長久命の長助。おれの名前がじゅげむになるまで。
学校の教科書でじゅげむを読んだ方はたくさんいらっしゃると思います。
今回は、じゅげむくんに転生してしまった彼の人生、そして周りの人々を描いていきたいと思います。
楽しんでいただけますと幸いです。
おれの名前はまだない。
この間母親の腹から生まれてきたばかりの様だ。
どこかの文学小説の猫の様に格好をつけている訳ではない。今おれは人生でも有数の一大事に遭遇しているところで、そんな余裕はないのだ。一介の大学生だったはずのおれには、何が起きているのかさっぱりなのだが、起きたら手足が不自由で、視界は不明瞭だった。やばい病気にかかったんじゃないかって最初は思ったさ。
だけど違った。おれは、まさかの赤ん坊になっていて。おれの周りは武家屋敷の様な立派で古臭い家だしみんな着物だし、おれは毎日、泣くどころか呆然としていて、今生後何日なのかも知らない。
おれの名前はまだない、とさっきいったが、これには理由がある。おれの母親は、おれが生まれてすぐに死んでしまったらしい。忙しい父親は、母親に命名を一任していた様だった。
父親に代わってこれらを教えてくれたのは、ばあやだった。ばあやは優しい人で、おれの名前を呼べないことをさみしがっていたし、赤子らしくもなくあまり泣かないおれをかわいがってくれるし、布のおむつが汚れたらすぐに取り替えてくれる。
人生でも有数の一大事だが、記憶にないってことはたくさんあると思う。今のおれは、もうわかるかもしれないが、名前が決まるのだ。
おれの名前の希望は、蒼太とか雅治とか涼真とかなのだが、りょうまはりょうまでも、龍馬とかいう名前がつきそうな古くさい家の中なので、ちょっと望み薄かもしれない。
父親は忙しいので、ばあやに寺で名前のおすすめを聞いてくるよう言っていたし、キラキラネームはつかないだろうが、小学校でからかわれる様な名前は嫌だ。お坊さんのお勧めの中からでも、どうにか素敵な名前を選んで欲しい。
おれの緊張が高まる中、ばあやはおれをだっこひもで抱き抱えながら寺に行き、今おれの目の前で巻物を広げているのだが、ばあや、巻物とか古臭くないか?どんな時代錯誤系の家なんだよ....
しかも、巻物の中の漢字?は崩しまくっていて全くよくわからない。読めたら、指差すなりしてなんとか名前を決めたかったが、つくづくおれには選択権がない。そういえば赤ん坊だった。
ばあやがついに、名前の候補を読み出した。
「旦那さま、これを住職さまが書いてくださいました。名前の候補を読み上げます。寿限無、
「ダァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!(いやいや嘘だろじゅげむ?はあ?おれじゅげむになんの?お坊さんふざけてきた?)」
「あらあら、坊ちゃん、珍しいですね、坊ちゃんの名前が決まるんですよ、嬉しいですか。続けます....五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲行末、風来末、食う寝るところに住むところ、やぶら小路ぶら小路、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命、長久命の長助」
「おんぎゃあああああああふえええええええええええええ」
「普段お静かにされている坊ちゃんがこれだけ泣かれるなんて、喜んでらっしゃるのかしら」
嘘だろ、おいばあや、お前はもう敵だ、喋るな。とりあえず泣かせてくれ。いや、泣いたらこの名前気に入ってることになんの?どうしたらいいんだ....
「静江、全てだ」
「旦那様?」
「長寿にはすべてがいいと住職が言ってきたのだ、すべてつけろと言っている、」
「旦那様....!わかりました。
坊ちゃん、いえ、寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲行末、風来末、食う寝るところに住むところ、やぶら小路ぶら小路、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命、長久命の長助さま、改めて、これからよろしくお願いしますね。」
「............」
おれは泣かなかった。それなのに...
「坊ちゃんが納得してくださっていますね、旦那様。」
「ああ、私はもう行く。静江、頼んだ。」
「はい、旦那様」
知らない間に話はまとまってしまっていて、おれの名前は寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲行末、風来末、食う寝るところに住むところ、やぶら小路ぶら小路、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命、長久命の長助になった様だった。
おれは、小学校で国語の授業を受けずにずっと教科書を読み耽っていた頃を今ほど喜んで、かつ後悔していることはない。
寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲行末、風来末、食う寝るところに住むところ、やぶら小路ぶら小路、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命、長久命の長助........そいつは有名な落語の主人公で、長命を願って縁起が良くて長い名前をつけられた挙句、川で溺れたのに名前が長すぎて助けられずに死んでしまうんだ...
知らなかったらどれだけ良かっただろうか。まあ知らなかったらあっさり溺れて死ぬだろうけれど....
とりあえずおれは、これを夢ということにして眠ることにした。
起きたら、いけてる名前になってるかもしれないし。
いけてる名前ってなんだろう。まあいいや。
いかがでしたでしょうか。
冷静に、自分の名前がそんなに長くなるなんて、想像もできないですよね。
大体、物心ついたら名前はあるものですし。
じゅげむくんが、今後どうやって生きていくのか、また続編を書いていくつもりですので、楽しみにしてあげてください。
ご読了ありがとうございます。