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【更新再開】庭に穴ができた。ダンジョンかもしれないけど俺はゴミ捨て場にしてる【書籍発売&コミカライズ企画進行中】  作者: ダイスケ
第4章:グローバル企業の取引慣行

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第50話 何もかも遅い

少し日数が空きました。引き続きよろしくお願いします

 ルイーズは慎重に銃を構え老人の眉間に照準したまま問う。


「…お名前を伺ってもいいかしら?お爺さん」


「聞いても意味はないかもしれませんよ、()()()()()()。何もかも、()()()()のですからね」


 ルイーズは片方の眉を勢いよく吊り上げた。

 今は内通者から受け取った別人名義の身分証を身に着けているにも関わらず、この老人は迷いなく彼女の名を呼んだのだから。


「遅いかどうかは私が決めることよ…最初から知っていたのね。まったく…間抜けな話だわ」


「いえいえ。お気を落とす必要はありません。むろん最初からではありませんよ。先ほど、お友達から聞いたのですから」


「友達なんていないわ」


 縁もゆかりもない他国で工作員として生きてきた彼女には、擬態(カバー)はあっても友人はいない。


「それは失礼。友達でなければ、お仕事仲間と言った方がよろしいですかな」


 老人の意図したところは完璧にルイーズに伝わった。

 他国の正規の工作員達は捕まった、ということか。


 単なるハッタリの可能性もあるが、老人の茫洋とした態度を前にすると、あながち嘘とも思えない。


「それで?どうするつもり?」


「どうする、とは?」


 銃を向けられているというのに、全く動揺が見られない老人の態度にルイーズは苛立ちを通り越して不気味さを感じている。


(何もかも、この不快な闇がいけない)


「もうすぐ応援が来るから時間稼ぎをしているの?それとも、このまま逃がしてくれるの?」


「ああ、なるほど…そういう意味ですか。答えは、どちらでもありません。全ては()()()()のですからな」


「さっきも聞いたわよ!」


 ルイーズが叫ぶと同時に構えた拳銃が火を吹いた。

 パシィッ!!と炸裂音と共に卓上の懐中電灯が砕け散る。


 唯一の灯りが失われ、ルイーズも老人も完全な闇に覆われた。


「もう、全ては遅いのですがね」


 ルイーズが駆け去っていく足音を聞きながら、老人は他人には聞こえない低い声でつぶやいた。


 ★ ★ ★ ★ ★


 ルイーズは弱々しく赤い非常灯の灯りを頼りに通路を駆けていた。


『とにかく、まずはここから離れないと』


 潜入工作員の常として、事前情報で得た施設の通路は完璧に記憶している。

 それに加えて老人に案内されたルートを逆に辿れれば脱出そのものは難しくない。


『いいえだめね。きっと警備が待ち構えているわ』


 ルイーズは己の置かれた状況から冷静に計画を修正し、最善の脱出ルートを計算する。


 処理施設は直径1キロの円形をしているのだから、円周部分は3キロに及ぶ。

 単なる民間企業のMCTBH社が欧州共同視察団のアテンドをしながら、施設の周囲全てを警備できるほどの人員を抱えているとは考えられない。

 必然的に、警備側の作戦は少数精鋭による追跡と、要所での待ち伏せとならざるを得ない、はずだ。


『だったら!』


 ルイーズは咄嗟に通路を登ることをやめて、横向きの通路に飛び込んだ。


 ルイーズには有利な点がある。

 それは場所だ。

 施設の中心近くにいる彼女は、内円で少しの距離を移動するだけで外円に位置する警備陣に大きく距離を移動することを強制できる。


 極端な話、もしもルイーズが円の中心にいたとしたら、彼女が反対側に向きを変えるだけで外の円周上の警備陣は待ち伏せのために1.5キロ以上の距離を移動しなければならないことになる。


 今のように横向きの通路をうまく見つけて移動し続けることができれば、監視カメラの追跡を妨害するスーツの機能を生かして警備陣の待ち伏せは距離的に無効化できる。


『あとは追跡班を撒ければ』


 追跡班はどの程度手強いだろうか。


 日本国内では民間の銃器所持が規制されている。

 放射性廃棄物を警備する政府派遣の軍人ならともかく、いち民間企業に過ぎないMCTBH社の警備員が銃器を持っているとは考えにくい。


 であれば、手元の小型拳銃は例え警備陣に接敵したとしても彼女に絶大な優位をもたらしてくれるだろう。


 追跡班だって、本質的には気にする必要はないのだ。

 自分は逃げ切れる。


 もしも、あの不気味な老人が追ってこなければ。


 ルイーズは闇の中で小さく身震いをした。


 あのとき、彼女がとっさに老人を狙わず卓上の懐中電灯を撃ったのは、目眩ましの意味もあったし、人を殺すと施設脱出後に官憲の追跡が格段に厳しくなる、という打算もあった。


 しかし、そのときの彼女が実際に感じていたのは「ひょっとして老人には銃弾が通用しないのでは」という圧倒的に非合理な怖れであったかもしれなかった。


『この気持ち悪い闇がいけないのよ』


 ルイーズは知らず識らずのうちに歩みを止めていた己を叱咤して、再び走り出す。

 いや、走り出そうとした。


『なに…これ』


 彼女が進もうとした通路は、完全に封鎖されていた。

 無数のドラム缶が積み上げられて。


 思わず後ずさった彼女の背後から、声がかけられた。

 聞き知った、老いた人間の声で。


「ですから、()()()()()()()()のですよ」


 と。

身内の入院関連で私事が混み合っているので更新頻度はやや低くなります

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一二三書房様 庭に穴が出来た 特設ページです https://www.hifumi.co.jp/lineup/9784891998769
― 新着の感想 ―
[一言] なんというガチホラー
[良い点] scp読んでる時とおんなじ気持ち悪さがある。 穴に隷属されると肉体の強化と精神汚染が入るのかなぁ。 最初は穴を使ってレベルアップして俺TUEEEEやる作品だと思ったのになんか知らん間にホラ…
[一言] 既に穴の中?
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