私はかえで、あなたも楓
「な、なんで女の子なんですかぁぁぁぁぁ!?!?!!??」
「わっ、びっくりした。急に大声出してどうしたの楓」
僕の前に現れたアバター、矢崎さんはそのまま形にしただけでもっと作り込むとは言うけど、既に企業勢のアバターにも引けを取らない見た目だと思う…。
だけど…だけど…どう見ても女の子なのだ!
「ぼ、僕は雷雲ザックくんみたいな男らしくてかっこいいVtuberになりたいんです!!」
「男らしいアバター? 空からは男の娘Vtuberとして売り出すって聞いてるけど」
「え!? 男の娘で売り出すなんて言ってないですよ…?」
「おかしいなぁ、空は男の娘って言ってたんだけど」
あれ、でも男らしくとも……言ってない!!??
もしかして僕本当に男の娘で売り出すって思われてる!!??
「…でも僕、空さんに要望とかまだ何も言ってない…もしかしたら男の娘って思われてるかも…」
「それは仕方ないかもなあ、楓見ても男らしくって感じしないから…」
そう言って苦笑する矢崎さん。
空さんとは久しぶりに会ったわけだし、可愛い以外に何も言われなかったから僕からも何も言わなかったんだ…。
ああぁぁぁ、、確実に男の娘ってことになってるよこれぇぇ。
「とりあえず空に連絡してみよっか」
「はい…」
そう言って矢崎さんがデスクの上で指を動かすと部屋の中央に大型のホログラムが表示された。
画面を見るに空さんに電話をかけているみたい。
『はぁい…こんな早くからどぅしましたぁ…?』
「もう12時になるんだけど? 」
『嘘だぁ、だって私の時計は…ってもうこんな時間! 』
「はあ、空の生活習慣は信じられないよ…」
画面に映るのは寝起きの空さん、可愛らしいピンクのパジャマに身を包んで…って胸見えてるっ! 胸元見えてますっ!
ぼ、僕だってこんななりでも男だからちょっと見ちゃうのは自然なことで…ってだめだめ!
「一応楓も見てるんだから身だしなみ整えなよ」
『え、楓くん? あ、楓くーん! おはよ〜』
「お、おはようございます、空さん…。矢崎さんの言う通り着替えてきてください…その…見えてます…」
『んん? あ、ごめんねすぐ着替えてくる〜』
そう言って画面外に出ていく空さん。
見ちゃいけないのはわかってるけど男の子なら仕方ないよね!
僕だって男の子だもん!
「空は外に行く時はちゃんとしてるのに家だとだらしないんだよね…僕が用事でかけるとこういう時が多いよ」
「そ、そうなんですか…あはは…」
しばらくして部屋着らしき服に着替えて寝癖を直した空さんが戻ってくる。
『それで急に電話なんてどうしたんですか?』
「楓のアバターデザインの話でね、空からは男の娘って聞いていたけれど楓の要望は男らしくってことらしいよ?」
『えぇ? 何も言われなかったから男の娘でいいんだと思ってました』
「何も言われてないのに男の娘でデビューするって言ってたんだ…」
「えーと、僕は男の子じゃなくて男らしくなりたくて…」
『んー、そっかぁ、じゃあすぐに描き直すね。自信あったんだけどなぁ〜…』
「ごめんなさい…」
空さんの自信作のアバターデザイン…デスク上のこの子はきっと空さんが動く姿まで想像して僕のために作ってくれたもの。
「謝らなくていいよ楓。楓が望むアバターを作ってあげるのが僕らの仕事だからね」
『そうだよ楓くん、私に任せておいて!』
「…はい、ありがとうございます」
「あ、ちょっと悪い、少し外すよ」
矢崎さんが何かを思い出したように手を叩いて部屋から出ていく。
僕が新しくデザインを頼んだらこの子はどうなるんだろう。
捨てられちゃうのかな…それはちょっと寂しいな…。
『楓…』
「なんですか?」
『楓くん? どうかした?』
「あれ、空さん今僕のこと呼びませんでした?」
『呼んでないよ?』
「あれ…?」
今確かに呼ばれた気がしたんだけど…気のせいかな。
『大丈夫?』
「え、あ、はい。大丈夫です…ところで僕が新しいデザインを頼んだらこの子はどうなるんですか?」
『え? この子? うーん、わざわざデータを消すとかはしないと思うけどお役御免かしら、使い道ないからね…』
「そうですか…」
空さんがデザインしてくれたこの子、矢崎さんが作ってくれたこのアバター。
せっかくならみんなに見てほしい、そう思う。
「デザインやり直してもらうの、ちょっと待ってもらってもいいですか?」
『どうして? やっぱり男の娘デビューする
?』
「まだ決めては無いですけど、もう少しちゃんと考えてみようと思います」
『そっか、じゃあ決めたら連絡してね』
「わかりました」
男の娘になるつもりはなかったけどせっかく生まれてきてくれたこの子が日の目を浴びないのも嫌だ。
もっと真剣に考えないとこの子に失礼だよね!
『そういえば楓くんの今日の格好すごく可愛い』
「東京に行くならってお母さんに着せられちゃって…」
『ほんとに女の子みたい、すごく似合ってる』
「えと、ありがとうございます…」
正直可愛いって褒められるのは嫌じゃないし嬉しいのは嬉しいんだけど、ちょっと複雑だったりする。
ちゃんと男の子として褒めてほしいんだけどな…。
『でもナンパされたりしないように気をつけなきゃダメだよ? 楓くん声も可愛いし見た目も女の子なんだから』
「な、ナンパなんて…」
さ、されないよね…?
あれ、この前水野くんに助けて貰った時…。
「あ……」
『え! 嘘! されたの? 大丈夫だった?』
「えーと…この前不良に少し…でもでも! ちょうど助けてくれた人がいて何とかなりました」
『そっか…よかった…楓くんはその辺の女の子よりずっと可愛いんだから気をつけてよほんと』
「は、はい…気をつけますね」
そう言って苦笑いする僕と同じことを言い続ける空さん。
しばらくして矢崎さんが戻ってきてからまた少し雑談をして今日は帰ることになった。
ーーーーーーーー
その日僕は夢を見た。
まっくらななかに僕と空さんがデザインしてくれたアバターの二人だけが立っている夢。
『楓…』
「あ、その声…」
昼間矢崎さんのところで聞こえ多様な気がした誰かの声。
この子だったんだ…。
「あれ、それって僕の声…?」
『うん、だって私はあなただもの。楓…やっと会えたね』
「きみは…?」
『私はかえで』
「かえで…?」
『そう、私はかえで』
「かえで? 楓は僕だよ」
『私たちは同じ…私はかえで、あなたも楓』
「ど、どういうこと? きみもかえで…僕も楓…?」
『そう、私たちは同じ存在、あなたのかえで』
「全然意味がわからないんだけど…」
『あなたは運命、私も運命、かえでは楓の運命なの』
「どういうこと?」
『あなたは私になるの、私は楓のためのかえで』
「えっと…それって僕がVtuberになること?」
『そう…楓はかえでになるの』
「かえでになる…」
『だから早く目覚めて…私の楓…あなたのかえで』
「え、あっ、」
目の前が真っ白になって行く感覚、どこかへ引っ張られるようにして僕の意識は目覚めた。
ベッドから起き上がるとパジャマがびちょびちょになるくらい寝汗をかいていた。
パジャマも髪も肌にピッタリくっついていて、ちょっと気持ち悪い。
「(とりあえず顔洗おうかな…)」
眠い芽を擦りながらのそのそとベッドから這い出て洗面所へ向かう。
水道の蛇口をひねれば冷たい水が手を濡らして心地が良い。
顔を洗えば意識も少しはっきりしてきた。
何か変な夢を見た気がするんだけど全然思い出せない。
思い出せないってことは大したことじゃないよね!
「今日も頑張るぞ〜!」
僕は両手を上にして伸びをしながらひとり洗面所で自分に気合を入れる。
こうするとなんだかやる気が出てきてスッキリできるんだよね!
そしたらまずは着替えを取ってきてシャワーを浴びちゃおう!
このままだと汗がちょっとべたべたしちゃうからね!
「(着替え着替え〜、今日はこれでいいかな)」
タンスから部屋着を一式引っ張り出して脱衣所に向かう。
着替えをカゴに入れて汗で濡れたパジャマの上に手をかけて捲っていく。
「あれ…」
そうして僕は自分の身体に違和感を感じた。
なんか…胸…膨らんでる…?
「え…?」
思えば下半身も違和感…慌ててパジャマの下もパンツも脱ぎ捨ててそして気づいた。
僕の男の子がない…。
「え、あれ、うそ…」
お風呂場の全身鏡の方を向いて鏡に映る自分の姿を確認…やっぱり…ない。
鏡に映っているのはどこから見ても立派な女の子…。
身長も少し低くなってる気がする…。
「ええぇええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!?????」
さて、とうとうこの話を書く日が来たなと思うところではありますが実は当初の予定から書きながら気分で変更してかなり変わってしまいました。
本当なら楓のキャラクターソングを作ったりのくだりも入れようかなと予定してはいたのですが準備部分が長くなりすぎる気がしたのでこうなりました。
4話を書きながら複数人の会話が苦手かなと書いてて思ってたんですが、5話を書いてひとりのシーンほど書きにくいものはないと痛感しました。
このタイトル回収にもなる見どころシーンを書くだけの技術センスがなくてこの話を投稿するのもすごく躊躇われるものがあります...。
もっと上手くなっていつか話は変えずに納得のいく形に直せたら直したいです...。
余談ではありますが私は第五人格と白猫プロジェクトをずっとやっているのですが、最近このお話のことしか考えられなくなってどちらもサボりまくって茶熊武器を交換し忘れるという大バカをやらかしました...。(わかる人にはわかるはず...)
復刻を待ちながら気ままにやっていこうかなと思っております...。
それでは最後まで読んでいただきありがとうございました!
ブクマ登録、高評価、コメントなどして頂けたらテンション上がりまくりになります。
次のお話でお会いしましょうあまおとでした。