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最近全巻読んで心動かされたのは

 最近全巻読んで心動かされたのは藤田和日郎の『双亡亭壊すべし』。本当に、本当によかった。『うしおととら』とか『からくりサーカス』とか描いていた人が最近もこんな素晴らしい作品を描いているという事実に泣きそうになる。

 で、作中にマルセル・デュシャンの名前が出て来て少し驚いた。言及者坂巻泥努は画家(それも画壇ではマジで全然評価されない感じの。でもそこが彼のご濫行の理由になっていて何ともたまらない)だから知っていてもおかしくないのだが。デュシャンの純粋な意味での絵画作品ってそう数がなくて、まあそれは酷評にウンザリしたのとレディメイドみたいな表現手段を見出したのが理由として大きいのだけど、どの作品も『双亡亭』の情念的な感じとはかなり距離があるように思えて(何せ日本語で極薄と訳されもする〝アンフラマンス〟という概念というか感覚を提唱した人だ)、そこが自分には意外だったのかなと思う。


 ところで僕は基本的に多くの人には幸せになって欲しいと心の底から思っている。ただ、自分の正義とか善意とは関係ない〝罪〟のようなものがこの世にはあって、それを犯した人間は後戻り出来ないのかな、と思う事もある。というか僕自身が何かの責任を無意味に負っているような気がして、生活していて辛い。結構、嫌な目に遭うのが多い人間だったのだが、それすら罪を犯せば罰を受けるという中世の警句にもあるようなありふれた事なんじゃないのか、でも何をしたのか思い出せない、憶えていても頭が悪すぎて罪と理解できないからまた繰り返すかも知れない、しかも自分は相対主義的観点から語れば明白にまだ恵まれている方の立場でしかないからこれ以上の底がある、そしてその奥には自分ではなくとも自分とそう変わらないどころか益々美しい心根をした多くの人が縛り付けられて臓腑を啄まれている、こんな世界は地獄だ、と考えてしまう。

 でもこの作品に登場する超心理科学者のアウグストは――とても嘘臭い表現だが――生きる勇気というべきものを与えてくれる。彼は間違いなく過ちのない人生を送ってきた人間ではなかった。その結果を考えれば後悔も抱えていかなければいけない。誰も彼のパワハラや過度の束縛といった失敗を肩代わりしてくれる人はいない。

 だがアウグスト自身が苦しみを転嫁する生き方など望まないのだ。彼は力強く後悔を頭蓋に詰め込みひた走っていく事を宣言し、その宣言が仲間の老夫婦を救う。この作品の人間性というものへの態度を象徴する感動的な下りだったと思う。

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