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レコーディング!/ 完成したアバター

 


 矢崎さんを追いかけて入ったレコーディングスタジオには既に10人ほどのスタッフが各々の機材を準備しながら待っていた。


「うわぁ…すごい…」


 僕がびっくりして自然と口から漏れたつぶやきにスタジオ内のスタッフが気づいたようでいっせいにこちらに振り返り「おはようございます、よろしくお願いしまーす」と次々に声がかかる。


 アーティストがレコーディングするときの規模はわからないけれど僕の今までの人生からしたら想像できない光景にしばらく固まってしまったけれど、不思議そうに見つめるスタッフの顔が写って挨拶を返さなきゃと思い出す。


「お、おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」


 元気いいね〜なんて声も聞こえてくる…やりすぎちゃったかな…でも挨拶はきちんとしないとだよね!


 スタッフの一人、長めの黒髪の男性がこちらに近づいてくると、今まで僕の後ろに立っていた矢崎さんが前に出た。


「葵、今日はよろしく頼むね」


「ああ…任せてくれ」


「楓、この人は僕の友達の椎名(しいな) (あおい)と言うんだ。今回はキャラソンの収録、編集を見てもらう。葵、こちらが夢川楓さん、今日の主役だよ」


 僕の元にやってきた男性は椎名葵さんというそうだ。


 椎名さんは先程から少しも表情を変えない、矢崎さんに紹介されて椎名さんと私はお互いの方を見る。


「よろしくお願いします! 夢川楓です!」


「よろしくたのむ…」


 椎名さんはまるで関心がないように僕を無視して矢崎さんに向き直る。


 矢崎さんがちょっと天然っぽいどこか抜けた所がある感じなら、椎名さんは全く感情を前に出さなくて何考えてるかわからない感じの人…ちょっと怖くて苦手かも…。


「じゃあ楓、始まるまで僕は向こうで待ってるから、葵から色々教えて貰ってね。まあ葵と話すのは少し苦労するかもしれないけど」


「わかりました」


 椎名葵さん…ちょっと覇気がなくて大丈夫かなという印象を受けるけど矢崎さんが選んだ人ってことはきっといい人なんだと思う…覇気がなくてなんかこう…すごくだるそうな感じがするけど平気だよね…?


 矢崎さんと別れた僕と椎名さんはレコーディング用のマイクのある個室まで来た。


「夢川楓…今日の手順は聞いてるか?」


「あ、はい。でも初めてなのでわからないことだらけで…」


「そうか…簡単に説明すると…」


「説明すると…?」


「歌えばいい…」


 ずこー! それ説明になってないですから!

 矢崎さんが言ってたことってこういうことかな…?


 まあ確かに会話になってない気もするけど…。


 僕が心の中でずっこけている間も隣で表情ひとつ変えずにこちらを見てくる椎名さん。


 僕も何を言えばいいのかわからなくなって黙ったまま見つめ合う二人…別に他意は無いから何も話さず向き合っている今の時間が気まずく感じる。


「椎名さん、こっちは準備出来ました。いつでも始められますけどどうしますか?」


 気まずい沈黙を破ってくれたのは、先程まで機材の準備を行っていた女性スタッフだった。


 椎名さんが僕から目を離してスタッフの方を向いて口を開く。


「そうか…よし、始めようか」


 あれ、気の所為かもしれないけど椎名さんの表情が少し変わった気がする。


 少しだけ目付きが変わったような…。


「楓ちゃんも大丈夫ですか?」


「あ、はい! いつでも始められます!」


「夢川楓、テストも兼ねてとりあえず一回歌ってもらう。すぐに準備しろ」


「は、はい!」


 椎名さんに感じた変化は間違いじゃなかった。


 先程までよりもしっかりとした言葉を並べる椎名さんは僕を促す。


 僕がマイクスタンドの前に立つとスタジオ内の空気も少し変わった気がする。


 スタッフ全員がマイクの前に立つ僕に目線を集中させている。


 椎名さんはテストと言ったけれどスタジオ内の空気からはテストでもリハーサルでも準備でもないとわかる。


 レコーディングはもう始まっている…テストからみんな全力だ。


「ふぅ…よろしくお願いします」


 大きくひとつ息を吐いてスタッフ全員の顔を見てからお辞儀する僕、スタッフは無言で頷く人もいればこちらを見続けている人もいる。


「よし、始めろ」


「曲流します」


 僕のつけたヘッドセットから矢崎さんが作曲してくれた曲が流れ始める。


 空さんに見てもらいながら書いた歌詞はおかしくなかったかな…。


 矢崎さんが書いてくれた曲は甘夢かえでのイメージにぴったりな可愛くて明るい曲。


 友達や空さん以外の人前で歌うのは初めてで心臓がバクバクなり始める。


 自分にはずっと大丈夫と言い聞かせてはいたけれど、いざ歌うとなるとやはり緊張に心臓を押しつぶされそうになる。


 だけどもう歌うところまで曲は流れてきて…僕はすぅと小さく息を吸って目を瞑る。


「〜〜 ♪ 」


 空さんに鍛えられて僕の歌も少しは上手くなったと思う。


 元々女の子らしく高かった声は、性別が変わってもそこまで変化はなかった。


 歌詞に込めた想いを胸に、ひとつひとつ丁寧に言葉を紡いでいく。


 その後も何度か繰り返し歌ってレコーディングは終了した。


 あとは一番良かった部分を切り取って繋げて編集するらしい。


 選ぶところまでは一緒に立ち会っていたのだが時間がだいぶ遅くなってしまったので残りの編集は椎名さんがやってくれるそうだ。


 僕はレコーディングを見学していた南と合流して早めに上がることになった。





 ーーーーーーー





 ー郁sideー


 楓と南が帰ったあとのスタジオに何人かのスタッフと葵が残っていた。


 俺と葵の前に置かれたパソコンでは、収録した楓の歌の編集を葵主導で行っている。


 葵は少し変わっている。


 葵は滅多に気持ちを高ぶらせることがない。


 収録や自身が関わる仕事になれば無感情な普段の彼も少しはやる気になるのだが、歌手を帰してしまえばまたいつもの彼に戻る。


 ましてやここまで目を輝かせる彼を見たのはいつぶりだろうか。


「郁、あの子は大物になる」


「おや、そう思うかい?」


「俺はこれまで何人も見てきたけど、ここまで俺が興味を持ったのはは夢川楓が初めてだ」


 パソコンの画面を見つめる葵の目は昔の少年時代のように輝いている。


(本当に珍しいね)


 葵は間違いなく天才だ、僕なんて足元にも及ばないといつも思うくらいに才能に溢れている。


 彼は人の魅力を引き出すことに長けている。


 葵が手がけた歌手もモデルも雑誌もみな成功した。


「あの子は郁のところでVtuberになるのだろう? 俺がプロデュースしたい」


「それは楓次第じゃないかな?」


「なら夢川楓に伝えといてほしい」


「自分で伝えればいいじゃないか」


「俺は郁以外とちゃんと話せる気がしない」


「自信満々で言ってもかっこよくないからね? まあいいさ、楓には伝えとくよ」


 何故か自信げに言う友人にやれやれと思いながら僕はため息をついた。


 葵が僕以外と話すことも関わることも苦手なのはよく知っている、こういうのも割といつもの事なのだ。


「あぁ、あと夢川楓をーーーー。これも伝えといてほしい」


「いきなりだね。だけど、それは自分で言ってくれるかな、管轄外だからね」


「仕方ない、木村に連絡させとくか」


 葵には悪いけどそういうのはちゃんと自分で連絡した方がいいと思う。


 まあ関係したスタッフなら問題もないだろう。


 とりあえず僕はプロデューサーの件は伝えとかないとね。


 それにしても葵がここまで興味を持つのは本当に珍しいと思いながら僕は楓のPINEにメッセージを入れたのだった。




 ーーーーーーー




 翌日、矢崎さんから完成した甘夢かえでのデータが全て送られてきた。


 早速お父さんが買ってくれた機材の準備をしてアバターを動かす準備をする。


 モーションキャプチャに必要な機材を身につけていく。


(これ、調べる限り一番いいやつ…)


 モーションキャプチャに必要な機材だけで合わせて数百万に登りそうな代物に圧倒されるのは仕方ないと思う。


 全部付け終わったらパソコンを起動して甘夢かえで用に矢崎さんから送られてきたソフトを呼び出す。


 このソフトも矢崎さんお手製らしい…なんでも今回の甘夢かえでのために作ってくれたらしい。


 ちなみに今のパソコンに画面は存在しない、大型の本体は存在するものの画面は空中にホログラム画面を出せる。


 IvirtualはAR技術を利用して目に投影することで画面を見せるが、こちらは空中に映し出す。


 キーボードも机の上に映し出したりどこにでも出せるようになったが、僕は好んでキーボードを利用していた。


(とりあえず出してみようかな…!)


 早速、甘夢かえでのアバターを呼び出して自分の動きと同期させる。


 いくつか設定を終わらせて僕のIvirtualがかえでアバターを部屋の中に出現させる。


「すごい…」


 僕はそこで初めて完成品のアバターを目にしたわけで、前に見たのは矢崎さんが未完成だと言っていたもの。


 その時はこれで未完成なことに驚くほどのクオリティだと思っていたが、確かにこの完成した姿を見てしまうと矢崎さんが前のものを未完成と言っていたことも理解出来る。


 思わず声が漏れてしまうほど、完成した甘夢かえではよくできていた。


 水野くんには悪いけど雷雲ザックや前にイベントに出ていた天上きさき、雪姫吹雪のアバターより遥かに完成度が高い。


 言ってしまえば未完成の甘夢かえでアバターが三人のアバターと同じくらいの完成度なのだ。


 企業勢が全力で制作するアバターを遥かに上回る完成度の甘夢かえでを前にして、僕は改めてIKU YAZAKIの凄さを思い知らされた。


(動きも自然…)


 しっかりしたアバターやソフトとそうでないものでは出来不出来に天と地ほどの差がある訳だが、髪の毛や服などが不自然な動きをしたりめり込んでしまうことは、後者はもちろん、前者でも起こることはある。


 それは仕方ないことで3Dアバターのひとつの課題とも言えると思う。


 でもこの甘夢かえでは軽く動いてみた限りものすごく自然、頭を振り回してみてもジャンプしてみても全く不自然なことにならなければめり込むことも無い。


(矢崎さんってほんとに何者なんだろう…)


 一通り動作確認をして大体の動きを録画した簡単な動画と一緒に、矢崎さんに報告すると安堵した様子の答えが帰ってきた。


 あの人のことだから何か問題があるかもなんて本気で心配することもないだろうけど…。


 一応、空さんにも同じ動画を送ると想像以上の完成度だったらしくびっくりしていたと同時に、矢崎さんがまたひとつ壁を越えたと喜んでいた。


(ここからは僕が頑張る番…初配信に向けて準備するぞ!)


 矢崎さんと空さんと相談して配信は一週間後に予定している。


 それまでに自己紹介動画の撮影と編集、ぱいなったーなどで宣伝を行う必要がある。


 矢崎さんの方でも甘夢かえでの特設ページを作ってくれるようで自己紹介動画は早めに撮るように言われている。


(あ、そういえば椎名さんがプロデューサーをするって言い張ってると矢崎さんから聞いたんだった…)


 僕としてもすごく意外だった。


 なんでも椎名さんが僕のことを気に入ってくれたらしく甘夢かえでのプロデュースを手がけたいと言ってきたらしい。


 僕としてもプロの意見は聞きたいしお願いしますという旨をすぐに伝えた。


 動画編集や配信のための動画、サムネイルなどは椎名さんの方で準備してくれるそうだ。


 けれど全部任せっきりというのも申し訳ないし、自分でも少しはやってみたいという気持ちもあったのでちょっとずつ教わりながら自分でもやることになった。


「よーし! まずは自己紹介頑張るぞー! おー!」


 うーん…部屋で一人ちょっと恥ずかしかったな…。


昨日は投稿できずごめんなさいでした。


さて、レコーディングは経験したことも見たこともないのでここ違う!ってことがあるかもしれませんが何とか書きました。

歌の歌詞とかもこんな感じかな〜なんて考えたりもしましたが流石に書きませんでした。

それから予定になかった椎名 葵の登場です。

また矢崎さん、空さん同様やべぇすげぇとんでもねぇの人です。笑


さて、次回はいよいよ活動準備を終えて活動を始めます。

ちょっと今時間に押されているので後書きは短くこの辺で終わります!笑


ブクマ登録、高評価、コメントなどどしどし送ってくれたら楓が沢山喜びます!

今回も最後まで読んでくださりありがとうございました!


追記:10部目へ割り込み投稿にするのを忘れたので投稿し直しました(並び替え方法がわからなかった...しっかり調べときます!)

週間ランキング57位になってました!いつもありがとうございます!

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