打ち合わせ / 空さんとお出かけ
「楓くんかわいい〜〜〜!!! あれ? 今は楓ちゃんって呼んだ方がいいの?」
「こらこら、空ははしゃがない。楓…なんか災難だね…」
「いえいえ…今まで通りで構いませんよ」
女の子に変わってしまった僕は、ひとまず絢斗と南に報告した。
二人とも驚いていたが一度僕と会いたいとのことで、三人の都合が合う日に集まることにした。
次に空さんも矢崎さんに報告する。僕がかえでのアバターでVtuberをすることを伝えると打ち合わせも兼ねて会うことになった。
「楓は昨日、女の子に変わっちゃったんだよね?」
「はい、昨日の朝起きたらこうなってて…」
「そっか、まだ気持ちの整理もできてないだろうに僕らの都合で会うのを急がせてしまってごめんね」
「大丈夫です…なんか不思議と今の自分に納得できちゃってるんです」
そう言ってまだ届いてまもない熱々の紅茶を慎重に口に含む。
僕達が打ち合わせに使っているのは前回南に連れられて空さんと矢崎さんと会った喫茶店だ。
お客さんもまばらだし落ち着いた雰囲気で居心地いいんだよね!
「それで楓くんはあのアバターでデビューするってことでいいのよね?」
「はい、あの子でやろうと思います」
「そう、女の子として売り出すの? それとも男の娘として売り出す? 急に元に戻れた時のことを考えると男の娘の方が安全な気がするけど…」
空さんの指摘はもっともだ。
それは僕も考えたことで急に女の子に変化してしまった僕の身体は明日には元の男の子に戻っていても何もおかしくは無い。
女の子Vtuberでデビューして次の日に男の娘でしたなんてことになったら、見に来てくれた人に最悪な印象を抱かせてしまうかもしれない。
でも…。
「はい、男の子に戻った時のことは僕も考えました…それでも僕は女の子としてデビューしようと思います」
「そう…なら私もそのつもりでちゃんとサポートするね」
「ありがとうございます」
「それに楓くんなら男の子に戻っちゃってもきっと平気ね」
空さんはにっこりと笑って僕の考えを受け入れてくれた。
お、男の子に戻っちゃったらそれはもうやばいと思うけど…。
「じゃあ僕はあのアバターを完成させちゃうよ、全部終わるのに2週間は欲しいかな」
「に、2週間でできちゃうんですか!?」
ふ、普通の数ヶ月とかかかるものじゃないの…?
前も一晩で完成と言われても疑わないくらい精巧なアバターを作り上げてたよね…矢崎さんはまだまだ未完成とは言うけど形だけなら僕にはあれ以上が想像できない…。
「僕からしたら長いくらいだよ。でもせっかく僕のブランドからVtuberがデビューするんだ、最高の出来にしたい」
「矢崎さんってやっぱり凄い人ですね…」
「そんなことないよ、普通普通、みんなこんな感じだよ」
「そんなわけないじゃないですか、先輩は自分の才能をわかって無さすぎですよ」
と横から空さん、僕も空さんの言う通りだと思う。
数日であれだけのイラストとキャラ設計図を描きあげてしまう空さんも空さんだけど…。
「でもそんなこと言ったらたった数日であれだけの資料を描きあげる空も大概だよね」
「私はそんな大したことないですよ? 先輩はおかしいくらい凄いですけど」
「おかしいって酷いなぁ…」
「そ、空さんも矢崎さんもすごいと言うことじゃダメなんでしょうか…」
僕の言葉に顔を見合わせる二人。
「「ぷっ(ふふ)、そういうことにしておこうか(おきましょうか)」」
この後も30分ほど雑談やVtuberになった時の目標とか色々話して時間を過ごした。
僕の目標はたくさんの人に元気を与えられるVtuberになること! 本当ならザックくんみたいになりたかったけど今の僕にはちょっと難しいと思う…。
「楓のアバターは2週間を目処に作るよ。念の為準備の時間も余裕を持って1ヶ月後には活動できるんじゃないかな」
「はい! よろしくお願いします!」
「じゃあ僕は早速戻って作業を始めようかな」
座ったまま深々と頭を下げる僕にまたねと言って席を立った矢崎さんは会計を済ませて足早に喫茶店から出ていった。
あれ、もしかして三人分払ってもらっちゃってるかも…後でちゃんとお礼言わないと。
「私はどうしよっかな…先輩の仕事手伝えるほどの技術持ってないし」
「空さんはあの子をデザインしてくれたじゃないですか」
「だからあと2週間楓くんにできることないんだもん」
「仕事は平気なんですか…?」
「平気平気、今来てる依頼は昨日のうちに全部片付けて来ちゃったから」
やっぱり空さんもとんでもない…。
僕ってこんなすごい人たちが作り上げたアバターを使ってVtuberになるんだ…考えたら今から緊張してきた…。
「こういうこと聞いていいか分からないんですけど…その…空さんはあの子を描くのにどれくらいかかったんですか…?」
「うーん、ある程度は頭の中で描きあげちゃうんだよね…、デザインとか構図とか全部まとめて完成系を作ってから描くから描くだけなら2時間くらいかな。楓のアバターは量が多かったから4時間かかっちゃったけどね」
「え、えぇ…」
「楓くん? どうしたの?」
この話聞いたら全国のイラストレーターが黙ってなさそう…頭の中で完成させるのはともかくそこからあれだけのイラストを描くのに4時間…?
えぇ…?
「空さんもほんとに凄いですね…」
「そう? 普通じゃない?」
「普通じゃないと思います!!」
空さんも矢崎さんも自分の凄さが多分わかってない…言ってしまったら化け物が二人集まって仕事してたら感覚が麻痺しちゃうのかもしれないけど…それにしてもすごすぎじゃない…?
もうちょっと自覚しないと他のイラストレーターさんとかデザイナーさんと話した時に無意識のうちに相手の精神ズタズタにしそう…。
「も〜、いきなり大声出さないの!」
「だって空さん自覚してないんですもん!」
「え〜」
頬を膨らませて拗ねた顔をする空さん。
昔はすごく可愛いお姉ちゃんって感じだったけど、今はとても綺麗なお姉さんって感じになった。
だけどこうやってたまに昔を思い出すような顔をされるとちょっと懐かしくなる。
「私の話はいいから楓くんの話を聞きたいな〜」
「ぼ、僕の話ですか?」
「うん、それにそろそろ行かない?」
そう言って荷物をまとめ始める空さん、そういえばこの後空さんとお出かけする約束したんだった。
僕はティーカップの残り三分の一を飲み干してまだ使い慣れないバッグを手に持って席を立った。
使い慣れない、それもそのはずで今まではボーイッシュな格好にまだ男の子でも持ち歩くような鞄を使っていたんだけど、お母さんから見事にダメと言われてしまい細い肩紐に物入れの部分も小さな可愛らしくて完全に女の子用のショルダーバッグを渡されたのだ。
あ、ちなみに会計はやっぱり矢崎さんが済ませてくれていた。
「それにしても楓くんはもうすっかり女の子って感じだね」
「言わないでくださいよぉ…」
「でもとってもよく似合っててかわいい」
お店の外に出て空さんは改めて僕の全身を見やる。
今日の僕の格好は黒のオープンショルダーフレアブラウスにブラック柄のダブル編み上げスカパン、レースの付いた白の靴下と黒のロリータパンプス。
肩に黒の小さなショルダーバッグをかけている。
全部お母さんが用意したもの…なんかもう素足が出ていることは諦めてしまった…。
「楓くんにとっても似合ってる、百合さんのお手柄ね!」
「僕一応女の子なのにこんな格好変じゃないですか…?」
「全然変じゃないよ? それにそんなことは楓ちゃんが一番わかってるんじゃないの?」
「ぅ…」
そうなのだ、わかってる、わかってるんだけど納得したくないだけ…。
お母さんが用意してくれたこの服は全部僕に似合ってる…それだけは嫌だと言い張った結果、結局軽くということでされてしまったお化粧もよく似合っててほんとに可愛いと思う…認めたくないけどね!
「じゃあ、楓くん! 私も楓くんに似合う服選んであげたいからショッピングモールに出発!」
「ぼ、僕の服ですか!?」
「もちろん! ほら行くよ!」
そして僕達は電車に乗って横浜駅から辻堂駅に移動してきた。
横浜周辺で色々見て回るのも良かったけど空さんの家に近い辻堂のテラ〇モールに来ることにしたのだ。
「久しぶりに来たけど大きいなぁ…」
「あんまりこういうとこ来ないの?」
「服とかはお母さんが買ってきてくれるし、大体のものは藤沢に行けば買えましたから…来るとしても映画見る時くらいですかね」
「そっか〜、男の子だもんね。家族で来ないとあんまり来る機会はないかも、絢斗くんと南もこういうとこは一緒に来ないタイプだもんね」
辻堂駅から伸びる橋を渡りながらそんな会話をする。
時刻はちょうど12時に差し掛かった頃、つまり…。
ぎゅるるる〜。
「う…」
「あははは、楓くんお腹鳴った? 鳴ったでしょ!」
「うぅ…わざわざ言わないでくださいよぉ…」
「もうこんな時間だもんね、まずはお昼食べよっか」
「はぃ…」
こうしてフードコートコーナーにやってきた僕達はひとまず席を確保して何を食べるかお店を見て回ることにした。
お腹減ったなぁ…何食べようかな!
女の子になっても食欲とかはあんまり変わってないと思う…というか元から少食だったしそこまで身長とかも変わってないもんね!
「ローストビーフ、中華、お魚、ビビンバ…楓くんは何にする?」
「うーん、しらす丼にしようかな…」
「あ、それも悩んでた…じゃあ私は石焼きビビンバにしようかな、ひとくちちょうだいね!」
「じゃあ僕にもビビンバひとくちください!」
それぞれのお店に行くために一旦別れて各自目的のお店に向かう。
そこそこ並んでる…空さんの方を見れば空さんも列に並んでるところだった。
これなら待たせるってこともなさそうかな…。
「おー、涼のとこ並んでんなー。先行って待ってるからな」
「おう、先食べてていいぞ」
あれ、この声…。
「水野くん…?」
「ん? お、楓じゃん。ってその格好…」
「んー? 涼の彼女?」
「ちげーよ! ただの知り合いだ!」
水野くんに話しかけてきたのは水野くんと変わらない身長で細身な男の子。
短めの髪型でいかにもスポーツをやってそうな見た目をしている。
「本当かー? 俺は涼の友達の清水大樹だ、よろしくなー」
「う、うん、よろしくお願いします…?」
「涼ー、こんな可愛い子と知り合いなら紹介しろよー」
「うるせ! さっさと席行ってろ!」
そう言ってへいへーいと手をヒラヒラさせて清水くんは座席の方へ歩いていった。
「俺のつれが悪かったな…」
「ううん全然大丈夫! それになんか男の子同士の友達って感じていいなぁって思っちゃった」
「楓はああいう友達いないのか?」
うーん、水野くんはまだ知り合ったばかりだし絢斗はそういう感じじゃないからなぁ…男の子同士のあんな感じの友達って実は居ないかも…まあ僕がこんななりだからなんだけど…あ、もう女の子なんだった。
「友達はいるよ? でも男の子同士というかいじられちゃう感じ? だからちょっと羨ましいなぁって…」
「そっか…そういえば楓のその格好、本格的にすごい可愛いとは思うけど本格的に女装?」
水野くんが僕の頭からつま先まで目をやって頭にハテナを浮かべている。
まあその反応だよね…前に会った時とかなりボーイッシュな服装だったから…。
「あ、えと、これには色々理由があってね…また後で説明するからとりあえず女の子の知り合いってことにしといてくれる?」
「お、おう? そういうことにしとくな」
「あ、次、水野くんだよ」
「あ、ほんとだ」
そうして水野くんは注文しにレジカウンターへ向かっていった。
僕も少し待ってすぐに自分の番が回ってきてしらす丼を注文した。
注文を終えて出来上がったら鳴る機械を受けたって席に戻ろうとすると水野くんが待っていた。
「なあ楓のとこ席余裕ある?」
「…? 四人席に座っちゃったからあるけどどうして?」
「いや一緒に食べたいと思ってさ、ほら、人数が多い方が楽しいじゃん? あ、誰かと来てるよな、ごめんごめん」
「えーと、空さんに聞いてみるね」
「おう!」
確かに人数多い方がこういうとこは楽しいもんね!
僕は全然構わないけど空さんは二人と初対面になっちゃうから大丈夫かな…?
「私は全然いいよ〜、なになに、楓くんの彼氏?」
「ち、違ういます! えっとこちら空さん、僕の友達の従姉妹のお姉さん。こちら水野くん、僕の友達」
水野くんと話しているとちょうど空さんが通りかかって僕達の会話に割り込んできた。
すごくちょうどいいけど、水野くんは僕のこと男の子って認識になってるんだからそのからかいはちょっと!
「あ、楓の友達の水野涼です。よろしくお願いします」
「楓の友達の従姉妹の星月空です、よろしくね水野くん。ってちょっと私の肩書き長くない?」
水野くんが空さんにお辞儀して挨拶すると同じようにして空さんも水野くんに自己紹介した。
あとは清水くんにも伝えないと…。
「それじゃあ私は先に戻ってるから楓は水野くんと一緒に来てね」
「はい! じゃあ水野くん、清水くんも呼びに行こっか」
「おう!」
そして僕達は空さんと僕の席から反対側の席の方へ歩き出した。
不意に水野くんが僕の耳に顔を近づけてくる。
「なぁ、楓ってほんとに男の子なんだよな?」
女の子になったことを空さんと矢崎さんに話した楓くん...楓ちゃん!
矢崎さんは本格的にアバターを完成させるようでそろそろVtuber活動も迫ってきたという感じではありますが、それにしても空さんも矢崎さんもスゴすぎっ!と書きながら思うあまおとであります。
ちなみに楓くんが着る服を考えるのに一時間ほどファッションについて調べまくりそれぞれの服の名前とか探しまくりました...これで間違ってたら...でもでも、これ違うこっちじゃない?ってのがあったら教えて下さると助かります...。
そして満を持して登場としてきた水野くんとそのお友達の清水くん!
読んでて思ってる人も多いんじゃないかと思いますが水野くんは楓にとってもすごく重要なキャラクターになって行くんじゃないかなという感じではありますね。
そういえば実はみんな神奈川のそれも近い地域に住んでるんですよね、今のところ矢崎さんだけちょっと離れていると言った所でしょうか。
何故ここにしたかと言うと理由は簡単で作者のあまおとがこの辺に住んでるからなんですね。テ〇スモールも家族に連れられて何度か行きましたね、最近行ってないですけど...笑
さてさて、次回は空さんとのお出かけ後半と言ったところではありますが、水野くん達がどのように話に絡んでくるかと言ったところですね。
ぜひお楽しみにと言ったところでこの辺にしておこうと思います。
今回もここまで読んでくださってありがとうございました!
ブクマ登録、高評価、コメントしてくれたら楓が跳ねて喜びます!
あ、楓に着せる服はいつでも募集してます...(情けない話ですがほんとによろしくお願いします...“〇| ̄|_)
あ、あとそれからそれから!
週間ランキング92位に載っていました! 本当にありがとうございます!