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今更言ってももう遅い!追放された[サポーター]は故郷で幸せに暮らします。

作者: ビーチサンダルの人

最後のがやりたかっただけかもしれない。

突然の衝撃に呼吸が止まる。辺りを見渡すとゲームに出てくるような化け物と何人かの人間が対峙していた。自分の置かれている状況を理解できずにいると、慌てて近づいてくる少女が視界に映った。


「グラント!大丈夫!?」


グラント、少女にそう呼ばれ靄がかかっていたような思考が徐々に鮮明になっていく。そう、俺の名前はグラント、ここにいる少女や向こうで化け物・・・・・・いや、魔物と対峙している仲間と共にパーティー【金色の鷲】を組んでダンジョンを探索している冒険者だ。そしてどうやら俺は、戦闘中に魔物に壁まで吹っ飛ばされていたらしい。そう理解した瞬間慌てて飛び起き仲間達の元へ向かおうとする。このパーティーにおける俺の役割は前衛だ。自分と共に飛ばされていた大剣を拾い、駆け寄ってきていた少女、エマがヒールをかけてくれたことに走りながら礼を言い、皆の元へ急ぐ。


「すまん、油断した!」


「平気かグラント!」


リーダーのレックスへの返事の代わりに、自身のスキル[剛体術]でお返しとばかりに魔物を吹っ飛ばして見せる。


「敵を前に呆けるなんてなに考えてるの」


「悪い、マリアーナ!」


「今は目の前の敵に集中しろ、態勢を整えれば勝てない相手じゃない、一気に倒すぞ!」


レックスの言葉を合図に、各々のスキルを発動させ魔物を追い詰めていき、無事に魔物を討伐することに成功した。











ギルドで討伐報酬を受け取り、宿に戻るとどっと疲れが湧いて出た。


「記憶戻るのが戦闘中って殺す気か!」


俺の名前はグラント。仲間と共に冒険者をしている。組んでるパーティーもそれなりに強く、そろそろ上級者の仲間入りとギルドでも結構注目されている。といっても、ほとんどがリーダーのレックスの力に依るところが大きいが。そして、いわゆる転生者だ。日本人だった頃の記憶を戦闘の最中に思い出したようで、混乱しているところを魔物に吹っ飛ばされて更に混乱するというまぁまぁ危機的状況に陥っていた。吹っ飛ばされたことで先ず魔物を倒すことを意識出来たけど。


「それにしても転生か・・・・・・」


まさかほんとに剣と魔法の世界に来ることになるとは。小説とかだとよくあるけど、チートって感じでもないし誰かを助けたとかあまりにも不幸な人生だったからとかで死んで神様に会ったわけでもない。というか死んだのか?日本人だったってこと以外がさっぱりわからない。


そんなことを考えていると、レックスから大事な話があるとのこと。











部屋にパーティー全員が集まるとレックスは言った。


「いきなりだが、君には【金色の鷲】を抜けてもらう。悪いがこれは決定事項だ」


ほんとにいきなり追放始まったー!?


そしてここで、俺は衝撃と共に瞬時に状況を理解した。それはパーティー内での事情ではなく、この状況に対してだ。これは・・・・・・『今更言ってももう遅い!』ってやつだ!そして、この追放劇、向けられたのは俺ではなく、エマだった。






この世界では、成人である15才になった時に、2つのスキルを授かる。このスキルによって自身の将来が決まるといっても過言ではないくらいにスキルは重要だ。簡単なものは努力によってスキルと同じことを出来るようになるが、どうやっても真似できないこともある。

例えば俺、グラントのスキルは[重剣士]と[剛体術]だ。[重剣士]は重く大きい剣を使えば強くなり、[剛体術]は魔力を使い体の筋力や体力を上げ強度と身体能力を高める組み合わせとしても悪くないスキルだ。努力すれば重い剣も持てるようにはなるがそれによる強化はスキルでないと起きない。魔法なんかも魔力があれば発動するが、威力が高いほど長い詠唱が必要だ。スキルがあれば魔法名を言うだけで出るし魔力の消費量が減り威力が増すという風にあるとないとじゃ大違いだ。







俺がスキルについて考えていると、レックスの視線の先に居たエマが追放劇に待ったをかけた。


「な、なんでよ!確かにアタシは皆ほど戦えたりしないけど、その分パーティーを支えられるように努力してきたつもりよ!」


「あぁ、エマ、お前の戦闘中の支援魔法には助けられてきた、だがもう必要ないんだ」


「えっ」


「[サポーター]より優秀な、攻撃魔法も支援魔法も行える[魔導士]がパーティーに入る予定だからな」


「そんな・・・・・・でもそれじゃあ・・・・・・それなら今まで以上に雑用だってこなすわ、だから・・・・・・」


「はっきり言おう、エマ・・・・・・これから先の戦いではお前は足手まといだ」


「っ!」


確かに、エマのスキルは冒険者向きではなかった。彼女のスキルは[サポーター]と[日用魔法]。どちらか1つなら冒険者の中でも珍しくないスキルだ。[サポーター]は戦闘の補助の魔法や、旅の雑事等を手早く幅広くこなせるスキル。[日用魔法]は魔物との戦いでは攻撃力が足りないが火や水、ちょっとした怪我を治したり様々な魔法が使えるあると便利なスキル。戦闘系スキルと共に持っていればどちらもなかなか重宝するスキルではあるがこの2つというのはやはり冒険者としては厳しいものがある。


それでも突然の通達やこの追い詰め方はどうかと思うが。今まで一緒にやってきた仲間へのやり方としては最悪だ。一方的でエマを抜けさせるという決定を覆すつもりも無さそうだし、マリアーナも何も言わないということは事前に聞いていたのだろう。


ここで、前世の記憶が戻る前のグラントだったら、レックスのやり方には抗議するだろうが、戦力不足なのは否定せず、共にエマをパーティーから抜けさせていただろう。しかし今ここにいるグラントは日本で転生物やざまぁ系を読み漁った記憶を持つ。俺の直感が告げている。


『主人公はエマだ!』と


パーティーを支えていた不遇なスキル持ちを役立たずとして追放!このタイプは追放された後にスキルが真価を発揮してそこらのレアスキルなんか目じゃないほど強くなるやつだ!そして主人公の抜けたパーティーは徐々に破滅へと向かっていき、成功した主人公に戻ってきて欲しいと頼むけど今更もう遅い!って追い返される流れのやつ!俺は詳しいんだ!


そうなってくると俺の取るべき道は1つ・・・・・・


エマに付いていこう!


この手の残ったパーティーは、主人公だけが抜けて更に強い奴が入るから慢心して失敗していくからな、俺も抜ければ単純な人数差でレックス達も慎重になるだろう。共に戦ってきた仲間達を見放すのは少し罪悪感が湧くが、エマを追放する道を選んだのもレックス達だ。仕方のないことなのかもしれない。



どう声をかけて付いていこうかと考えているとレックスは硬貨の入った袋を取り出して言った。


「少ないかもしれないが餞別だ。それとパーティーの備品などは置いていってくれ。」


この言葉にエマはパーティーとの繋がりが完全に切れていたことを悟り、走って部屋から出ていった。


袋を置いて。


「レックス、マリアーナ、俺はその金を渡しに行ってくる。」


「そうか、頼む」


「それと、俺もパーティーを抜けさせてもらおうと思う」


「・・・・・・待て、正気か?わざわざ俺達のパーティーを抜けてまで」


「あぁ、俺はエマに付いてくよ」


「後悔するぞ」


「なんとかやってくさ」

こうして俺はエマを追いかけるのであった。











飛び出していったエマを追って宿を出た俺だったが


「どこ行ったんだろう」


普通に見失いました。いやしょうがないじゃん?ちょっとレックスと話してる間に遠くまで行くと思わないし、誰もエマを見てないって言うし。

初手から躓き途方に暮れていると、なんと宿の中からエマが出てきた。


「エマ!?まだ宿に居たのか!?」


「グラント・・・・・・悪かったわね、荷物の整理も済んだし今出ていくところよ」


どうやら出ていったと思っていたエマは、自身の部屋に戻っていたらしい。よく考えれば[サポーター]としてパーティーの荷物をもっていたけど、当然それ以外の彼女の荷物だってあるのだから部屋に戻るのは当たり前のことだった。


「なぁエマ、お前レックスが用意してた金忘れてってるぞ」


「わざわざそれを渡しにきたの?お金渡して早く縁を切りたいってわけ?」


「待て待て落ち着け、俺はお前に金を渡しには来たがさっさと居なくなれとか思ってないから」


「どうだかね、どうせあんたも使えない[サポーター]が抜けて清々してるんでしょ?」


凄いやけくそになっててちょっと怖いんだけど、そういえばあの時俺は何も言ってなかったことを思い出す。エマからしたら示し合わせて全員から追放されたように見えただろう。そうなると下手にご託を並べるよりは本題を伝えた方がいいのかもしれない。


「俺もパーティー抜けてきたから。そんでエマに付いてくわ」


「・・・・・・は?」


「あ、俺も荷物取ってくるからちょっと待ってろよ?居なくなるなよ?」


正面から来ると身構えていたら明後日の方向から殴られたように困惑しているエマに金を渡し、俺は急いで部屋に向かい置いていた荷物をまとめ、エマの元へ戻ると、彼女は言われた事をまだ呑み込めていなかったようで部屋に行く前と同じ状態だった。


「待たせたなエマ。それじゃあ行こうぜ」


「い、いやいやいや待って待って」


「なんだ、なんか忘れ物か?」


「違うわよ!なんでグラントが付いてくるって、てかパーティー抜けた!?なんで!?」


今更遅いって言われたくないからだよ!なんてことは伝えられないわけで。


「まぁなんだ、突然仲間を切り捨てるあのやり方はちょっとなぁと思って」


「だからってなんでアタシに付いてくるわけ?悔しいけどアタシはレックス達に比べたら一緒にいるメリットなんて」


あわよくば覚醒した恩恵を受けられたらなーとかも少しあるが


「確かにエマ本人は戦闘力は低かったけど、お前には助けられてきた。俺はスキル的に力押しが多いからエマの回復魔法にはいつも感謝してたぞ。それにあいつ等からしたら俺も強い方じゃないからな。そのうち同じように抜けさせられるかもしれん。だったら、もしかしたら同じように切り捨てられるかもしれないあいつ等といるより、俺はエマと居たいと思ったんだ。」


「・・・・・・なによそれ、バカじゃないの?」


「あとエマの作る飯うまかったから」


「バカだったかぁ」


普通にディスられた。


「いやいや大切なことだろ」


ご飯大事


「はぁ、まぁいいわ・・・・・・ほんとに付いてくるのね?だったらさっさとこの街出るわよ」











俺とエマは街を出てしばらく歩き、今は夜営をしている。焚き火を前にして、エマの作った食事を終えてから話す。


「というか、普通に付いてきたけど、明日まで待って馬車に乗りゃよかったんじゃねぇか?」


パーティーとしての道具は置いてきていたので、テントや結界石などはなく、夜営をするには少し危険だ。この世界では魔物はダンジョンにしか湧かないので心配はないが、獣は存在する。魔物に比べれば強くはないがそれでも確実に安全というわけでもない。


「あんな追い出し方されたら同じ街になんて半日だって居たくなくなるわよ」


「最悪1人でこの状態になってたってことか?流石にそれは危ないだろ。」


「アタシだって獣の相手くらいはできるわよ」


「そうじゃなくて、もう少し自分を大事にだな、飛び出したくなった気持ちもわかるが・・・・・・」


「っ、自分で抜けてきたあんたにわかるわけないでしょ!パーティーの為に頑張ってきたのに!それなのにいきなり追い出されて!全部なかったかのように役立たず扱いされて!アタシがどんな想いでっ・・・・・・アタシがっ・・・・・・」


「・・・・・・すまん」


「・・・・・・」


「お前の言う通りだ。今のは俺が無神経だった」


今まで堪えていた涙が堰を切ったように溢れだし、エマは顔を手に埋めた。

いずれ覚醒して無敵になるとしても今のエマはただの少女だ。心は傷付き怒りや悲しみを抱えている。そんな相手に気持ちはわかるなんてあまりにも軽率だ。そんな言葉を吐いた自分が恨めしい。


「・・・・・・アタシ、もう休む」


「あ、あぁ・・・・・・俺は火を見てるよ」


横になっても泣いていたエマだったが、疲れもあってかわりと直ぐに寝付いたようだ。彼女の寝息を耳で拾いながら、俺はエマが起きるまで火の番を続けた。











「グラント・・・・・・昨日はごめん・・・・・・」


朝の支度をしていると目覚めたエマが少し気まずそうに話しかけてくる。


「あー・・・・・・いや、エマは悪くない。俺の配慮が足りてなかっただけだ。」


「心配してくれてただけなのにアタシ・・・・・・」


「そんな気を使うなって。パーティーは抜けてきたけど仲間だろ?」


「でも」


「まぁまぁ、そんなことより起きたなら飯にしようぜ?腹減ったよ俺」


「そんなことって、アタシの謝罪をそんなこと呼ばわり!?」


「だって、俺が悪かったし。昨日の夜のことで謝罪されるつもりはないからなぁ・・・・・・それよりこれからのこと考えていこうぜ?っていうかそうだよ今後だよ、これからどこ向かうとか俺知らないんだけど。飯食いながら教えてくれよ」


「あんたねぇ・・・・・・悩んでたアタシがバカみたいじゃない」


「俺も昨日言われたからなぁ、どっちもバカでちょうどいいんじゃねーの?」


「どっちもバカじゃ絶望的でしょ。はぁー、なんかもう・・・・・・・・・・・・ご飯の準備しましょうか」


呆れ笑いでこっちを見るエマ。昨日から張り詰めていたが、少しは余裕ができたようだ。











「つまり、とりあえずはエマの故郷を目指すってことなんだな」


「そうね。ここからだと何個か大きな街を経由してだからちょっと遠いけど・・・・・・他に思い付かないし」


俺達が出てきた街から次の停留所になる村から馬車に乗りながら今後の事を話し合う。


「確かエマの住んでた所にもダンジョンあったんだよな、それなら俺もそんなに困らないしいいんじゃないか?」


「グラントなら余裕で踏破できるようなダンジョンだけどね」


「ならパーティー育成でもするかなぁ」


「なんか勿体ない気もするけど」


「まぁそこら辺は着いてから考えるさ。ところで、経由する街とかはどれくらい滞在するんだ?」


「そんなの、着いて休んで準備したら次に向かえばいいじゃない。2日くらいじゃない?」


「提案なんだが、どうせならちょっとのんびり行かないか?」


「なんでわざわざ?」


「今までダンジョンに入るばっかりだったから観光みたいなこともしたいなぁと・・・・・・どうせなら楽しくいこうぜ!みたいな」


見るからに呆れた顔でため息をつくエマ。


「あんたアタシがどういう状況で故郷に戻るかわかっててよく言えたわねそれ」


「いやそうなんだけどさぁ・・・・・・そんな敗戦の帰路みたいな気持ちで帰るより道中で多少なりとも気分転換するつもりで色々やった方が心も楽になるかなって・・・・・・」


「・・・・・・一応考えなしって訳じゃなかったのね、てっきりグラント自身がそうしたいからかと思ったわ」


「そりゃそうしたいのもあるけど、今の俺は付いてく身だからな。エマが気分じゃないってんなら無理強いはしない」


「・・・・・・今は正直決められないの。街に着いたら決めるから、保留でいいかしら?」


「あぁ、もちろん。目的地が変わる訳でもないしな」


「ん、そうね」


俺達はその後、馬車に揺られながらそれぞれ考えごとに勤しんだ。彼女は追放のこと、今後のこと。俺は彼女の能力がどう開花するのかを。


そして追放されてから数日後、俺達は大きな川の近くにある街に到着した。











「見てグラント!あの服すごくない!?ダンジョン素材のドレスなんだけど大量の鱗でできてるわよ!ギランギランよ!」


「あの、エマ?」


「付けると魚人になる指輪!?呪いの装備じゃないの!あ、でも水中で呼吸できるようになるのか、意外と便利なのかも?」


「エマさん?」


「あ、すごくいい匂い!やっぱり魚が名物なのね、お昼はどうしようか。グラントは何がいい?」


「エマさん、ちょっといいですか?」


「ん?なに?あ、やっぱりグラントはお肉の方がよかった?」


「いや、どうせならその街の名産とか食べたいタイプ・・・・・・じゃなくて!」


「じゃなくて?」


「楽しみすぎだろ!」


馬車の中のやりとりなんだったんだよ!


「あんたが気分転換しろっていったんじゃないの」


「言ったけどさぁ・・・・・・もうちょい段階的に気持ち切り替えてくと思うじゃん。それが最初の街で跳ね上がるとは思わないじゃん」


「アタシだって最初はそんなつもりなかったのよ?でも、街に着いて思ったの。パーティーから追放されてアタシはこんなにも辛いのに、街はとっても賑やかで・・・・・・あぁ、アタシがどんな状態でも皆はいつもの日常を過ごしてるんだなぁって。それでね、そんな日常をレックス達も過ごしてるのかと思ったら」


「思ったら?」


「めちゃくちゃムカついた。」


「おぉう」


「この怒りをどうしようかと思ったら、グラントの提案を思い出してね」


「え、そこで?」


「あんたは傷心に対してって感じたったけど、アタシの心にある憤りも発散できるかなと思って」


「なるほど・・・・・・」


「だから、先ずは観光気分を出してみようと思ったら思いの外に熱がね?」


「テンション上げたら怒りの燃料で上がりすぎたと」


「そんな感じ」


「楽しめてたならいいんだけど、持たないだろ、あれじゃ」


「流石に最初だけよ、一旦落ち着いたからこれからは大丈夫・・・・・・だと思うわ」


「まぁ、なんだ、じゃあとりあえずは、ゆっくり観光しながら故郷に向かってくってことで」


「そうね、まだもやもやしてるけど、せっかくなら楽しんだ方がいいわよね。よーし、美味しいもの食べていろいろ見て回るわよー」


俺達はその後、それぞれの街で心ゆくまで観光を堪能し、1月ほどかけてエマの故郷にたどり着いたのだった。











エマの住んでいた街に着き、彼女の家へ向かって歩いていく。


「いやーやっとついたわね、相も変わらずパッとしない街だこと」


「そうか?そりゃ俺等が観光してたような所に比べたら派手さはないけど、落ち着いた雰囲気でいいじゃないか。活気がないわけでもないし、過ごしやすそうだ」


「まぁ、良く言ったらそんな感じかしらね。悪く言えば名所のない田舎よ」


「なんか名物とかは?」


「名物ねぇ・・・・・・あー、この街の周り、鹿が多いみたいで、角の加工品とかお肉とか?シチューなんか結構美味しいわよ。うちの店でもやってたし」


「へぇ、いいな。・・・・・・ん?うちの店?」


「あぁ、うちの家食堂だったのよ、ほら、ちょうど見えてきた」


そういってエマは2階建ての建物がを指差した。


「そうだったのか。だからエマの料理はうまかったんだなぁ」


「まぁ小さい頃から手伝いはしてたけど・・・・・・とりあえず入りましょうか」


少し照れ臭そうにしながら、店のドアをくぐる。


「いらっしゃい、空いてる所好きに座って・・・ちょう・・・・・・だい・・・・・・」


おそらくエマのお姉さんであろうウェイトレスさんは、俺達・・・・・・というよりエマを見るなり固まってしまった。なんの連絡もなく冒険者になった家族が帰ってくればそりゃ驚くか。


「あー、ただいま・・・・・・母さん」


「え、お母さんなの!?」


お姉さんじゃなかった!


「あー、まぁ若く見られることもあるわね」


「全くだ、俺お姉さんだと思ったぞ」


ここでお姉さん改めてエマのお母さんが再起動した。


「あ、あ、あ・・・・・・あなたーーー!!!エマが帰ってきたーーー!!!男連れてーーー!!!」


「ちょっ!?コイツはそんなんじゃ・・・・・・」


「なぁんだってぇー!!!???」


お母さんが大声で叫ぶと、厨房の方から負けないくらいの声と共に両手に包丁を持ったコックが現れた。完全に娘はやらん!な父親(二刀流)だ。下手な魔物より怖い。


「あー、エマさんや、久々の再会で積もる話もあるだろう。俺はギルドに行ったり宿取ったりするので家族水入らずで語り合ってくれさらばだー!」


「あっ逃げんな!こら!あんたも説明手伝いなさいよグラントー!?」


三十六計なんとやら!











命からがら(?)逃げ出せた俺は、しばらく活動拠点になるであろうギルドに向かった。この世界のギルドでは、各街のギルドごとに通信できる魔道具があり情報を共有している。


「ようこそギルドへ、ご用件はなんでしょう」


「実は入っていたパーティーを訳あって俺ともう1人が抜けてな、そいつの故郷であるこの街に来たんだ。で、良ければおすすめの宿なんかを教えてくれると助かる」


「そうでしたか。それでしたら、ここを出て正面にギルドが運営している宿屋がございますよ」


「そうか、じゃそこにお世話になるとしよう」


「ありがとうございます」


「あー、それとなんだが、抜けてきたパーティーの情報をたまに教えてもらいたいんだが・・・・・・」


俺はカウンターに銅貨を数枚置き、さらに続けた。


「いや、抜けたあと上手くやれてるかが気になってな。もちろん軽い情報で構わないんだが」


「なるほど、パーティー名をうかがっても?」


「あぁ、【金色の鷲】だ。レックスとマリアーナとエマと俺で組んでいた。抜けてきたのは俺とエマ」


「確認のためにお時間を頂きますがよろしいですか?」


「問題ない、掲示板見て待ってるよ」


「それでは少々お待ちください」


「ん、よろしく頼む」


ギルド間で情報をやりとりできるので、こうして少し頼めばよその街の事も確認できる。もちろん街やダンジョンの事は金を払わなくても教えてくれるが、個人的な事はわざわざ調べてもらうことになるので、ギルドの職員へいくらか渡すことで情報を買えるのだ。賄賂じゃないよ

、チップだよ。


そんなことを考えつつ依頼掲示板などを見ていると、どうやらさっきの職員が戻ってきたようだ。


「あ、グラントさん、確認がとれました。現在の【金色の鷲】ですが、どうやら活動はしてないみたいですね」


「は?」


え、まさかエマが覚醒とかする前に壊滅したのか!?


「詳しいことはわからないのですが、グラントさん達が抜けてまだパーティーメンバーを増やせてないみたいですね」


「そ、そうか、とりあえず無事ではあるんだな・・・・・・情報ありがとう。今後も聞くことがあると思うのでよろしく頼むよ」


「はい、グラントさんも、依頼の方、よろしくお願いしますね」


「あぁ、それじゃ」


ギルドを出て向かいの宿を取り、部屋で寛ぎながらレックス達のことを考える。


よく考えれば、俺が抜けたことでレックス達は前衛も補充しなければいけなくなり、一旦パーティーとしての活動をストップさせざるを得ないことに思い至った。ちょっと悪いことしたかなとも思ったが、残っていたらもう遅い!される側になってしまうのでそこは仕方ない。しかし、俺個人は別段レックス達に恨みはないので、もしもエマが覚醒してもう遅い!をしたらその後に彼等が落ちぶれていくのは避けたい。が、エマにどちらの味方なのかとか言われたらたまったもんじゃないしなぁ。そうならない為にはどうすればいいのだろうか。


「そうしても許される位にエマからの信頼を勝ち取る?」


・・・・・・これか?グラントがそうしたいのなら。とか言わせられるほどの信頼を得られればどうにかなるかもしれない。きっとその頃にはエマも優位に立ってることで多少の余裕もあるだろうし。うん、なんかいけそうな気がする。よし、これでいこう。これからはエマの力になるように気を配って接していこう。


今後の方針をなんとなく決めたところで、部屋のドアを誰かが叩いた。


「誰だ?」


「あ、グラント?アタシだけど」


なんだエマか。何時ものようにドアを開けると、とてもいい笑顔でエマが仁王立ちしていた。


「よ く も 逃 げ て く れ た わ ね」


「ひぇっ」


すっかり忘れていた。











「いや、悪かったとは思ってるけどさ、あれは逃げるだろ。すげー怖かったぞ?」


部屋を訪ねてきたエマは、追いかけてきたのではなく、食事を誘いに来てくれていたらしい。


「確かに少しアレだったけど、あんた前衛なんだから逃げちゃダメでしょ」


「ダンジョンでもないのにそんな心構え出来てる訳ないだろ、気ぃ抜いてるわ・・・・・・んで?飯のお誘いって、お前の家の食堂か?」


「そうそう、もう決めちゃったとかなら・・・・・・いや、それは明日にでもしてちょうだい。帰ってきた経緯を話したら是非アンタを連れ戻せって」


「それはあれか?歓迎的な意味で大丈夫なのか?変なこと言ってないよな?」


「変なことって逆になによ?」


「いやほら、俺付いてきただけだから言い方によっちゃストーカーなんじゃ?とか思われてたらヤバイなって」


「それは大丈夫だと思うけど、というか、アタシが付いてくるの了承してるんだしストーカーではないんじゃない?」


「そりゃ違うけどさ、そう思われたらまた二刀流で出迎えられそうだし」


「あー、あん時のは肉叩いてたから2本持ってたんだってさ」


「それだけならいいんだけど。まぁ、どのみちエマん家の料理気になってたし行くのは問題ないぞ、他に決めてたわけでもないし」


「了解、それじゃ特に用事とかないなら早速行っちゃう?」


「そうだな、ちょうど腹も減ってるし、ちょっと早いけど行くとするか」











宿屋から出てダンジョンとは逆方向の食堂におっかなびっくり向かうと、ご両親は普通に歓迎してくれた。どうやら最初の叫びは単純に驚いてのものだったようで、話してみるととても温厚なお父さんだった。帰ってくるにあたり娘が1人旅だったかもと聞き俺が付いてきたことが助かったらしく、しきりに感謝された。その話していると厨房に父親を戻すためなのか久々の故郷の味が懐かしかったのかわからないが、あれもこれもと頼むエマのおかげでテーブルには色々な料理が並び中々豪勢な夕食となった。


鹿の煮込みや近くの湖でとれた魚料理などに舌鼓をうちつつなんとか平らげると、改めて今後のことを話し合うことになった。


「それで、あんたはアタシに付いてきてここまで来たけど、これからどうするの?」


「とりあえずダンジョンに行く。ってこと位しか決めてないな。エマはどうするんだ?」


「アタシは・・・・・・店を手伝う・・・・・・かな?これからどうしたいかはまだ決められてないから、アタシもとりあえずになっちゃうけど」


「そうか、それならさ・・・・・・週の半分くらいは一緒にダンジョンに行かないか?」


「えぇ?この街のダンジョンは今のアタシ位でもソロで行けるような所よ?グラントなら余裕なのになんで?」


「どうするか決めてないなら鈍らない程度にダンジョン行っとくのも悪いことじゃないだろ?それに、行くならエマと行きたいなと思って。まぁ店に専念するってんなら全然断ってくれていいけどさ」


「あんた・・・・・・ずるい言い方するわよね」


「あぁ、断ってもいいけどみたいな聞き方じゃ断ると気まずいか?俺はそんなこと気にしないからバッサリ言っちゃっても大丈夫だぞ」


「そこじゃないわっ!はぁ、まぁ・・・・・・鈍らせないってのは確かにやっといて損はないし、わかったわよ、アタシも行くわ」


「おっそうか!やったぜ」


強くなるにはやっぱりダンジョンで何かして、とかだろうからな!


「ったく、なんでそんなに喜ぶんだか・・・・・・」


「なぁ母さん、なんだか二人いい感じゃないか?」


「そうよねぇ、エマも満更でもなさそうだし・・・・・・やっぱり母さんが最初に言ったのは間違いじゃ」


「間違いよ!アタシとグラントはそんなんじゃないんだってばー!!!」


「なに叫んでるんだエマ?あ、というか普通に誘っちゃったけどエマのお父さんお母さん、それでも大丈夫ですかね?」


「あぁ、元々2人でやっていけてるからね、問題ないよ。好きなだけ連れていってくれグラント君」


「わかりました、ありがとうございます」


「なんのなんの、まぁちょっと口の悪い娘だけど、よろしく頼むよ」


「いえいえ、慣れれば小気味いいもんですよ」


「あんた達は仲良く話し込んでんじゃないわよ!」


別に仲良くしててもいいのでは?という言葉はエマに足を蹴られながら飲み込んだ。











パーティーを抜けて半年が過ぎた。その間に俺達はいろいろと試していった。


「なぁエマ、[サポーター]としての力が他人や自分の他のスキルに効くなら、自分自身には効果が出ないか?自分の体自身をサポートするとか」


「んー、言いたいことはなんとなくわかるけど・・・・・・どうかしらね」


「ほら、それが出来たら[サポーター]をサポートして無限に強くなったり出来るかもしれないじゃないか」


「そんな都合よくいかないと思うけど、まぁ試してみる価値はあるかもしれないわね。」


この考えの結果、分かったことは[サポーター]は最初から多少の効果を発揮していた、ということだった。元々ある程度身体や精神の能力を向上させていたことが、意識して能力を使うことで分かったようで


「なんか身体を意識しながら過ごしてると、普段より快調になったわ!多分前より少し効果が上がってるかもしれない!」


と、喜んでいた。が、それは本当に少しのようで、しかも半年続けても効果が上がることはなかった。俺としては残念だったが、本人は結構嬉しそうに周りに話していたのを見かけた。


他には


「[日用魔法]ってことは、日常的に使える魔法ってことだろう?エマ自身が高度な魔法を頻繁に使って過ごしたら、それが日用魔法の括りに入ったりしないかな?」


「なるほど、一理あるわね。早速試してみましょう」


俺達はダンジョンの中で、エマの魔力で出せるギリギリの攻撃魔法を使っては魔力回復薬を飲み、また使っては飲むという行為を繰り返した。


「グラント、もう無理、お腹タプタプ、きぼちわるい・・・・・・」


「なぁ、魔力回復薬って回復した後なら飲んだ薬吐いても問題ないんじゃ」


「あんた鬼か!問題しかなっうぇっぷ・・・・・・」


そんなことを繰り返した結果、詠唱なしで魔法が出たのだ。出たのだが


「やったじゃないかエマ!これがうまくいったなら、エマはどんどん強く・・・・・・あれ?エマ?」


「いや、使えるようになったのはすごいんだけどさ、これ結局魔力9割くらい持ってかれるんだけど。全然日常的に使えるとは思えないんだけど!」


「なん・・・・・・だと・・・・・・他の[日用魔法]の魔力消費が低かったからって、[日用魔法]に入ればめちゃくちゃ低くなるって訳でもなかったのか」


残念なことに、成功はしたが結果は芳しくなかった。しかも、魔法系のスキルと[日用魔法]を持っている冒険者から日頃から使っている魔法が[日用魔法]に入り魔力の消費量が少し減ったという話がギルドにたまにあったらしい。これを知った俺はそれならもっと消費量の少ない沢山の魔法で同じことをやればとも思ったが、そこまでしても手数が増えるくらいで劇的に強くなる訳じゃないし、なによりエマがその為にまたエンドレス回復薬の日々を送りたがらないと思い至り、この方法も失敗ということで幕を閉じた。


こうして俺達が試行錯誤してる間に、レックス達にも動きがあった。パーティーメンバーが揃い、新しい4人で活動するようになったようだ。目立った失敗の話もなくうまくやっているらしい。ここからどうなるかはわからないが上級者として成功しても些細なことからパーティーが崩壊してエマに矛先が向く可能性も有り得るので、今後もエマの覚醒する方法を考えていこうと思う。











そう思っていた時期が私にもありました。この街に来てから1年が過ぎた。が、その間にエマの能力はこれといった覚醒は起こらなかった。変わったのは俺達の生活で、初めのうちは週の半分以上をダンジョンに費やして強くなる方法を探っていたエマと俺だったが、次第にエマの来る日は減り今ではたまにダンジョンに身体を動かしに来る程度になってしまった。それに伴い俺もダンジョンでの行動は初級者の教導がメインになっていてる。今では復活した看板娘として食堂で働いている方が主軸になっているエマだが、女性冒険者が居るときは一緒に来てくれるので助かっている。


「といっても、それはそれで・・・・・・って感じなんだよなぁ」


この街に来た当初、俺は展開的にエマが確実に強くなると思っていたので情報を集めたり試行錯誤をしてみたりしたのだが、覚醒は起こりそうにもないし、レックス達も大きな失敗の話は聞かない。そう、【金色の鷲】は順風満帆なのだ。新しく入ったメンバーも戦力として問題なく、レックスとマリアーナもまだまだ強くなっていってるようで上級者の仲間入りをしてから飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍をしている。


「そうなってくると戻ってきてくれ、なんてことはそもそも起こらないしなぁ」


想像していた未来にならないことにもやもやしながらも、まぁそれが人生ってやつか、なんて考えながらギルドの宿屋を素通りしてエマのいる食堂へ向かう。実は数ヵ月前から、エマの家でお世話になっている。宿屋に泊まっていた頃、色々な所で食事をしてみた結果、エマの家の食堂の料理がダントツで美味しかった。勿論他の店が不味かったという訳ではなく、多分舌に一番合ったのだろう。その事に気づいてからは昼の弁当を買いに行き、ダンジョンから戻ってきたら夕食を食べ宿に戻るという日がほとんどになったため、エマのご両親がそんなに来るなら家住めば?と2階の物置にしていた部屋を提供してくれた。流石に悪いと思って初めのうちは断っていたが


「宿代と時間勿体なくない?」


とエマに正論をぶつけられ厄介になることを決めたのだ。食事はちゃんと代金を払っているが、家賃などを払っているわけではないのでダンジョンに行かない日は俺も店を手伝うことにしている。ただの居候になるわけにはいかないからな!


「今日は何を食べようかねぇ」


「ちょっと、なんであんた達がいるのよ!?」


呑気に考えながらドアを開けると、見慣れた景色の中にエマと対峙しているレックスとマリアーナが居た。


「は?」


「ん?あぁグラント、久しぶりだな」


「あ、あぁ、久しぶり?」


「パーティーを抜けた後も元気にやってるみたいで安心したよ」


「まぁなんとか・・・・・・ってそうじゃないだろ、なんでお前達がここに居る」


俺はエマとレックス達の間に入り込み、2人を問い質した。


「私達結婚したの、それで新婚旅行がてらここに来たのよ」


「そうかいそいつはおめでとう。で、なんでわざわざこの街を選んだ」


「そりゃ、お前達に会いに来るために決まってるじゃないか」


笑いながら答えるレックス達に、強い憤りが芽生えた。何事もなかったかのように会いに来るなんて、自分達がしたことを忘れているんだろうか?


「よくそんなことが出来たな」


「あぁ、パーティーも順調だからな、旅行位は問題ないさ」


「そうじゃねぇよ、有無を言わさず追放したエマによくそんな軽い感じで会いに来られたなっつってんだよ!」


「ちょっとグラント!落ち着いて!」


ついカッとなってレックスに掴みかかろうとしたところをエマに止められた。


「・・・・・・悪い、頭に血が上った。俺なんかよりエマの方が言いたいことはあるよな」


「あ、いや、ちょっと嬉しかったけど・・・・・・そうじゃなくて」


「ねぇエマあなたもしかして手紙のことは」


「う、・・・・・・話してない」


「手紙?」


「エマ、落ち着いて話すためにとりあえず席に着かないか?グラントもそれでいいな?」


レックスの提案にエマが頷いたので、俺も渋々それに従った。座ったところでエマがどこか気まずそうに話し始めた。











「えーと、つまり・・・・・・エマと2人は手紙のやり取りで和解してたってこと?」


「そういうことになるわね」


衝撃である。俺の知らない間に全て終わってた。しかも、その手紙のやり取り、この街に来てわりとすぐに始まっていたらしい。


事の発端はパーティーを抜けた時に渡された餞別の硬貨だった。故郷に戻り渡されてた金を店の経営の足しにでもしようかと取り出したところ、入っていたのは金貨だったそうだ。持った感じ十数枚だったので銀貨や銅貨かと思ったが、金貨でその枚数だとそれこそ上級者の装備を用意してもお釣りが来る金額だ。流石にあんな追い出し方をした相手に渡す額ではないと気になったエマは、レックスに手紙を出し真意を問うことにした。そこでマリアーナが中身を入れ替えていたということが発覚。減らすならともかく金額を跳ね上げるなんて聞いたこともないと理由を聞くと、中身を金貨にしたのはマリアーナがレックスにエマの追放を急かしたからだと。

元々レックスはエマが今後の冒険についていくには厳しいと思っていたようで、それを聞いたマリアーナはそれなら伝えると同時に出ていってもらった方がいい。無いとは思うが抜けさせられると分かっているパーティーへの支援がおざなりになったら危険だ、とレックスを説得しあの日の追放劇を起こさせた。

そこまでして追い出すほど嫌いだったのかとエマが落胆しながら手紙の続きを読むと、そこにはマリアーナのレックスに対する熱い想いが綴られていたらしい。この女、自身の恋を自覚した途端に他の女がレックスの近くに居るのが怖くなったらしい。


「それでレックス達は、謝罪込みでこうして直接会いに来たと」


「あぁ、それでエマに会ったところでグラントが帰ってきたんだ」


「なるほどな。・・・・・・でもエマ、お前よく許せたな、理由はどうあれあんなだったのに」


「そうね、でも言い方とやり方は最悪だったけどあのまま上を目指してたらアタシはホントにパーティーのお荷物になってただろうし」


「そんなことは」


「あんたも色々協力してくれたけど結果はあんまりだったじゃない?実際限界だったのかなぁって。そう考えたら2人の事も許せるようになったのよ。まぁやり方は最悪だったけどね!」


笑顔で2人を見ながらそう言うエマに苦笑しながらもレックスが返す。


「確かにあれは悪かったと今は思ってる。よくよく考えれば支援がおざなりになるなんて考え仲間を信じてないようなもんだからね。その点だけは心から謝るよ」


「わ、私だって本心でそんなこと言った訳じゃないのよ?あの時は気が気じゃなかったというかその・・・・・・」


「まぁ気持ちは解らなくもないから・・・・・・と思ったけどアタシ凄く傷ついたからなー」


「もー、ごめんってばー」


「・・・・・・そうか、そんな風にじゃれ合える位に仲は戻ってたのか。それを知らずにさっきは悪かった」


1人で熱くなってたのが恥ずかしい。


「いや、グラント、お前は悪くない。何も知らなきゃ誰だってあんな反応するさ」


「というか、私達が言う事じゃないけどもっと怒ってもいいんじゃ」


「そりゃちょっとはあるけど、エマも何か考えがあったんだろう。それより2人の新婚旅行に水差すようなことしちゃったからさ」


「うぐ・・・・・・言わなかったアタシが全面的に悪かったけど・・・・・・まさか2人が来るなんて思わなかったし」


「っていうかなんで伝えなかったのよ?」


「その、グラントってば追放されてから気を使ってくれたり優しかったりしたから・・・・・・それがなんというか心地よくて・・・・・・」


「エマ、あなたも大概酷いわね」


「えぇ・・・・・・そんな理由かよ・・・・・・お前の居ない所で2人に会ってたら俺手ぇ出しちゃってたかも知れないぞ。それで返り討ちにされて真相知ってって流れになってたら恥ずかしくて引きこもるぞ」


幸い問題が起きたわけではないのでなんだか怒りより呆れの方が強くてどうでもよくなった。


「わ、悪かったと思ってるわよ。というかあんたそこまで繊細じゃないでしょ!」


「バレたか。まぁでも・・・・・・なんか、皆でこういう風にまた話せるようになってよかったなぁ」


「確かに・・・・・・普通だったらあのままで終わってたよな。ある意味マリアーナのお陰か?」


「いや、元凶でもあるし違うんじゃない?」


「ちょっと、結局私!?そりゃ悪かったけどー!」


こうして俺達は、パーティーの時と同じかそれ以上に和気藹々と、再会を祝して宴を行った。











夜も更け、レックス達は宿に戻り、俺とエマは片付けを終え各々の部屋に向かっていた。


「いやぁ、中々盛り上がったな」


「そうね、楽しかったわ」


「じゃ、おやすみ」


「うん。・・・・・・・・・・・・あ、あのさっグラント!」


「ん?なんだ?」


「もうちょっと、その・・・・・・話さない?」


「別にいいけど・・・・・・どっちの部屋に行く?」


「じゃあグラントの部屋で」


俺達は部屋でそれぞれベッドと椅子に座った。


「それで何か話したいことでもあったのか?」


「その・・・・・・黙っててごめん!手紙のこと」


神妙な面持ちで何を言い出すかと思ったら、手紙の件を伝えなかったことに対する謝罪だった。確かに、伝えなかった理由はちょっと酷かったが、まぁちやほやされるのが(そこまでしてたつもりもないが)終わるかもと思ったら言いにくくなるというのも理解できなくないし、何よりその件に関しては下で話したときに俺の中では終わった事になっていたので、謝られるのはもう必要ない。


「その事ならもういいよ、俺は気にしてない。結果的に知れたしな」


「そっか、ごめんね・・・・・・・・・・・・ありがとう」


「いいっていいって。それにしてもエマもスゴいよな、俺だったら気にしてもそのままで手紙なんか出さなかったと思うわ」


苛立ちとか気まずさとかで絶対しない。


「グラントが居てくれたから」


「え?俺?」


「うん、あんた。多分アタシ1人だったらそのままにしておしまいだったと思う。あんたが一緒に来てくれてなかったら、アタシはもっと惨めな気持ちでこの街に帰ってきて、塞ぎこんで、何も出来なかったかもしれない」


「・・・・・・エマなら、俺が居なくても立ち直れたさ」


「かもしれないわね、でもそれは絶対に今みたいなアタシじゃない。諦めて、生きていくためになんとか動くけど、ふとした瞬間にあの日を思い出してもやもやして、心の底から笑えはしなかっと思う」


だからね、と


「アタシを救ってくれてありがとう」


「大袈裟だ、俺はそんなつもりはなかったよ」


「それでもアタシは救われたのよ、あんたの優しさに。付いてきてくれて、気遣ってくれて・・・・・・・・・・・・あんたのお陰で最初は憂鬱だった帰りも楽しい旅行になってたし・・・・・・この街に来てからだってそう、ダンジョンで色々アタシが強くなる方法を考えてくれて、まぁ結果はそんなにだったけど・・・・・・あんたのお陰で・・・・・・アタシは今幸せ。だからありがとう」


「・・・・・・・・・・・・まぁなんだ、色々発散のはけ口になれたようでなにより?」


「なんでそう茶化すかなぁ」


「慣れてないんだよこういうの、あと一歩で勘違いしちゃうレベルだぞ」


「アタシだってそうよ。でも・・・・・・あと一歩ねぇ」


そう言うとエマはベッドから立ち上がり座っていた俺に抱きついてきた。


「一歩、進めてみたんだけど・・・・・・勘違いかどうかはグラント次第よ」


「その、なんだ・・・・・・ここまでされてやっとな男だけどいいのか?」


「決めるときは決める男だって知ってるわ」


「そう言われたらいくしかねーじゃん」


「・・・・・・グラントは、アタシの事嫌い?」


「嫌いな奴の為に色々するわけないだろ?・・・・・・いや、これはダメだな。エマ、好きだ。この街に来て一緒に過ごすようになって、俺はお前を好きになったんだと思う」


「そっか」


「あ、勿論パーティーの時は嫌いだったとかじゃ」


「解ってるから大丈夫よ。ふふ、よかった。ほんとはね、結構怖かったのよ。もし断られたらって・・・・・・手紙もそうだったの」


「どういうことだ?」


「追放されたから付いてきてくれたグラントは、アタシ達が和解したって知ったらそのままアタシの側から居なくなっちゃうんじゃないかって。そう思ったら伝えられなくて・・・・・・」


「そうか・・・・・・そういう理由があったのか。そうだよな、流石にあの理由は後付けか」


「あ、いや、あれもそれなりに本音ではあってその・・・・・・」


「そ、そうか」


「だ、だってあんた!好きになった相手がマメに気遣ってくれてたら嬉しいしそのままがいいでしょ!?」


「お、おう、そうだな?」


「あんま解ってなさそうね」


「いや、というか、その、こんな状態で好きとか言われると余裕がなくなってな」


そう、ここまで俺とエマは抱き合っているままだ。座っていた俺に正面から抱き付いてきて、エマも膝の上に座ってこれ絶対入ってるよね状態だ。入ってねぇよ!


「あ、えっと・・・・・・そっちでもう一歩、踏み出してみる・・・・・・?」


そういって赤くなりながらもベッドを指差すエマに当てられたムスコと共に立ち上がり俺達はベッドへ向かった。











「昨晩はお楽しかったです」


そんなしょうもないことを呟きながら横で寝ているエマの寝顔を眺める。

初めは追放されるエマが覚醒すると信じて、というよりかは勝手に思い込んでエマに付いていった。確かに気遣いはしたが、それは言わば、利用する為に行っていたのではと思う自分がいる。昨日エマへの想いを自覚したそんな俺が本当にエマの隣にいてもいいのかと考えれば考えるほどドツボにはまり不安は大きくなっていった。


「ん・・・・・・グラント、起きてたのね」


「おはようエマ」


「おはよう。ふふ・・・・・・なんか変な感じね、ダンジョンとかではあったけどベッドのある所でグラントが隣で寝てるって」


「そうだな」


「・・・・・・ねぇグラント、どうかした?」


「・・・・・・本当に俺でいいのか?俺はお前を利用しようとして」


エマは呆れたように笑いながらその言葉を遮って


「多分アタシにとってそれは問題じゃないと思う。あんたがいいわ、グラント。ちょっとバカだけど優しくて、アタシの事を好きだと言ってくれたあんたが。理由がどうであれアタシを救ってくれたあんたが」


「エマ・・・・・・」


「全く、なにをナーバスになってるんだか知らないけどやることやって逃げようなんてさせないわよ。」


「すまん、そんなつもりは無かったんだがそう思われても仕方ないよなぁ、さっきのは」


「どのみち今更言ったってもう遅いんだから。責任とってもらうわよ?」


その言葉を聞いて俺は噴き出してしまった。


「あぁ、きっと土下座して謝ったってダメなんだろうなぁ」


スキルが覚醒しなかった[サポーター]に回避したはずのもう遅い!をされ幸せになることが決定した俺は、笑いながら彼女を抱き締めた。

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