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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第19話 超人

 片翼で片角の双子竜人、エリザとエルザは居なくなった。

 そこにいるのは、しっかり1対の翼と1対の角を持った、エリザ・エルザと同じ見た目の竜人が一人。

 その竜人は、7眼のフローティングアイの方を見て、ギザギザの牙が生えそろう口を、三日月のように広げ、笑う。


「ああ、おいしそう。」

 

 その声と共に、竜人は、7眼のフローティングアイに襲い掛かった。

 竜人は、数十mしかない短い距離で、一瞬にして加速。

 ベイパーコーンを纏いながら、7眼のフローティングアイに突撃する。


 7眼のフローティングアイも流石で、咄嗟に10枚近い障壁を展開し、突撃を防ぎにかかる。

 その障壁は、しかし、竜人を止めることは叶わなかった。

 障壁は、竜人の突撃に耐えきれず、次々に割れていく。

 障壁を割りながらも、竜人は一切減速しない。

 5枚目まで割れたとき、7眼のフローティングアイは防ぎきれないと悟ったようで、7つの眼球から光線を放つ。

 その光線は、さらに3枚割れ、残り2枚になっていた障壁を貫き、竜人に襲い掛かる。

 竜人は、盾を正面に構え、その光線を受け止める。

 光線で竜人は減速したものの、止まりそうにはない。

 そこへ、周囲の6眼から、無数の魔力弾が竜人に向けて放たれる。

 流石に危険だと感じたのか、竜人は、光線を正面で受けることをやめ、身を翻し、光弾を躱す。

 そして、放たれ続ける光弾を躱しながら1体の六眼へ肉薄し、手に持ったランスで突きを放つ。

 一瞬で6発放たれた突きは、6つの眼球全てに大穴を開けた。

 突きを受けた6眼のフローティングアイは、力を失って崩れ落ちる。


 ここまで、竜人が突撃を始めてから、およそ1秒。

 超高速の戦いだ。


 今のうちに、怪我人の収容と、治療を行わなければいけない。

「撤退!」

 叫ぶ。

 俺の声で、散開していたメンバーが、各々、安全地帯へ向けて撤退を始める。

 撤退先は、先に隠すように停めておいた装甲車だ。

 周囲の3眼と4眼のフローティングアイは、突如始まったド派手な戦闘に完全に怖気づき、戦場から逃げ出している。

 

 爆音と閃光の中を、急いで撤退する。

 エリザとエルザが合体した竜人は、こちらへの被害は防いでくれているようで、戦闘の余波は飛んでこない。

 その分攻めあぐねているようで、戦況は拮抗しているようだ。

 

 竜人による援護のお陰で、無事に装甲車まで撤退できた。

「エミーリア、作太郎、治療を頼む。」

 俺は二人に言う。

 すると、エミーリアがすぐに5人ほどに増え、治療を始める。

 作太郎の治療の手際もよい。

 これで治療の人手は足りる。


 俺は、撤退先から再び戦場に戻る。

 

 俺に気が付いた竜人が、目線を送ってくる。

 その目線に対し、撤退完了のサインを送る。

 


 すると、竜人の雰囲気が、変わった。

 元々うっすらと笑みを浮かべていたが、その笑みがみるみる深くなっていく。

 目は一切笑っていないが、その口は、大きな裂け目のようになり、壮絶な笑みになった。


 そして、竜人は、宣言した。


「開放、50。」


 その瞬間、竜人の周囲に、濃密な力の奔流が溢れ出す。

 開放。

 俺も使う、体内にしまい込んだ力の放出である。


*****


 俺を含め、一部の非常に力が強い者達は、力が強くなるに従い、問題を抱え始める。

 日常生活が不便になっていくのだ。

 コップを普通に持ったはずが握りつぶし。

 寝返りで壁にぶつかれば、壁が崩落し。

 人の肩に手を置けば、相手の骨が砕ける。

 強くなりすぎた力は、日常生活を困難なモノにするのだ。

 そこで、日常生活に影響が出るほどの力を得た者達は、力を分け、封印するのである。

 その封印を解き、戦闘に備えるのが、開放。

 青鉄クラスの旅客たちならば、数段階程度の開放や、もしくはそれに類似する技術を持っていることが多い。

 例えば、ヴァシリーサは開放は使わないものの、力の強弱をつけられる術式を持っており、日常生活に支障が出ないようにしている。


 エリザとエルザは、個人での強さでも、青鉄では上位である。

 二人別々の時点でも、10段階もの開放ストックを持っており、超人といえる強さではある。

 しかし、合体し、一つになった時、その力は跳ね上がり、100段階を超える開放ストックを持つ、強力な超人と化すのだ。


 50まで力を解き放ったエリザとエルザが合体した竜人から、溢れ出したエネルギーが立ち昇っている。

 最大開放ではないものの、その力は凄まじい。

 エリザとエルザは、この合体した時の強さにより、この星の戦略超人の末席に名を連ねる、最高峰の戦士なのだ。

 

 超人は、軍事的には2段階に分けられ考えられる。

 一つは、戦術に影響を与えるレベルの戦術超人。

 戦車や戦闘機などの大型兵器と同列に扱われることもある強大な力を持つ者達だ。

 各国の軍にそれなりの数が所属しており、戦場においては戦術超人の動向が勝敗を分けることもある。


 そして、存在自体が戦略兵器級の戦略超人。

 その存在は、地球における第2次世界大戦前の戦艦や冷戦期前後の核兵器に相当する扱いになり、各国が獲得に躍起になっている。

 そういった状況では、戦略超人による独裁が行われる危険があると感じるだろう。

 しかし、過去、戦略超人による独裁が成功した事例は少ない。

 戦略超人も、戦闘能力以外は普通の生物であるため、多くは社会に属さなければQOLが確保されないうえに、強いからといって統治能力に優れるわけでもない。

 国家と戦略超人は持ちつ持たれつの関係になっているのだ。


 エリザとエルザは、そんな戦略超人の一人である。

 エリザとエルザが合体した竜人は、非常に強力だ。

 ここまで強いのならば、最初から一つになればよかったかと思うかもしれない。

 しかし、一つになったエリザとエルザは、燃費が非常に悪い。

 そのため、いざという時にしか、その姿を見せないのである。

 今回も、そのまま7眼を討伐しきれるならば、それが一番だった。

 しかし、どうにも戦況が悪いので、エルザとエルザは、本気を出したのである。


*****


 溢れ出る力に、周囲の6眼のフローティングアイが、狼狽している。

 圧倒的な力の差に、勝ち目がないことを悟っているのだ。


 一方、未だ戦意を失わないのが、7眼のフローティングアイである。

「面白い。面白いではないか。」

 7眼のフローティングアイがそう言うと同時に、7眼のフローティングアイからも、エネルギーが迸る。

 その強さは、エリザとエルザが合体した竜人にも、劣らないように見える。

 その姿を見た、竜人は、言う。


「ああ、やっぱり、おいしそうね。」


 竜人が、突撃する。

 その突撃に、7眼のフローティングアイが、光線を合わせる。

 展開としては、最初の突撃と大きな差はない。

 障壁がないくらいだ。


 だが、結果は、全く違った。

 光線は、竜人の勢いを一切止めることができず、切り裂かれる。

 無数の光弾が周囲の六眼から放たれるが、竜人は、一切気に留めない。

 それもそのはずで、六眼の放った光弾は、竜人の周囲に迸るエネルギーに弾かれ、竜人自体には到達していないのだ。

 7眼のフローティングアイが放つ光線の密度が、一層増す。

 だが、竜人の突撃は、減速すらしない。

 

 そして、ついに、竜人は7眼のフローティングアイまで到達した。


 まず、最も近い位置の眼球に向け、ランスを突き出す。

 7眼のフローティングアイは、躱そうとするが、竜人はそれも読んでいた。

 躱した先に、魔力で造られた柱のような槍が、突き刺さる。

 7眼のフローティングアイの、声にならない叫びが、響く。

 その隙を、竜人が見逃すことはなかった。

 竜人のランスが、光を纏う。 

 魔術で刃を作り出したのだ。

 それを、一閃。

 7つの眼のうち、3つをまとめて切り裂く。

 二つの傷はまだ治癒できそうだが、一つの眼は、完全に両断されてしまった。

 その様子を見た6眼のフローティングアイたちは、完全に戦意を喪失し、逃げ出していく。

 フローティングアイにとって、眼球を失うということは、その戦闘能力と地位の著しい低下を示すのだ。

「こ・・・降伏する!」

 7眼のフローティングアイの悲痛な声が聞こえた。

 無事な眼球が3つまで減った7眼のフローティングアイも、完全に戦意を喪失したようだ。

「あらそう?じゃあ、一つもらうわね。」

 そう言い、竜人は、両断され、完全に7眼のフローティングアイから脱落した眼球に掴みかかる。

 直径5mほどの眼球は、両断されても、竜人を完全に隠してしまえるほどのサイズだ。


「じゃあ、いただきまぁす。」

 竜人は、妙に艶めかしい声でそう言うと、その眼球に齧り付いたのだった。


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