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僕のアバター

 


 僕と南は横浜駅から少し歩いたところにあるこじんまりとした喫茶店の一席でその人が来るのを待っていた。


「それで僕まだ何も聞いてないんだけど」


「説明いる?」


「いるよ!! 呑気にコーヒー飲んでる場合じゃないんだから!」


「大丈〜夫!」


 南はずずーとコーヒーを啜ってウィンクしてくる。


 僕はもう何が始まるのか気になって飲み物どころじゃないんだけど!


 ちなみに僕はコーヒー飲めないから紅茶を注文したよ。


 無難って言われるかもだけどアールグレイが好きなんだよね!


「絵師の先生が来るって言ってたけど僕何も知らないのほんとに大丈夫なのかな…」


「大丈夫大丈夫、楓もよく知る人だからね!」


「え〜、全然心当たりないんだけど…」


 絵師の先生なんて心当たりがない。


 そんなすごい人が知り合いにいたかな…。


 そう思って頭を悩ませていると入口が開く音がする。


「ほら、噂をすれば来たみたい」


「う、うん。失礼のないようにしなきゃ」


 お店のマスターに案内されて僕達の席にやってきたのは…。


「あれ、(そら)さん…?」


「あ、やっほ〜! 久しぶり楓くん、また可愛くなった? 」


「お久しぶりです! でもなんで空さんがここに…?」


 空さん、フルネームだと星月空(ほしつきそら)さん。


 南の従姉妹にあたる人で小学生の頃に何度か遊んでもらったことがある。


 南はふんわりカールのかかった亜麻色のボブヘアーで、空さんは背中まで伸びる同じく亜麻色のストレートヘア。


 服も茶色で統一されていて落ち着いた印象を受ける。


「南から聞いたよ〜、楓くんがVtuberデビュー用のデザインを頼んでるって」


「え?」


 何も知らない僕は、隣の南の方を向く。


 南は何も言わず逃げるようにコーヒーを口に運んで窓の外を向いた。


「あれ、楓くんもしかして何も知らずにここに連れてこられたの?」


「えーと、はい…Vtuberになりたくてデザインしてくれる絵師の先生を探してるのはそうなんですけど…」


 ちらっ。


「……」


「みーなーみー? まーた何も言わずに楓くん連れ回して! 楓くんの用事とはいえちゃんと説明しなきゃダメでしょ! それに私だって暇じゃないんだから、楓くんが依頼してるって言うから来たのよ?」


「あたっ、だ、だって楓のアバター作れるのなんてお姉ちゃんくらいしか思いつかなかったんだもん! 」


 がちゃんと音を立ててコーヒーカップがソーサーに置かれる、と同時に空さんのチョップが南の頭に炸裂して頭を抑えながら涙目に訴える南。


「とにかく! これからはちゃんと楓くんとしっかり話してから連絡してくること!」


「は〜ぃ…」


 しょぼーんど項垂れる南。


 でも何も説明してくれなかったのは間違いないんだし、慰めなくてもいいよね?


 う、涙目でこっち見てる…。


「で、でも僕もデザインしてくれる人探してたし、僕のためにありがと」


「楓ぇ…いい子だよ楓ぇ」


「あ、あはは…」


 両手をこっちに伸ばして頭を撫でてくる南にされるがままにされる僕。


 空さんがまったくもうとでも言いたげにため息をついて口を開いた


「あ、それで楓くん。Vtuberになるってほんとなの?」


「あ、はい。なれたらいいなって思ってます。配信機器とかはお父さんが揃えてくれたんですけど肝心のアバターを頼める人がいなくて…」


「なるほどね〜、それで私にお声がかかったってわけね」


 なるほど〜って顔をした空さんを見て、空さんの反応はよくわからないけど僕は一つ忘れていたことを思い出す。


「そういえば今日は絵師の先生が来るって聞いてたんですけどまだ来ないんですかね」


「ん? 絵師の先生? 他にも来るの?」


「他に"も"って、まだ来てないですよ…?」


「え? 絵師、私の事だよ」


「空さんが絵師の先生…?」


「うん」


 んん?


 空さんが絵師の先生?


 何当たり前のこと言ってるの? って顔しないでください空さん…僕は何も聞いてないんです…。


「もしかしてなんだけど、南何も言ってなかったの?」


「ごめんなさいお姉ちゃん! 言わなくてもいいかな〜なんて…」


「言わなくてもいいかなじゃないでしょ! あんた少しは反省しなさい!」


 うわぁ…頭グリグリされてるよ、痛そう…。


 いたいぃって聞こえてくるけど南にはちゃんとおしおき受けてもらわないとダメだよね…?


 手を離された南は頭を抱えて机に突っ伏した、痛そう…。


「さてと楓くん、この馬鹿は置いといて話を進めるわよ」


「あ、はい」


「楓くんは知らないと思うけど、私はイラストレーターの仕事をしててね。今回は南から話を聞いたけど楓くんのVtuber用のアバターデザインの話よね? 一応イラストレーターとしての自己紹介をしとくわ」


 そう言って空さんはカバンの中から名刺を取り出す。


 所属のデザイナー事務所名や電話番号、住所などの書かれた名刺を見て、僕の目線は一箇所に釘付けになった。


星空月夜(ほしぞらつきよ)…」


「あれ、楓くん私のこと知ってるの?」


「星空…月夜……って、えぇぇぇ!!!???」


「わっ、楓くんどうしたの?」


「いやっ、星空月夜先生って空さんだったんですか!?!?!?」


「う、うん、そうだよ?」


 星空月夜先生、ぱいなったーフォロワー数100万人に差し掛かる超有名イラストレーター…が僕の目の前にいる!


「空さん凄いです! ぼく星空月夜先生のイラストいつも見てます!」


「え、えぇと、ありがとう? それで改めて星空月夜です。よろしくね楓くん」


「は、はい! よろしくお願いします星空先生!」


「せ、先生はいらないし今まで通り空でいいからね?」


「は、はい。空さん、よろしくお願いします」


 思わず立ち上がって深々とお辞儀した僕に隣に座っていた南がくすくすと笑っていた。


 空さんが星空先生…あれ、僕ってとんでもない人にお願いしようとしてるの…?


「それじゃ、楓くんのアバターデザインの打ち合わせ、始めよっか」


「はい!」


「あ、でも今日は私がもう一人私の先輩を呼んでいるの。イラストレーターじゃないんだけど私の仕事仲間でね、打ち合わせは先輩が来てからにしよっか」


「は、はい!」


「楓さっきから"はい"しか言ってない」


 南のツッコミに空さんもくすくす笑いだしておかしくなって僕も笑いだしてしまった。


 僕達三人は昔話で盛り上がりながら空さんの先輩を待った。


 三十分ほど昔話に花を咲かせているとお店の入口が開いて細身の男性が入ってきた。


 お店のマスターに案内されて僕達の座る席までやってきて一言。


「悪い、遅くなった」


「もー、遅いですよ先輩、待ってたんですから」


 空さんが僕達に向ける表情とはまた少し違った表情で先輩と呼ばれた男性と話している。


 黒のスキニーにダボッとした白いシャツ、首には月の形のネックレスをつけている。


 特に目を引くのは真っ白で綺麗な髪、少し長めの前髪を横に流してて…うぅ、イケメンだ…大人の色気って言うのかな、そんな中に幼さがあって…なんか、自信なくす…。


「あ、二人はあったことないから紹介するね。こちら私の従姉妹の南、それでこちらが夢川楓くん」


「「よろしくお願いします」」


「あ、あぁ、僕は矢崎郁(やざきいく)。好きなように呼んでくれて構わない。一応3Dデザイナーやってるんだ、これ、一応名刺渡しとくね」


「ありがとうございます」


 そう言って矢崎さんは空さんの横に腰かけて名刺を取りだした。


 あれ、矢崎さんの名前の上に書かれてる《IKU YAZAKI》ってあの超有名な3Dデザイナーの?


 確かにさっきからオーラが違うというか、ちょっと怖いかも?


「もしかして矢崎さんって…あの3Dデザイナーの…」


「そうよ?」


「す、すごい…」


「そんな、僕なんて大した者じゃないよ。どこにでもいる普通のひよっこデザイナーだよ」


「先輩…ひよっこデザイナーがぱいなったーフォロワー120万人いかないと思いますよ?」


「ま、まあそういうこともあるんじゃないかな」


 空さんのツッコミにあははと笑って返す矢崎さん。


 釣られるように僕と南もくすくす笑い出す。


 さっきまで感じていたちょっとした怖さもなくなって話しやすい人でよかったと思う。


「それじゃ、時間も惜しいし今日僕が呼ばれた本題を聞こうかな?」


「じゃあそれについては私から話しますね」


 空さんが僕かVtuberの3Dアバターを必要としていることを話す。


 矢崎さんは特に表情を変えることなく聞き終えるとゆっくりと口を開いた。


 先程までとは打って変わって真剣な表情。


「それで僕にイラストを元にアバターの3Dメイクを依頼したいってとこかな? アバターのデザインは空が描くんでしょ?」


「私はそのつもりなんだけど…あとは楓くん次第ってとこかしら」


「楓くん、僕も空もこの界隈ではそこそこ名が通っていると思ってる。僕は受けた仕事はきちんとこなすよ、けどお金もそれなりにかかってくることになっちゃうのはしょうがないと思ってほしい…いきなりお金の話をしちゃって申し訳ないとは思ってるんだけどさ…」


「いえ、全然大丈夫です…」


 空さんが知り合いで身近な存在だから忘れていたけれど二人は超大手イラストレーターにデザイナー、そうじゃなくても3Dアバターにかかる費用は安くないというのにこんなすごいふたりに依頼するなんて僕には難しいんだ。


「そうですよね…」


「まあ、依頼されたらいつでも受ける準備はできてるから声かけてくれればいいよ」


「はい、ありがとうございます」


 そう言って矢崎さんは届けられたコーヒーを口に運んだ。


 その時、矢崎さんの話が終わったのを見計らってか話の最中静かにしていた南が口を開いた。


「お姉ちゃんお姉ちゃん、あのこと楓に言わなくていいの?」


「あ、忘れてた! 楓くん楓くん。私は楓くんのアバターのデザイン、無償でやってもいいかなって思ってるからね? 南から話聞いて最初からそのつもりだったしね」


「え!? そんな申し訳ないですよ…」


「私がお姉ちゃんにお願いして最初からそのつもりで連れてきたんだからそこは甘えていいの」


「そうよ? 楓くんのためなら何枚でも描いてあげるわ」


「南…空さん…ぐす」


 よしよしと南に撫でられて僕はいつもの泣きぐせが出そうになる。


 もー! あんまり優しくされると泣きそうになるんだから!


「ふぇぇ…空さん、僕のイラスト、お願いします…ずび」


「はい! 承りました!」


「良かったね楓」


「ありがとう…ふぇぇ」


 結局僕はわんわん泣いてしまうのだった。


 最後に矢崎さんから、後日また話をしたいと言われて今日は解散となった。





 ーーーーーーーー





「いや〜、ごめんね楓くん。わざわざ東京まで来てもらっちゃって」


「全然大丈夫です! それで今日呼ばれた理由って」


 空さんが僕のアバターデザインを引き受けてくれてから数日が経った日曜日、僕は矢崎さんのオフィスに呼ばれていた。


「ああ、そうだった。今日は楓くんに大切な話があってね」


「大切な話…?」


「いきなり本題で申し訳ないんだけど、僕のブランドに所属する形でVtuberデビューしないかな?」


「矢崎さんのブランドで所属してデビュー…って、ぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇええ!!!!!!!?????」


 えぇええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!?????


 それってそれって僕が《IKU YAZAKI》所属Vtuberになるってこと!?


 僕なんかが!?


「実は楓くんの話を聞いてから僕もVtuberに興味を持っちゃってね。空がデザインを考えてくれるなら僕の手で完成させてデビューさせてあげるのも面白いと思ったんだよ」


「え、でも、僕、矢崎さんにお願いできるお金…」


「それは大丈夫だよ。僕のところでデビューする以上、お金なんて取らないさ。うちの所属になってもらうけどね」


 そ、そんな急すぎるよ!?


 僕があの《IKU YAZAKI》のVtuber…それってすごいことかも!?!?


「ぼ、ぼぼぼ、僕なんかが矢崎さんのブランドを背負ってしまっていいんですか…?」


「いいのいいの、僕も楓くんを応援したくなっちゃったってことだよ。形としてはうちの所属だけど、ほとんど個人勢みたいなものなんだから」


「え、えと、よろしくお願いします!」


 僕は勢いよく頭を下げてお辞儀する。


 同時に頭に乗っていたベレー帽が床に落ちてしまった。


 そう、今日はなるべくボーイッシュな格好という僕の維持は守れなかったのである。


 両親に東京に行くと伝えていつも通りの感じで家を出ようとした時に、ままから『東京に行くならもっとオシャレしなきゃダメよ♪』なんて言われると同時に僕の部屋にやってきて結局完全に女の子にされてしまったのだ…。


辛うじてスカートは免れたよ…スカート持ってきた時はすごく焦ったけど…。


「はい、これ落ちたよ」


「あ、ありがとうございます」


「そういえばこの前も女の子っぽい格好をしてるとは思ってたけど、今日はもっと女の子なんだね」


「うっ」


 痛いところをつつかないでください…。


「えーと、楓くんじゃなくて楓ちゃんって呼んだ方がいいのかな…」


「か、楓と呼び捨てで大丈夫です…これはお母さんが勝手に…」


「じゃあ楓と呼ばせてもらうね。それにしてもお母様はとっても楓の事を理解してるんだね」


「え?」


 突然お母さんが褒められて僕はびっくりして聞き返した。


 この女装とも思われかねない服が…?


「だってその服、楓の魅力をすごく引き出してるよ」


「そ、そうかもしれないですけど僕は女装趣味とかなくて…」


「そうなの? 僕はすごく似合ってると思うよ?」


「あ、ありがとう…ございます…」


「あ、そうだった。楓に見せたいものがあるんだ」


 あっ、と思い出したように手をぽんと叩いて矢崎さんは自分のデスクに向かった。


 僕も手招きされて矢崎さんのデスクの前の椅子に腰掛けた。


「実は昨日かな、空から楓のアバターのイラストが送られてきてね。早速3Dに起こしてみたんだ、ほら」


 矢崎さんがデスクの上のホログラム画面を操作するとデスクの中央にまだ服を着ていない少女のアバターが出現した。


 白にピンクのアクセントが入った長い髪、見た目は14.5歳くらいに見える。


「これって…」


「ほんとに組み立てただけだからまだ動かすことは出来ないんだけどね」


「す、すごいです! それにすごく可愛い」


「空の自信作だよ。楓をイメージして描いたらしいね」


 ホログラム画面に表示された空さんのイラストを見て息を呑む。


 それに一晩でここまで作ってしまう矢崎さんって一体…ほんとにすごい人なんだな…。


「矢崎さんってほんとにすごい人なんですね、こんなにすごいものを一晩で作っちゃうなんて」


「僕からしたらこれくらい大したことないよ、みんな僕のことをそうやって言うけどね」


 あはは、と笑ってはいるけどとんでもない技術なんだと思う。


 僕ってこんなすごい人にアバターを作ってもらってVtuberやるんだ…頑張らなきゃ!


 でも…。


「楓? どうかした?」


 俯いた僕に心配そうに声をかける矢崎さん。


 僕の口から飛び出した言葉は…


「な、なんで女の子なんですかぁぁぁぁぁ!?!?!!??」




いよいよ本格的なVtuber活動へ向けて動き始めた楓くん。

楓くんのアバターもちょろっと登場しました。

次回にはその全貌が拝めることになると思うので頑張っていきたいと思います。


せっかくなのでちょっと雑談を...

1話で軽く登場したライブステージのイメージなんですけどあれはアイカツのステージを想像してくれたらわかりやすいかなって思います。

中央から光が広がって曲や人によって違うステージが現れます。そんな感じ。


そういえばさらにコメントを2件も頂いてやる気満々です!

コメントしてくれた方本当にありがとうございます。


これからも頑張って執筆していきますのでよろしくお願いしますm(*_ _)m


ブクマ登録、高評価、コメントなどして頂けたらファイト満・々・よ♡(笑)

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[一言] 高校生なの?メンタルよわよわすぎでは 同世代の女の子の前でボロ泣きできるってtntntmtm付いてませんよ 思春期の男の子ですよ見栄っ張りでカッコつけないと
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