緊張の新学期...!!
「き、緊張してきた…」
「もぅ、いい加減入らないと遅刻になっちゃうんだけど…」
「楓、あんまり最後に入るとかえって注目されると思う」
「はっ…!」
しまったぁ…。
そうだよ…みんな揃ってから最後に入ってくる子なんてめちゃめちゃ注目されちゃうじゃんか!!
長いようで短い夏休みを終えて迎えた新学期、学校近くの路地でかれこれ30分は固まっている僕達…いや、二人は僕に付き合ってくれてるだけ…。
僕が心を決めたら二人とも早く学校行けたのに…ごめん!
「でも…でもぉ…」
「じゃあやっぱり今から帰って着替えてくる?」
「今からだと少し遅刻するけど仕方ない付き合うよ」
そう、僕がこんな所で動けなくなっている原因はひとつ…。
つい一ヶ月ちょっと前まで、男の子として16年間生きてきた僕は夏休み明けの晴れやかなデビュー…ではなく女の子に変身して登校することになっているのだ。
学校側は僕の意志次第でこれまで同様男の子として生きることもサポートしてくれると言ってくれた。
でも前に進むなら女の子として生きていかないと…涼くんや南、絢斗、みんなが味方になってくれてやっと決心したはいいけど…。
「うぅ…スカート短いよぉ…」
「うち短いからねぇ…」
「似合ってるから大丈夫だぞ」
「だけど…だけどぉ…なんて言われるかな…大丈夫かな…」
そりゃ一学期まで男の子だったやつが突然女子制服着て登校してきたらびっくりされるのはわかってるよ?
でももしかしたら気持ち悪いって言われちゃうかもだしいじめられるかもだし…。
「うぅ…うぅ…」
「なあ南…」
「うん…楓ごめんね」
「悪く思うな」
二人はそう言うと僕の両脇をがっちりホールド。
そのまま半分引きずるように通学路に出ていく。
「えぇぇぇぇ…待ってぇぇぇぇぇぇぇ」
抵抗虚しく登校時間5分前の学校の門を引きずられながらくぐるのだった。
ーーーーーーーー
「お、来たか夢川」
「はい…ご迷惑おかけしますぅ…」
親友だと思ってた2人に裏切られて無理やり職員室まで連れてこられた僕は半分涙目で先生と対面した。
先生は変わらずクールな印象で一学期の頃と扱いの差を感じない。
清水一葉先生、僕の担任で担当教科は体育を教えている。
基本的にクールで怖い印象を受けやすいが話してみるとすごく優しくて話すことに対して少し不器用な感じがして可愛いところがあると思う。
聞いた話によると小さい頃から剣道をやってたらしくてすっごい強いんだとか…。
「いや、迷惑ではない。一番大変なのは夢川だろう。私は担任としてサポートさせてもらう。何かあればすぐ言え」
「はい…ありがとうございます」
「そろそろHR行かなきゃいけないんだが夢川は平気か? ここで待つなら待っていてもいいが…」
「いえ…大丈夫です行けます」
もう決めたことだもんね、今逃げたってどうせ後でわかる事だしちゃんと今すぐみんなと会わないと…さっきは裏切られたとか言っちゃったけど引き返せないように背中叩いてくれてありがとうね絢斗、南!
ちなみに本当ならHRの前に始業式で校長の長〜い話を聞くはずだったんだけど清水先生と二人職員室で話していたので始業式は出席しなかった。
僕は事情ありでHRからの参加だ。
校長の長〜くありがた〜いお話をパスできたのはちょっとラッキーかな?
「強いんだな…夢川は」
「そうですか…?」
「ああ、受け入れて前を向けるのはすごいことだよ」
「えへへ、ありがとうございます」
「ニヤけてるぞ」
「そんなことないですっ!」
職員室を出てから僕の教室までは少し距離がある。
校舎を2つ移動して4階まで登らないといけないのだ。
職員室のある校舎と教室のある校舎の間に挟まれた校舎を歩いている時に清水先生が振り返る。
「そうだ、夢川に手紙が届いていた。矢崎郁からなんだが…」
「矢崎さんからですか?」
「矢崎郁から手紙が届く理由は聞かせてもらいたいが、まあそれはいいとして…夢川が登校したらこれを渡すように伝言も預かっていてな。確認してくれ」
「はい…(?)」
なんだろう…?
僕は清水先生から一通の便箋を受け取って送り主を確認する。
封筒はIKUYAZAKIブランドのものではなく矢崎さんが個人的に選んだもののようで送り主のところには矢崎郁と書いてある。
そっと破かないように気をつけながら開けて中のものを取り出す。
中身は紙が2枚、1枚は矢崎さんの手書きの手紙、もう1枚はQRコードだけが印刷された紙。
「なんだこれ」
「QRコードと手紙みたいです」
「まあいい、手紙を早く読んでくれ。私は見ないようにしておく」
「ありがとうございます」
楓へ
楓が女の子になってちゃんと学校にいけるか少し心配でね。
この手紙を読んでいるってことはちゃんと行けたみたいで安心したよ。
無事乗り越えられたみたいでよかった。
同封したQRコードを読み込んでごらん、空と僕からのプレゼントだよ
郁
矢崎さんもお姉ちゃんも心配してくれてたんだ…。
大丈夫です矢崎さん、ちゃんと頑張ります!
僕はすぐにIvirtualを起動して同封してあったQRコードを読み取る。
読み取るとすぐに僕のキャラデータが立ち上がって甘夢かえでの3Dモデルが表示された。
左側には表情パターンや衣装、ポーズなどを選択できる欄が表示されているのだが衣装の所にnewと表示されていた。
服は細かく1枚ずつ着脱出来て下着まで選択できるように作ってもらっている。
衣装欄を開くといくつか服が増えていた。
「これって…」
衣装一覧にはこの前お姉ちゃんと買った2種類の水着が増えていた。
それともうひとつ。
「制服だ…」
僕が今着ている制服と同じくらい短くて可愛らしいスカートにブレザー、セーラー、セーター、夏シャツに長袖のシャツ、いくつか種類も用意されて制服が並んでいる。
そっか…お姉ちゃんも矢崎さんも僕にサプライズで用意してくれてたんだ…後でちゃんとお礼しないと!
「おーい夢川、まだか?」
「あ、ごめんなさい確認しました!」
「なんだったんだ?」
「僕がちゃんと登校できて安心したって感じです」
「そうか…?」
先生はなんで矢崎郁から?と頭にはてなを浮かべてたけどまあいいかと納得してくれたみたいで再び教室に向けて歩き出した。
矢崎からのサプライズはあったものの僕と清水先生はあっという間に教室の前に辿り着いた…辿り着いてしまった。
「大丈夫か、夢川。震えてるが」
「だ、大丈夫です…やっぱり緊張しちゃって…」
「大丈夫だ、私は夢川の味方だから。じゃあ先に私が入って事情を一通り説明する。呼んだら入ってきてくれ。」
「は、はい!」
そう言って清水先生が教室の中に入っていった。
教壇に立つと教室の騒がしい空気感も落ち着いて先生が何かを話し始めた。
廊下に一人残された僕は誰もいない廊下を見て自分の姿を見る。
夏服の薄手の白いシャツに紺色の短いスカート、膝上15cmって言うのかな…?
僕が持ってる服のどれより短いと思う…。
学校指定の黒の靴下、上履き。
首元のリボン、男子の時はネクタイだったけど女子はリボンに変わっている。
学校指定のシャツは私服より胸の膨らみがわかりやすくて、大きくはないけど程よい大きさの形のいい胸が出ている。
男の子だった時は髪が邪魔で結んだりしてたけど今日は何もしていない。
サラサラな髪を自由にさせていて背中まで伸びている。
「というわけでまあ、私も最初は困惑したしお前たちもびっくりするだろうが夢川は女の子になった。今まで通り関わりにくくなる人が出るのも仕方ないと思ってはいるが、いじめたりしたら容赦しない。それはわかっていて欲しい。まあ変わらず仲良くしてくれたら一番嬉しい。夢川、入れ」
「はい!」
清水先生から呼ばれて僕は教室のドアを開けて中に入った。
教室に入ると先生の話にどういうことー?とか元々女の子っぽかったよね〜とか、は?みたいになっていた人達がいっせいに静かになる。
教壇の清水先生の隣まで歩いていってみんなの方に向く。
「夢川楓です。先生の言う通り女の子になりました。これからも仲良くしてくれたら嬉しいです」
しばらくの沈黙。
そしてヒソヒソ隣の子や前後の子と小声で会話しだすクラスメイトたち。
そっか…やっぱりみんな嫌だよね…。
南と絢斗はよく頑張ったと言った顔でこっちを見てくれている。
「まあ、みんな驚くところではあると思うが、とりあえず今日の連絡を先にしてから時間を作る。夢川も一旦席につこう」
「はい…」
その後は誰も僕に話しかけることなく新学期の連絡が行われた。
今日は授業がないから一学期の成績表を返却してしばらく意味もない時間を過ごして3限で帰れるようになる。
清水先生は時間をとってくれると言っていたからその時間に少しでもみんなと話せるといいな…。
ーーーーーーーー
「「「夢川くん!!!!」」」
先生の話が終わると静かなままの教室で2人の女子生徒が僕の机に集まってきた。
遠藤紗良さんと鈴木真由さん。
「えっと…」
2人が集まってくるとどんどん他の生徒も集まってきて僕の机の周りが人だらけになる。
「夢川くん…ううん、楓ちゃんって呼ばせてもらうね! 楓ちゃんは本当に男の子だったの!?」
「えっ!?」
「ほんとは最初から女の子だったんじゃないの?」
「俺もそれ思った〜」
「男装女子とかご褒美…」
「えっと…男の子だったのは本当で…僕も全然わかってないの…でも本当に元は男の子でいまは女の子で…」
そう言うと信じられないとばかりに口々に話し出すクラスメイトたち。
案外嫌がられてないのかな…大丈夫かな…。
「でもこの際どっちでもいいわ」
「うん、どっちでもいい!」
「楓ちゃん!!!!」
「はっ、はいっ!」
「怖がらなくていいからね」
「あたしたち怖い人じゃないからね?」
「うんうん、だからちょっと触ってもいいかな?」
「えっ…」
僕が何かを答える前に僕の頭や腕、足を触り始める女子2人...くすぐったい…。
周りの女子も男子もゴクリと唾を飲んでるんだけど…怖いよ!?
「く、くすぐったいよ…?」
「これは」
「認めるしかないね」
「楓ちゃん」
「は、はい…?」
「「可愛いっ!!! 最高!!!!」」
「へっ?」
「楓ちゃん怖がってたでしょ」
「そんなことないからね?」
「あたし達は楓ちゃんの味方」
「辛いと思うけど頼ってくれていいからね!」
「うんうん、そしたらまた触らせてもらおうかな?」
「あ、私も私も!」
後ろの生徒たちもうんうんと同意してくれている。
そっか…みんな…。
「みんな…ありがと!」
「「「「「「「っ…」」」」」」」
「これは…」
「やばいわ」
「なんて可愛いの…」
僕が笑顔でありがとうと伝えるとみんなが息を飲んだ…なんで?
そう思っていると絢斗と南が割って入ってきた。
「ね、楓が心配するような事はなかったでしょ?」
「うん…嬉しい…」
「ねえ南、南はこのこと知ってたのね!?」
「なんで教えてくれなかったの!?」
「ちょっと南はこっち来ようね。話、聞かせてもらうから」
「ええ〜〜」
そうして南は引きずられるように教室のすみに連れていかれた…大丈夫かな?
「絢斗もこのこと知ってたのか?」
「ほんと、教えてくれりゃいいのに」
「いや、俺から言うことでも…」
「「聞かせてもらおう」」
絢斗も連れてかれた…。
そのあともたくさん色々聞かれたり頼ってくれていいからねとか今度ご飯一緒に食べようねとかみんなとっても優しかった。
僕が心配して疑っちゃって…みんなこんな優しいのに…これからの学校生活楽しみだな…!!
ーーーーーーーー
楓が教室で囲まれている頃、集まらなかった男子が2名…。
「拙者、楓殿に惚れてしまったでござる」
「なんと、田中殿もでござるか。拙者もでござる」
「斎藤殿もでござるか! これからは楓殿を想う同士ござるな!」
「そうでござるな! 楓殿は拙者が守るでござる!」
2章まとめは出来次第割り込み投稿します!
新学期が始まりました!
読み返すともっといい反応はなかったかどうだったかと考えてしまう訳ではありますが最初に書いた自分を信じたらぁぁぁぁい!!!!
もっとクラスメイトにがっつかれるのとかも考えたりはしたんですけど尺の問題もあったので...もしかしたら少し直すかもしれません!
次回は早速クラスメイトに振り回されると予告しておきます!
もしかしたら今日中にもう一話あげるかもしれないですがちょっと未定です!
それでは今回も最後まで読んでくれてありがとうございました!
ブクマ登録、高評価、コメントなどお待ちしてます!!
あ、言い忘れてたんですけどコメントにかえでへのマシュマロや質問箱など送ってくれたらかえでが返します!(日常の配信ネタがないんです...提供よろしくお願いします...笑)
そしてまたまた忘れてました追記...
誰だ最後の濃いぃやつらは!?!?!?!?!?!?




