美咲と衣装
昔から友達がいませんでした。
いつも背が高いという理由でいじめられてきました。
私は昔からこんなに暗い性格ではなかったと思います。
みんなと仲良くしたくてたくさん話しかけました。
積極的に友達も作りにいきました。
私が話しかけた女の子たちは最初は仲良くしてくれました。
でもクラスの輪ができ始めて男子が混ざってくると頭一つ以上背の高い私を男子がいじり始めました。
乗せられたように私に仲良くしてくれていた女の子たちも私を笑うようになりました。
いつからか私は名前すら呼んで貰えなくなりました。
毎日学校に行けば巨人と言われ背が高い、邪魔、前出るな、うるさい、消えろ、キモイ…。
当然ながら私は不登校になりました。
それでも中学に上がったら変わると思って頑張りました。
でも待っていたのは何も変わらない現実。
中学に上がる頃には私の身長は165cmを超えていて3年生の先輩よりも背が高く、学年を越えていじめは増えました。
先生にも相談しました。
結局先生は小学校の時と同じで何も変えてくれませんでした。
私は再び不登校になっていきました。
私を心配し続ける親に申し訳ない気持ちいっぱいでした。
人付き合いもどんどん苦手になって話すのも苦手になっていって、親と話すことすら苦手になっていきました。
どうせ変わるわけないとわかっていながら高校に上がれば、もしかしたらという淡い期待と親への申し訳なさから勉強は続けました。
高校の入学式、その日は快晴でだいぶ散ってしまった桜が舞ってとてもいい日でした。
でも私の心の中はモヤだらけで今すぐ帰りたくて帰りたくて学校の正門で立ちすくんでいました。
親はずっと近くで心配してくれました。
私が平気になるまでずっと待ってくれました。
でも私はいつまでも動けなくて入学式も始まってしまいました。
親ももう帰る?と私に聞くようになりました。
その時でした。
騒がしいエンジン音とブレーキ音を鳴らして車が正門に突っ込んでいきました。
ものすごいスピードに私もあまりにもびっくりして心臓が止まるかと思いました。
車は正門に入ってすぐに急ブレーキで軽くスリップしながら止まりました。
駐車場ならもっと奥なはずなのでどうしてこんなとこで止まるのか疑問に思っていると一人の女の子が降りてきました。
160cmくらいの慎重にバランスのとれた目鼻立ち、綺麗で細く長い足に形の良い胸、女の子なら誰もが憧れるような美貌を持った人でした。
その人は車から降りると走って私のところにやって来ました。
「あなたこんな所で大丈夫? もうとっくに入学式始まっちゃってるよ?」
私は答えられませんでした。
初対面のその人に言葉が出てこなくて親が平気よ、心配してくれてありがとうねと返してくれました。
遠藤さんと名乗るその人は入学式に向かうことはありませんでした。
何度も何度も、それこそ30分以上その人は話しかけてくれてようやく私は言葉を発せました。
「…………どうして………?」
「そりゃ当たり前でしょ、そんなに辛そうな顔してる人ほっとけないよ。渡辺さんが平気になるまで待ってるから一緒に行こ?」
遠藤さんは途切れ途切れな私の言葉を聞きながら待ってくれました。
私も遠藤さんがこれ以上…もうすっかり遅かったけどいつまでも留めたくなくて教室に向かうことを決心しました。
もうとっくに入学式は終わってしまっていて新入生は各教室に向かっていました。
私は幸いにも遠藤さんと同じクラスでした。
教室に入ると先生は遅れた2人に驚いた顔をしていましたが暖かく迎え入れてくれました。
その後それぞれ自己紹介をしました。
私の番になって全く喋れない私をみんな心配そうに見ていましたが遠藤さんがサポートしてくれて何とか挨拶を済ませました。
一学期を過ごしてだんだん私も話せるようになって行きました。
そのクラスには私の背の高さに何か言う人は1人もいませんでした。
紗良さんとは名前で呼び合えるようになり真由さんと南さんとも仲良くなりました。
私は紗良さんの仕事の手伝いもするようになりました。
夏休み中もその関係で引きこもることなく外に出る機会がありました。
二学期、クラスの男の子が女の子になってしまったとびっくりするニュースがありました。
紗良さんも真由さんもすかさずその子のところに行ったりして私もついて行って楓さんと仲良くなりました。
小中ずっといい思い出のなかった体育祭がそろそろ始まります。
やっと楽しみという気持ちが持てるようになった私でしたがその体育祭は早速引きこもりたい対象になりました。
楓さんは覚悟を決めたみたいで私のことも心配してくれていましたが私は覚悟が決められずにいました。
小中と不登校になって引きこもってる間、唯一の楽しみだったネットサーフィンの途中で出会ったがコスプレでした。
私のように背の高い女の人でも誰かになりきる姿に憧れました。
私も誰かになりきるならこの身長も気にならない気がしました。
けれどいざ目の前にしてみると足がすくむようでとてもできそうにありません。
私などがコスプレしたところで誰も喜びません。
紗良さん達はきっと笑顔で受け入れてくれると思います。
でも他の人にまたいじめられるかもと考えたらとても心の準備ができません。
楓<美咲ちゃん、今度の日曜日空いてるかな?よかったら一緒に行きたいところがあるんだけど…]
楓さんからです。
幸い日曜日は紗良さんの仕事はありません。
空いてますと応えると楓さんは喜んだ様子で集合時間と場所を指定しました。
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「美咲ちゃん! よかったぁ来てくれた!」
私が集合場所に行くと既に到着していた楓さんが手を振って私を呼んでいました。
楓さんはとても可愛らしく着飾っていてほんとに男の子だったのか疑問になるくらい可愛らしい女の子です。
きっと自分で選んでいるのでしょう。
対して私はあまり派手になら無いもので紗良さんが選んでくれたものをそのまま着るだけ。
派手すぎないトップスにスカートは恥ずかしいのでズボンです。
「それで…今日はどちらに行くんですか?」
「えっとね〜、秘密! 着いてからのお楽しみだよ!」
南さんのような物言いで目的地は言ってくれません。
楓さんに手を引かれるまま私は電車に乗りました。
楓さんとは勇気をだしてケーキ屋さんに誘った時からちょっとずつ打ち解けて私の中では普通に喋れるようになりました。
そんなに時間がかからなかったのは不思議です。
私の成長でしょうか。
そんなこんなで電車に揺られること1時間、いつの間にか東京にやってきてしまいました。
楓さんにぐいぐい引っ張られるまま私はひとつのオシャレでモダンなビルに入りました。
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「矢崎さん! 突然お願いしちゃってすみません」
「いいや、構わないよ。そちらの子が噂の美咲さんかな?」
「はい!」
「えっと…楓さん…これは…」
エレベーターを上がって最上階で降りた楓さんと私はシンプルでオシャレな部屋に通されました。
そこには矢崎さんという男性が待っていて楓さんとは親しい様子です。
「僕から説明していいかな?」
そういうと矢崎さんはIKUYAZAKIという名前でデザイナーをやっていることをはなしました。
IKUYAZAKIなら私でも知ってる有名なデザイナーさんです。
どうして楓さんがそんなすごい人と親しいのか少し疑問です。
「それで楓からコスプレ衣装を頼まれたんだ」
「そう…なんですか…?」
「うん、やるなら徹底的にやりたいから! 矢崎さんにお願いしたら間違いないんだよ〜」
得意げに胸を張る楓さんが眩しく見えます。
でも楓さんのコスプレ衣装を作るのにどうして私は呼ばれたのでしょう。
「そういうわけだから楓のデータはあるんだけど美咲さんは採寸からやらないといけないからね。ここからは下の階に移動しようか」
「え…私ですか…」
何故楓さんのコスプレ衣装なのに私の採寸が必要なのでしょうか。
「うん、だって美咲ちゃんの衣装も矢崎さんが作るんだから!」
「…きいて…ません…」
「楓言わなかったの? 南のこと責められないね」
矢崎さんは南さんのとこも知っているようで楓さんが私に説明しなかったことを苦笑しています。
「だって言ったら美咲ちゃん来ないと思ったから…」
「うーん、そうみたいだね…美咲さん、もし良かったら僕に任せてくれないかな?」
「美咲ちゃん、美咲ちゃんもコスプレは興味あるって言ってたよね…だからせっかくならと思って…何も言わずにごめんね…」
楓さんなりの優しさに私は胸が熱くなりました。
昔の私なら飛んで跳ねて喜んだかもしれません。
実際少し期待してわくわくしている私もいます。
けれどやはり私なんかがそんなすごい人の衣装まで着てコスプレしていいわけがありません。
「美咲ちゃん…また私なんかって思ってない…?」
「…はぃ…」
楓さんには全てお見通しです。
矢崎さんも顎に手を当ててうーんと唸っています。
やはり私なんかダメなんだと思います。
「美咲さんは自分の身長が嫌いなんだね?」
「…はい」
「確かに背が高いのはコンプレックスになりやすい。けれど見方を変えればコンプレックスも魅力だ。こんなの綺麗事で君も嫌という程言われてきたと思う。けれどもし変われるきっかけがあるとするならコスプレはきっかけになるかもしれないよ」
矢崎さんの慰めは嬉しいですが私は好きにはなれそうにありません。
「人はそれぞれ忘れられないし変えられない過去の出来後がある。重さは人それぞれだけどね」
「…」
「突然の話で困惑しているだろうから心を決めたら言ってくれ。なんだったら後日来てくれるのでも構わない。前日までに来てくれれば次の日には完成させて渡せるようにするよ。誰も無理強いはしない、だから自分の意思で決めてくれ」
前日に採寸して間に合うというのはちょっと信じられません。
正直言って矢崎さんの言うことは矢崎さんの言う通り綺麗事です。
今までも同じような綺麗事を並べる人は沢山いました。
みんなその言葉を信じて疑わず私に押付けます。
きっかけも転機もなく同じ環境に居続ける私は聞いても苦しいだけなのに。
でも不思議と今はこの人の言葉に乗ってみるのも悪くないと思えました。
なぜそう思ったかわかりません。
楓さんがいてくれたからでしょうか。
きっと楓さんも女の子になったことを乗り越えて今ここにいるはずです。
楓さんみたいに乗り越えないといつまでも変われないしいつか紗良さんが離れてしまうかもしれません。
なら今はこの言葉に騙されて前を向く努力をしてみるのも悪くないかもしれません。
幸い今の私には昔と違って友達と思える素晴らしい人達がいますから。
「…採寸…お願いします」
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「やぁ美咲さん、今日は楓と一緒じゃなかったけど大丈夫だった?」
「はい…入るのに時間かかっちゃいましたけど…」
「でも来てくれて嬉しいよ、衣装は完成してる。あとは実際に着てもらってチェックしたい」
「わかりました…!」
矢崎さんから衣装が出来たと声がかかったのは採寸をした日の2日後でした。
2度目となれば楓さんがいなくても少しは話しやすくなりました。
楓さんの分も含めて完成したらしいです…ほんとに前日でも間に合うのかもと思ってしまいました。
今日は平日なので学校帰りに制服のままです。
楓さんはチアの集まりと練習があって来れないそうで私ひとりでここまで来ました。
私も本当は実行委員の仕事があったんですがこれも体育祭の準備だと瀬名さんが行ってこいと言ってくれました。
「さあ、これだよ」
矢崎さんに案内されて入った部屋にふたつのショーケースが並んでいました。
中にマネキンが出来上がった衣装をつけています。
ひとつは私のために用意された衣装、もうひとつは楓さんの衣装です。
「そちらは…楓さんのですよね?」
「うん、ちょっと時間かかりすぎちゃったんだ」
「そう…ですか? 凄いです…とても綺麗…」
「ありがとう。こっちが美咲さんの衣装、今出すからちょっと待ってね」
そう言って矢崎さんは私の衣装のショーケースを開いて中のマネキンを外に出しました。
出来上がった衣装を見て私はちょっと後悔しました。
もちろん完成度は素晴らしいし…というかすごすぎて私が着ていいのか心配になるレベルです。
問題は…あの日楓さんにも盛り上げられて気持ちの高まった私は何を考えたか…その…かなり露出の多いキャラクターを選びました。
私が初めてコスプレを見たキャラクターで気になって元のゲームも全部遊んだキャラクターです。
矢崎さんもほんとに大丈夫?と心配してくれていましたがあの日の私は押し切ってしまいました…。
今からあの日の私を止めに行きたいです…。
「じゃあチェックするから一回着てもらっていいかな。向こうでアシスタントが待ってるから手伝ってもらって」
「はい…」
私は本当にこの衣装で全校生徒の前に出れるのでしょうか…。
オウっ、シリアスっ!
美咲視点の話で地の文まで全部敬語という書き方してたら読んでて面白いとは思えない...感じになったかもしれない...美咲大好きな私だからこうなった...というわけで読みにくい内容ですみません...。
美咲の衣装はまあのちのち出てきます...この性格の美咲がほんとにみんなの前であんな衣装を着れるかは私がいちばん疑問です...。
いずれ分かります...。
この章のもう1人の主人公が美咲なので次も美咲視点の話もあると思います。
それでは今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!!
ブクマ登録、高評価、コメントなどしてくれると嬉しいです!!
...美咲に対して矢崎さんが言った言葉を本当に考え続けてて...背が高い人のコンプレックスに対して綺麗事並べても傷つけるのはわかってるのですが...難しいですね。
ここは少し書き直すかもしれません
(あ...2章まとめ忘れてる...頑張って書きます...)