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改獣を狩る者  作者: 三田 白兎
1章 新人狩人と黒い雨
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1話 夢抱く青年、狩人になる

1章完結まで毎日投稿の予定です!

今日は3話まで投稿します。

これからよろしくお願いします!!


第1話ということで5000文字近いですが、2話以降は2000字程度で投稿することが多いと思います。



「――――山門(やまと)大陽(たいよう)様、これにて能力測定を終了とさせていただきます。結果が出るまでしばらくお待ちください」

「りょーかいです」


 プロ野球の試合やアーティストのライブなどが行われるような規模の巨大ドーム。内部には身体能力を測定する様々な専用器具。そしてとある試験を受けるために集まった者たちとその測定員がいた。


 たった今、軽い口調で答えた山門太陽は丁度その試験を終えたばかりの青年だ。

 どこかしらの高校の体操服に身を包んだ彼は、壁際に腰を下ろして持参していたハンドタオルを頭からバサッと被る。そして夕焼け色の髪と汗でびしょ濡れになった顔を雑に拭う。続いて近くに置いていたリュックから水筒を取り出すと、蓋を開けて中のスポーツドリンクを一気に体へと流し込んだ。


「ぷはぁ~。生き返った!」

 

 ゴクリゴクリと数回喉を鳴らし、2リットルの水筒を空にした彼は満足気に独りごちる。


「お待たせいたしました。能力測定の結果が出ましたので、登録された端末へ転送いたします」


 3分ほど休憩したところで測定員から再び声がかかった。


「もう出たんだ。どうも」

「ドーム内や出入り口で確認されると混み合ってしまうため、結果の確認は狩人資格試験場を出てからでお願いいたします」

「わかりました。それじゃ、俺はこれで」


 リュックに荷物を全て放り込んだ彼は、足早に試験会場を後にするのだった。


 測定員が口にした狩人資格試験場。それが巨大ドームの正体であり、太陽がここを訪れた理由は狩人資格試験を受けるためである。

 では、狩人とは何か。主に狩猟を仕事とする者たちを指す。しかし、狩るのはただの獣ではない。改獣と呼ばれる化け物たちである。


 ことの始まりは20年前の2043年。ベレス・セッタ博士という1人の天才が発端だ。

 当時、彼は遺伝子組み換えによって現代にいる生物を強制的に数段回進化させたり、意図的に突然変異を起こさせることができないかと実験を行っていた。もちろんその研究内容を世間に公表した際には世界各国から非難されすぐに表舞台から姿を消したのだが……もとより他人に何と言われようが辞めるつもりのなかった彼は秘密裏に協力者を募り、着々と研究を進めていた。

 そして2052年、ついに彼の研究が成功したのである。鉄より硬い牙を持つ3m級の犬、ゲコっと一鳴きするだけでガラスを木端微塵にする蛙、大空より飛来し人間を軽々と攫って行く巨大な三つ首烏など。これまでの生物とは一線を画す、明らかに異常な能力を持つ化け物たち――――改獣がこの日、誕生したのだ。


 ベレス博士と他の研究員たちは実験の成功に大喜びしていたが、ここから人類にとって最悪の展開が繰り広げられる。

 新生物たちを実験中に保存していたカプセル、刃物はもちろん銃弾ですら通さない強化ガラス製だったが、彼等はそれをいとも簡単に破壊して脱走。その場にいた人間を次々と捕食していったのである。それから先は想像するに易い。禁忌の実験によって生み出された化け物たちは研究所の外へ出て、阿鼻叫喚の地獄を生み出したのである。


 最初に大きな被害が出たのはベレス博士の研究施設があったロシア南部だった。施設から溢れ出した異能異形の化け物たちが好き放題暴れまわり、人を蹂躙していく。

 当時のロシア大統領はすぐに軍を派遣して鎮圧にかかった。初めは歩兵と数機の戦車部隊。接敵してすぐに攻撃するも化け物たちにはかすり傷がつく程度。反対に巨大な化け犬のひと噛みは戦車の装甲をいともたやすく貫き、操縦士の命をそのまま刈り取る。蛙の鳴き声で周囲の建物の窓がことごとく破損し、音を聞いた人間の鼓膜は裂け鮮血を撒き散らした。更に三つ首の烏はそれぞれの頭が別々の歩兵を攫いどこかへ連れ去り、病魔振り撒くドブネズミの群れは死の街を生み出した。他にも複数いた化け物たちは各々が好き放題暴れまわり、1週間もしないうちにロシア南部の半分以上が人間の支配地ではなくなった。


 世紀の大事件として、このことはすぐに世界へ発信される。ロシア大統領は責任を追及されて辞任せざる得ない状態へ。

 だが、国内では大統領を変えるよりも南部を化け物から取り返してくれという声で溢れていたため、当時の大統領は最後の仕事として全軍事力を持って敵を叩くことにする。


 ――――――――1ヵ月後、ロシアは南部だけでなく国土の7割近くを手放すことになった。戦闘機や戦車を多数出動させてミサイルや銃まで持ち込み、挙句には原子爆弾を自国内に落とすという歴史上初の選択までしたにも関わらず。


 一方、ロシアの大部分を蹂躙した改獣たちは海を越え山を越え、他の国々へと気が向くままに移動を開始したのだった。

 日が経つにつれて個体数を増やし続けながら、世界各地を暴れまわる。弱小国家はすぐにいくつも滅亡して、先進国もロシアのように国土の大部分を改獣に明け渡して限られた地区の防衛に力を入れることでなんとか存続している。あわや人類滅亡かとも言われていた状況。

 変化があったのは日本とアメリカが共食いなどで死亡した改獣の遺体を回収して兵器転用できないかと模索したところからである。

 実用までには莫大な研究費と人員。更に3年という時間がかかってしまったが、ついに対改獣兵器が完成したのである。ようやく改獣に対抗できる武器を手に入れた人類は、少しずつ息を吹き返すように改獣の討伐と失った土地の奪還を開始するのだった。


 そして現在。対改獣兵器を扱い改獣を屠る者たちを狩人と呼び、日本の場合は一定以上の身体能力示して資格を取らなければ就くことができない仕事となっている。


「よーし。会場からは出たし、結果を確認しますか」


 ドームを出た太陽はリュックから携帯端末を取り出した。メッセージアプリを開き、国が母体の対改獣組織であり狩人資格試験の実施も行っている狩人協会から届いた試験結果の内容を確認する。




<2063年4月4日:測定値>

[世界ランキング圏外:―]

山門太陽(16歳)


パワー  :E+

スタミナ :C

スピード :E-

テクニカル:F-

センス  :C




「G判定は1つもない……よっしゃ! 狩人試験合格だ!!」


 測定値の最低評価はG。それが2つ以上あると試験は不合格である。太陽の能力で最も低いのはテクニカルでF-。Gは1つもない。つまり無事に狩人になることができたのである。

 なお、このメッセージはあくまでも結果を通知しているだけ。よって後で狩人協会のサイトにメッセージに記載されている狩人IDと自分で決めたパスワードを使って本登録を行わなければならない。


「太陽、お疲れ様。狩人試験どうだった?」


 試験結果の確認をしていた太陽のもとへ、1人の少女が駆け寄る。強風に煽られ舞い散る桜と色馴染む長髪をなびかせながら。


「奈月、迎えにきてくれたんだ」

「うん、私も太陽の試験結果が気になって居ても立っても居られなくなったからね」


 淡い青の瞳でそう返した彼女は剣崎奈月。家が近所で太陽と物心ついた頃から仲良くしている幼馴染だ。


「お前は母さんかよ。安心しろって、もちろん合格したから」


 太陽は満面の笑みで答える。


「さっきからテンション高めだったから落ちたとはあまり思ってなかったけど、とにかくよかった。おめでとう! これでようやく私たちの2人ともスタート地点に立てたね」

「おう。その感じだとそっちもハンターズギルドの立ち上げは上手くいったんだな」

「当たり前でしょ?」


 ハンターズギルドは狩人の所属する会社のことである。対改獣兵器という強力な武器を狩人資格を持っているとはいえ、ただの一個人に使用許可することは問題がある。そこで国は専用に立ち上げられた会社、つまりはハンターズギルドに所属している狩人に限り、対改獣兵器の使用を許可することにしたのだ。もちろんハンターズギルドに所属しているからといって好き放題使えるわけではない上、改獣と対改獣兵器についての法律が存在するため使用するためには様々な手続きなどが必要になるわけだが。


 最近では、狩人は子供からすればヒーロー的存在であるためにタレントのような立場にもなりつつある。そのためハンターズギルドはそういった方面での仕事がきた場合にも対応することになっている。


「親父さんの力を借りてだけどな」

「そこは言わない約束でしょ! 確かに協力はしてもらったけど、ちょっとだけだもん!!」

「まっ、そういうことにしておきますか。ところでハンターズギルドの名前はもう決めたのか?」

「もちろん。私たちの立ち上げる会社の名前は、ハンターズギルド<ツルギ>だよ」

「自分の苗字から?」

「それもあるけど、これから太陽は剣で戦うつもりなんでしょ? それもかけてるの」


 測定値としても出ていたが、太陽はテクニカルが低い。そのため刀などの扱うために技術が必要な武器は不向きである。彼はそれを身体能力測定する前から自覚していたため、戦闘で使用するイメージが簡単にできて、扱いやすい剣をメインウェポンとする予定にしている。


「なるほど、いいじゃん」

「でしょ?」

「おう。それじゃ、お互いに報告は終わったことだしメシ行こうぜ。腹減った」


 日は真上。昼過ぎである。午前中から身体能力測定をした太陽は空腹で限界が近かった。


「え~、外食するおこづかいがもったいないって。私が久しぶりに手料理振る舞ってあげるからうちにきなよ」

「は!? ちょっと待て。お前の手料理だけはマジで勘弁してくれ。前回、俺と執事の松木さんが死にかけたのを忘れたのか!!」


 太陽は過去の恐ろしい食の体験を思い出し身震いする。


「いや、それはその。ちょっとしたミスというか。あれだから」

「ちょっとのミスであんなもん作れるか!!!」

「うっ。ごめん」

「はぁ……仕方ないから俺の家にこい。手の込んだ料理は無理だけど、簡単なもんなら作ってやるから。こづかい使わなくて済むし、いいだろ?」


 あからさまに奈月が落ち込んだのを見て、太陽は言い過ぎたと後悔した。しかし、毒でも混入しているかと言いたくなるような料理を食べるとは口が裂けても言えないので代案を出す。


「そ、そこまで言うならお言葉に甘えさせてもらおうかな。でも、いつか手料理リベンジはするから」

「頼むからそれは諦めてくれ」


 何故か再び手料理を振る舞うと宣言する奈月に、太陽は恐怖した。




読んでいただきありがとうございます。

よければ、ブックマークや下の☆☆☆☆☆で評価をつけてもらえると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。




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