剣も魔法も跳ね返す最強魔王の弱点は寝技だった
「……うぉぉ」
「……」
勇者が後ろから尻餅をついた私の首をミシミシと締め上げる。苦しいし後ろから体重をかけてくるので立ち上がれない。
すべての魔法を跳ね返し、すべての武器が効かないワシの弱点がこんなシンプルな技だとは思わなかった。だが負けん!1000年の時を生きたワシがこんな若造に……。
「ぶふっ!」
「……」
なんで無言なんじゃ?逆に怖いのだが?勇者はワシの首を締めたまま後ろに倒れワシの胴体に足を絡ませた。……動けない。
「ギバップ!?」
「ノー!」
負けてたまるかぁ。ワシの代で魔王家の血筋を絶やすわけにはいかん!オーマイガッ!
「……」
下手に動いたのが良くなかったのかワシは四つんばい。勇者は私の背中に乗って首を締める体勢になってしまった。
「ギバップ!?ギバップ!?」
ワシは人差し指を激しく振った。
「ノー!ノー!ギブアップノー!魔王の力を思いしれえ!」
「……!?」
立ち上がって背中から倒れた。これは勇者に大ダメージだろう。嘘じゃろ?全く手を離さないではないか。また同じ体勢に戻ってしまった。
「んいーー!」
なりふり構っていられない!ジタバタと暴れると呼吸が楽になった。腕がやっと外れたか!?と喜んだのも束の間。今度は腕ひしぎ十字固めの体勢に入られてしまった。
勇者はワシの首と胸に足を乗せてワシの手首を両手で握り思い切り伸ばす。
「いーたいいたいいたい!折れる折れる!」
「ギバップ!?」
「ノー!」
首を絞められようが腕を折られそうになろうがその程度では魔王は負けぬ!負けるわけにはいかぬのだ!舐めるな!人間風情が!でも痛い!
「に……人間よ。ワシと手を組まぬか?ワシと手を組めば世界の半分をくれてやろう」
「!?」
欲が出たな!力が緩んだぞ!未熟者め!嘘に決まっておろうが!今度こそワシは立ち上がった。立ち上がってしまえばワシのものよ!ええい!離せ!離せ!そんな体勢から何が……でき……る?
「……うおぉぉぉ」
ワシの手首を掴み腕を伸ばしながら足を首に巻き付けてきおったぁ。足で首を絞められて腕も折られるぅ。これは……辛い。腕も首も両方は無理ぃ。
「ギバップ!?」
「……うぅぅ。ギバップぅ」
ワシは勇者の腕を軽く二回叩いた。
「オーケっ!ギバップ!ストップ!ストップ!勝者……アントニオ・ホドリゴ・ユーーーシャーーーッ!」
いつの間にレフリーがおったんじゃあ。
パンッパパン!四方からクラッカーの音。金色の紙吹雪を全身に浴びた勇者が両手をあげている。勝利者トロフィーにキスをしてセコンド達と喜びをわかち合う……だからいつの間におったんじゃ?そして最後にワシに近付いてハグをしてきおった。
「ナイスファイ。次は敵同士ではなくファイターとして。ライバルとして戦おう」
「……えっ?」
トゥンク。
1000年間生きて初めての恋が始まった。ワシも女ということか。照れてしまうのぉ。