いよいよ開場
「楓ちゃん、ちょっとトラブルあって時間危ないから先にメイクさせてくれる?」
「えっ…はい…」
一旦控え室に戻って涼くんに会いに行こうと思っていた僕を慌てた様子で待っていた優芽さんに止められた。
どうやらステージの機材トラブルがあったらしく先にメイクを済ませたいとの事だった。
本当なら着替えたりメイクする前に涼くんと会うつもりでいたけれど少し難しそう。
コスプレ衣裳まで着たらさすがに涼くんに会いに行けないよね…。
「菊池さん、メイクお願いできる?」
「はいはーい、じゃあ楓ちゃん、急ぎめに終わらせちゃおうね」
「はい…」
「やっぱり元気ない…?」
「いえ、悩んでたこと少しスッキリしたんですけど…メイクして衣装着たら会えなくなっちゃうなって…」
「そっか…ごめんね…こっちの機材トラブルなのに…」
申し訳なさそうな表情を浮かべて謝る菊池さん。
菊池さんの仕事はメイクで機材トラブルとは関係ないのに急いでいるということは問題は大きいかもしれない。
僕にもできることがあればいいんだけど…まあないよね…できるとすれば急いでいるスタッフさんに合わせて協力するくらい。
「大丈夫です…終わってから時間作ればいいですし…メイクお願いします」
「ごめんね…うん、任せて!」
甘夢かえでになるためのメイク、元々かえでの顔は僕とそこまで変わらないから薄化粧だけど、薄化粧とは言ってもウィッグとかカラコンとかとか…やることは結構沢山だったりする。
それでも菊池さんの腕前なら10分もあればあっという間に鏡の前にはそのままの甘夢かえでが座っていた。
服は僕のままだけど首から上は甘夢かえでそのもの。
「かわいい…」
「急いでたけど今までで一番上手くできたかな」
「すごく可愛いです!」
「ありがと、じゃあ私もう呼ばれてるから衣装は自分で着れる?」
「はい!」
甘夢かえでのメイド服、基本的にはクラシカルなメイド服なんだけどところどころアクセントにピンク色が入っているのでゆめかわとも言えるかもしれない。
スカートは短くない膝より下まで伸びている上品なスタイルになっている。
真っ白なタイツとすっかり慣れたヒールになった靴も合わせて鏡の中の自分を見てみる。
身長はかえでと同じ、スタイルにと恵まれ、まるで作り物のように細くて長い自分の腕と脚。
真っ白なタイツに包まれた脚は男の子の時よりも綺麗な曲線で自分でもドキドキしてくる。
身長から考えたら決して小さくはないけれど控えめな胸。
頭の上にヘッドドレスを付けて甘夢かえでの完成。
「かわいい…」
中にいるのは自分なんだけどすごく可愛い…。
今すぐにでも涼くんに見せに行きたいけど開場するまでは外に出られない。
開場まであと20分だし今は我慢だよね…始まったらもしかしたら会えるかもだし…。
南が涼くんのことを好きなわけじゃないなら僕は涼くんを好きでいるのは許されるのかな…。
気持ちは変わっても事実は変わらない…僕はこんなだけど男の子なんだから…。
10分前になったら開場入口で出迎えの準備をしなきゃ行けない。
僕の最初の仕事は矢崎さんの付き添いとしてゲートで来場者を出迎えるのだ。
個人的に矢崎さんと二人だけなのがとてつもなく恥ずかしい、もっとたくさんで出迎えならいいのだけど…矢崎さん以外に出迎えられる、言ってしまえば人間体の矢崎さんの作品は僕しかいないのだ。
一応ファッションショーのモデルはいるけど、ショーに着る服は使えないもんね。
この格好だから目立つだろうしちょっと怖いなあ…。
「楓、準備できたかい?」
時計を見るとちょうど9時50分に差し掛かっているところで、矢崎さん自ら呼びに来てくれたらしい。
「できてます! でもちょっと緊張してます」
「仕方ない…でもこればかりは慣れるしかないから頑張ろう。そろそろ入口の方に来てくれるかな」
「わかりました!」
矢崎さんの服装はシンプルでオシャレな黒のズボンに白のシャツというスタイル。
腕には金色の腕輪を付けている。
正方形の無骨なデザインだけどネックレスの装飾と同じデザインで、今日の矢崎さんのスタイルらしい。
このアクセサリも自分でデザインしたとか。
ほんとにどこまで才能があるのか限界を見てみたくなるなあ。
♣♠♣♠♣♠♣♠♣♠
「楓…」
「PINE、出ないんですか?」
「ああ…」
俺は楓に送ったPINEの一文を見つめてため息を着く。
15分前、南が戻ってきた頃に送ったはずなのだが一向に既読が着く気配がない。
南はきっと会いに来てくれると言っていたがやはり俺なんかには会いたくないのだろうか。
今日はなるべく彼女の邪魔にならないようにこっそり見学だけしてさっさと帰るか。
楓に俺はふさわしくないんだと思う。
「あ、もう開場しちゃいますね」
「涼、そろそろ行かないとだぞー」
「涼…時間…」
「涼、大丈夫か?」
イライラしていると思う。
大樹も小雪も、絢斗も南にも心配させてしまっている。
今はまず会場入りして楓のステージまで時間を潰すしかないか。
「すまん、行こう」
そして俺達はこのでかい会場のゲートから建物の中に入った。
まず目に入ってきたのはデザインチックな巨大なゲート。
森を意識しているのだろうか、左右に木が並んでいてさながら〇と〇のカーニバルのPVのようだ。
しばらく進んでやっと会場が見えたと同時に愛しい人の姿が映り込んできた。
「楓…」
それは天から降りてきた天使のようで、この世界のものとは思えないほどに神々しい存在。
画面からそのまま飛び出してきたようなそんな可愛らしいあまゆめかえでがそこにはいた。
遅くなって申し訳ありません。
最近とあるLINEグループ(小説家一名と読者4名、それと私)にてエロばかり書いてたため本編遅れたとかではありません()
決してそのようなことは...。