。


「ならば、ミーナスに出向いてもらうまでだ」




 その晩、スペンダー家に王家の馬車が着く。

 国王の署名が入った手紙を家令に渡すと、家令はすぐにミーナスに伝える。


 いよいよ、来た。

 手紙には『なお、イリオス・スペンダー伯も貴方をお待ちです』と書いてある。

 我が夫を、人質に取ったのか。

 そして、国王陛下の治癒を行った、その後は……。


 決意を固めて、ミーナスは馬車に乗った。




「こちらでございます」


 王宮に着いたミーナスは、騎士に案内されて謁見室に入る。

 椅子に座った王太子に淑女の礼を執る。


「久しいな、ミーナス。いや、スペンダー夫人」


「王国の栄光を受け継ぐべき王太子様に、ご挨拶を申し上げます。ですが……」


 ミーナスは顔を上げ、辺りを見回す。


「我が夫に会わせてください」


 王太子は唇を歪めて笑う。


「男の味を覚えたか、聖女よ。本来、下級騎士などではなく、我が王族の妃になるべき者であろうに」

「それを拒絶なさったのは、王族の方々ではありませんか」


 艶然と微笑むミーナスに、王太子は口を噤む。

 これほどまでに、圧力を持つ聖女であったろうか。

 追放する前に、何度も会っている相手だ。


 そしてここまで、ひれ伏したいほどの、美貌の持ち主だったのか……。


「まあいい……」


 王太子はアゴで部下に命じる。


 奥の扉が開き、拘束されたイリオスが騎士に連れられて来る。


「ミーナ!」

「ご安心ください、旦那様。貴方様には、傷一つ付けること許しません」

「そ、そんなことより、お前の方が……」


「ええい! うるさい! とにかく、陛下の治療をさっさとやれ!」



 ミーナスは凛とした視線で、王太子に訊く。


「陛下の病が完治しましたら、願い事を叶えていただけますか?」


 気圧されながらも王太子は宣言する。


「ああ、良いだろう。何でも願うと良い」



「それでは」


 ミーナスは右手の指をパチンと鳴らす。


「はい、陛下の治療、終わりました」



 居合わせた全員が、あっけに取られる。


「ばっ! 馬鹿を言うな! ふざけていると、お前の夫ともども、刑に処すぞ」



「馬鹿はお前だ、ゼノン」


 謁見室の裏から声がする。

 はっとしてゼノンは玉座を降り、臣下の礼を執る。

 王太子が礼を尽くす相手は、一人だけである。


 室内にいる全員が、声の主に跪く。


「面を上げよ」


 国王陛下がゆっくりと玉座に就く。


「まずは礼を言う、聖女ミーナス。そなたの尽力に深く感謝する」

「勿体ない御言葉でございます」


 ゼノンは顔色が悪い。


「ま、まさか。そんな……一瞬で、病が完治?」


 王太子の表情に一瞥をくれた国王は、ミーナスに言う。


「さて、聖女ミーナスの願いは既に叶えてあるぞ」

「ありがたき幸せでございます」

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 聖女の妻は、元々伯爵家の出で、何れは家門継ぐ所を、聖女降嫁だから、近衛騎士団長の地位と伯継いだんだろうし、そう下級騎士の出とも言えん気も。 [一言] 女神が直に聖女に降臨してるのかな。…
[気になる点] ミーナスはいったい何を願うのか……(。-`ω-) [一言] ちょっと王太子が小物臭いですね( ´艸`)
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