いざスタジオへ / 南の想い
【一部変更のお詫び】
楓のアバター名、活動名を変更しました。
南の空の呼び方を変更しました。
投稿後の変更申し訳ありません。
空さんとショッピングモールに行って水野くんに女の子になったことを話してから3日後、僕は絢斗と南にも女の子になってしまったことを話した。
PINEである程度説明してたこともあってか意外とすんなり受け入れてくれて安心した。
『だって楓だもんねぇ…』
『違和感ないよな〜』
今になったらどうでも良くなっちゃうけどちょっとイラッときたのは内緒…女の子同然だったのは事実だけど!
女の子になっちゃったのに違和感ないって昔の自分が悲しくなってくるよ…。
そして、朝早くから今日は都内のとあるスタジオに足を運んでいた。
二週間前に矢崎さんと空さんと打ち合わせてから、矢崎さんは僕のアバター制作に没頭していたらしく明日には全て完成する予定らしい。
それも最終確認だけすればすぐにでも動かせると言って、今日はこのスタジオに来てくれてるって聞いたけど…。
僕がスタジオの入口でキョロキョロしていると横から二週間ぶりに聞く声がかけられた。
「楓、こっちだよ」
「あ、矢崎さん。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、ちゃんと練習してきたかな?」
「自信はないですけど…」
「あの空が平気って言ってたからきっと大丈夫だよ、自信もって頑張って」
「はい、頑張ります!」
さて、どうして僕が都内のスタジオに訪れているかと言うと話は二週間前に遡る。
空さんとショッピングモールに行ったその日の夜に矢崎さんから電話がかかってきた
『やあ、こんばんは楓。今平気かな?』
「あ、はい、大丈夫です」
『楓には活動する時の名前、つまりあのアバターの名前を考えておいて欲しい。それからデビューと同時にキャラクターソングの公開もしたいと思ってる。楓は歌は歌える?』
「えっと…歌は人並みにできるとは思いますけど…い、いきなりキャラクターソングですか…?」
『そうだね、せっかくなら盛大なデビューにしたいと思ってる。実は楓とあのアバターに似合いそうな曲ももう完成してる。あとは歌詞だけなんだけど』
「えっ!? も、もうできてるんですか?」
『そうだよ、僕が書いたんだ』
「や、矢崎さんってなんでも出来ますよね…」
『そんなことないよ、昔バンドをやっていた時期があってね。普通だよ普通』
「普通の人はそんなことまず出来ないと思うんですけど…」
『ま、まあその話はもういいとして…楓には二週間後に収録を行ってもらおうと思ってる。その頃になったらアバターも完璧な状態に仕上げれると思うしね。曲に歌詞をつけて練習しといて欲しい。あとは…歌のpvも必要だからどんな感じかちょいちょい電話で打ち合わせしよう』
「い、いきなりでちょっとびっくりしてますけど頑張ります!」
『音源は後で送っておくよ。あとそれから、空とカラオケ行って歌う練習もしてくれるかい? 空は歌が上手いからね』
「そうなんですか?」
『そうだよ、まあ聞いたらわかると思うから歌うコツとかは色々空から学んできてね』
「は、はい!」
『じゃあまた〜』
いつも思うんだけど矢崎さんから何かしらのコンタクトがある時ってだいたい嵐を連れてきてる気がする…。
嵐…やっぱり台風くらいすごいかな…?
矢崎さんの電話が切れて通話終了とホログラム画面に表示されたと同時にタイミングよくPINEの通知が来た。
空<楓くーん! 先輩からお願いされて明日から楓くんのコーチすることになったからよろしくね〜!]
そして翌日から空さん…いや、空コーチとの地獄の特訓が始まった!
空さんは矢崎さんが言っていた通り…というかこんなに上手いって聞いてないんだけど!
空さんが見本に歌えば毎回100点を叩き出すし何より僕に対するダメ出しもアドバイスも全部的確で、80点くらいだった僕の歌はたった二週間で95点は必ず超えるほど上達していた。
『楓くん、カラオケの歌と実際の歌は違うのは覚えておいてね。カラオケで点を出すだけなら音をしっかり拾ってカラオケの譜面通りに歌えば誰でも出来るの。でも聞いてる人を魅了して引き込む歌っていうのはみんながみんなできるものじゃないの、楓はそれがちゃんとできてる。歌を聞いてくれる人のことを忘れちゃダメ、その人の心に届けられるように頑張りなさい』
空さんのアドバイスはきっと歌だけの話じゃないと思う。
Vtuber活動を始めたら配信とか動画投稿とかも沢山していく、その時も見てくれてる人、聞いてくれてる人の心に届けられるVtuberになろう!
空さん…今日は空さんは来れなかったけど僕頑張ってきます!
建物の裏口から入ってすぐのエレベーターに乗りながら僕は改めて気合いを入れ直した。
「あ、そうだ、収録前にメールを確認してもらえるかな。歌のpv映像が完成したから送っておいたよ」
「本当ですか!?」
「あぁ、映像があった方がやりやすいだろうと思ってね」
「ありがとうございます!」
二週間の間僕がやらなきゃいけないことは大きく3つあった。
矢崎さんに電話で言われた通り、まずは僕の名前を考えること、それから歌に歌詞をつけてpv映像を考えること、そして動画投稿、動画配信の準備。
何度も電話で打ち合わせをしてpvの構想を組み上げてきた。
それが完成したとなると僕としても結構達成感がある。
「それから、活動名は決めた?」
「はい、決めました」
「聞いてもいいかな?」
「はい、ーーー」
これも二週間の間に考え続けて昨日になってようやく考えついた。
活動名は僕にしては珍しくかなりじっくり考えたと思う。
どの字を入れたいかとか色々…。
「夢って字は入れたいな…僕の大好きな字…」
でもそれより入れたいと思ったのは"かえで"という名前。
僕に勇気をくれるあの子が名乗っていた名前、そして僕の名前。
夢もかえでも入れたら僕だってすぐわかっちゃうかもしれないけど、それでも入れたいもの入れたい。
「かえで、君の名字はどうしよっか、夢は入れたいんだけど夢川のままだと流石にまずいと思うんだよね…」
答えなんか帰ってこないと思いながら机の上に表示したアバターに問いかけてみる。
そんな僕の予想は裏切られたのはすぐ、僕の頭にあの子の声…すなわち僕の声が響いてきたからである。
(楓、楓はどんなVtuberになりたいの?)
「僕は…見てくれる人、聞いてくれる人を幸せにしたい…沢山喜んでほしい!」
(どんな風に喜んで欲しいの?)
どんな風に…僕と一緒にいる時間が嫌なことを忘れられるくらい甘くて幸せな時間にしてあげたい…元気を与えられるような…。
(甘くて幸せなひととき…かえでは夢を見させてあげる…)
「甘くて幸せなひととき…甘くて幸せな夢…」
その瞬間僕の頭には"甘'という漢字が浮かんできた。
かえでを見てくれる人が甘くて幸せな夢を見れるような、そんなVtuberに僕はなりたい!
「甘い夢…甘夢…」
(ふふ、それに決まり?)
「うん、僕とかえでの名前は甘夢かえで」
僕は甘い夢を届ける、だから僕達の名前は甘夢かえで。
ずっと悩み続けていたのが不思議なくらい突然思いついてストンと胸の中に落ちた名前。
きっとかえでと考えたからだ…
(とっても素敵だと思う…私は甘夢かえで…いい名前ね)
「ありがとう…かえで」
ふふ、と笑って嬉しそうにするかえでの声に僕もすごく胸が熱くなる。
やがてかえでの声も聞こえなくなって僕はまた一人になった。
でももう悩むことは無い、僕とかえでの名前は甘夢かえで。
そう紙に書いてみればやっぱりしっくり来ていい名前だなと思ってしまった。
「そうか、甘夢かえで…いい名前だと思う」
「ありがとうございます矢崎さん、かえでと二人で僕頑張ります!」
「うん、頑張れ」
そう言ってエレベーターから降りると通路の先に南が立っていた。
南はこっちに気がついて手を振ってくる。
あれ、なんで南がここにいるの?
「じゃあ僕は先に行ってるよ」
「あ、はい!」
矢崎さんが僕に手を振りながら南と入れ替わりに廊下の向こうへ消えていく。
入れ替わりでこちらにかけてきた南に僕は問かけた。
「南? どうしてここに…」
「空ねえから頼まれたの、楓が一人だと心細いかもしれないからって」
「そうなんだ…ありがと…確かにちょっと心細かったかも…」
空さんも南も僕のためにこんなにしてくれて…嬉しくて少し涙が出そうになったけどこんなとこでまた泣く訳には行かないよね!
僕がぐっと歯をかみ締めて涙をこらえると、その様子を見ていた南がくすくすと笑った。
「楓、また泣きそうになった?」
「う、うるさい…そんなことないもん」
「絶対うそ…嘘つく悪い子はこうだ〜!」
南はそう言って僕のことを思いっきり抱きしめた。
僕は構わないけど元々男の子だった僕なんか抱きしめて平気なのかな…?
髪が乱れない程度に頭を撫でられる。
「でもよかった…」
「…?」
南に抱かれたまま顔を上に向けて首を傾げる僕。
南は僕の髪を梳くように指を通しながら口を開く。
「楓が女の子になったって聞いた時はびっくりしたんだよ? それにすっごく心配した…」
「えと…ごめん…」
「謝って欲しいわけじゃないの。この前会った時は絢斗もいたからこういう話はしなかったけど…」
「うん…」
「女の子って男の子と全然違うでしょ、今まで男の子として生きてきた楓が急に女の子になってもしかしたら辛いって思っちゃうかもって思ったの…もしかしたら引きこもったりしちゃうかもって」
確かに南の心配はもっともで、女の子になってから苦労は色々増えた。
最初はしばらく実家でお母さんに面倒を見てもらったけど、今はもうマンションに戻っている。
今までと違うことも多かったし困惑したことも沢山あった。
「でも…楓が前を向いてこんなふうに明るい顔をしてくれて私は嬉しいの」
「南…ありがと…」
気がつくと南も僕も目に涙を浮かべていた。
南もみんなも本当に優しい、僕のことをすごく心配してくれて…すごく胸が熱くなる。
「楓、今日の服すごく可愛いね。それ空ねえが選んだんでしょ」
「え、わかるの?」
「うん、空ねえの好みだからわかる」
「…その…似合うかな?」
今日の僕の服はこの前お出かけした時に空さんが選んでくれたもの。
3時間くらい連れ回されて何着も着せられてその中から選ばれた数着のうちのひとつ…。
トップスからスカラップボリュームスリーブプルオーバー、肩にウォッシャブルカーディガンを羽織る、ボトムスは膝丈のウエストリボンタックギャザースカート、靴はワンストラップパンプスを履いている。
「うん、とってもかわいい…私が男の子だったらすぐなんぱしちゃう」
「えぇ、それはどうなの…」
南から少し離れてスカートを摘んでみる。
くるっといっしゅう回ってみればスカートがふわっと舞い上がって落ち着かないけど南に見て欲しかった。
くるっと回り終えた僕を、再び南が抱きしめる。
「ふふ、楓はかわいいな〜このまま私が貰っちゃおうかな〜」
「ありがと…でもまだ誰にもあげないからね…?」
「そっかぁ、じゃあ楓を貰えるように頑張らなきゃ〜」
そのまま南が満足するまで抱きつかれる。
なんか元々男の子だったから悪いことしてる気分…。
あ、廊下の向こうで矢崎さんが手招きしてる…そろそろ行かなきゃかな…。
「南、そろそろ行かないと…」
「え、あっ、ごめんね、行ってらっしゃい! ちゃんとそばにいるからね! 応援してるからね!」
「うん! 沢山見ててね!」
そう言って南と言ったん別れて、というか南を置いて僕は矢崎さんの方へ駆け出した。
よーし、頑張るよ!
聞いてくれる人がみんな甘くて幸せな夢のような時間を過ごせますように!
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ー南sideー
「楓…楓もいつか男の子と恋をするのかな…」
楓の背中を見つめる私がぼそっとつぶやく一言は楓には届かない。
きっとこれから先、私が楓にこの気持ちを伝えることはもうないと思う。
「楓…ずっと好きだったんだよ…」
頬をつたう涙を拭って私も収録スタジオへ向かう。
今の私は楓を応援するの…よし、顔に出しちゃダメ…楓に気づかれちゃダメ…大丈夫。
「楓…私は楓を応援してるからね」
前書きにも書きましたが楓のアバター名、活動名、それから南の空の呼び方を変更しました。夢宮→甘夢 お姉ちゃん→空ねえ
今更の変更になってしまい申し訳ございません。
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さて、やっぱりやりたかったキャラクターソングを作ります。
今回で収録を終わらせようと思ってましたがやっぱり予定変更して南を呼んでみました。
本来であれば南はいないはずでそのまま収録して終わるはずがなんとびっくり立っていたので書くしかないですね!
空さんと矢崎さんについてハイスペックすぎ!とコメントを頂いたんですけど今回もまた二人の才能が溢れました。歌唱に作曲...恐ろしいふたりです笑
後半は予定になかった南の想いいうことで楓が男の子から女の子になってしまって一番つらい思いをしているのは南かもしれません...。
前回に続き連続で匂わせ回になりましたが大して先を考えてないのでこれからも気分気ままに大雑把に考えたストーリーに沿って書いていこうかなって思ってます。
このお話を始めに投稿した時に一応ボーイズラブガールズラブのところにチェックを入れてたんですよね。
紛らわしいので外していましたがもう入れた方がいいよねこれ...。
まあ楓は男の子であって女の子なので...また両方にチェックを入れときます。
そういえば楓が紅茶しか飲めない設定は実はあまおとと同じなんです。
紅茶が大好きでコーヒーが飲めない...今ミス〇ードーナツで9話書いてるのですがコーヒーを頼みました。
紅茶と違っておかわり自由という文字につられてしまいました...苦いです...笑
いつも通りあとがき長すぎる気がするのでこの辺で失礼します。
今回も読んでいただいてありがとうございました!
ブクマ登録、高評価、コメントしてくださったら楓の歌の点数が上がります!
※誤字脱字報告ありがとうございます!
完全に気づいていませんでした。
修正箇所1
「え、わかるの? うん、空ねえの好みだからわかる」
↓↓↓
「え、わかるの?」
「うん、空ねえの好みだからわかる」
修正箇所2
どうな風に…僕と一緒にいる時間が嫌なことを忘れられるくらい甘くて幸せな時間にしてあげたい…元気を与えられるような…。
↓↓↓
どんな風に…僕と一緒にいる時間が嫌なことを忘れられるくらい甘くて幸せな時間にしてあげたい…元気を与えられるような…。