第18話 フローティングアイの群れとの戦い
目の前に迫る4眼に、灰鉄の剣を振り下ろす。
4つある眼のうち2つを両断すると、その4眼のフローティングアイは苦痛に体を揺らし、前線から後退していく。
すぐに、両側から3眼と4眼が襲い掛かってきたため、それに対応する。
右足を軸に体を回転させ、灰鉄の剣で2体同時に攻撃。
腕に十分な手ごたえを感じた瞬間、視界の端が煌めいた。
光線魔術だ。
大きくバックステップし、それを躱す。
光線魔術が飛んできた方向を見れば、6眼のフローティングアイが俺に目線を向けている。
「ジェダイトランス・ギガント!」
リトヴァの宣言と共に、翡翠色の電柱のような槍が、俺に目線を向けている6眼のフローティングアイに向けて飛ぶ。
しかし、6眼の前に展開された魔術障壁により、難なく防がれてしまった。
「狐火玉!」
コロの宣言で、妖しげな火の玉が、6眼のフローティングアイに向かう。
6眼のフローティングアイは炎に包まれるが、次の瞬間、6眼のフローティングアイから光が迸り、炎はかき消される。
少し煤けているようだが、大きなダメージはないようだ。
6眼のフローティングアイが反撃とばかりに無数の光線を放つ。
その光線は非常に強力だが、しかし、エリザ・エルザ姉妹に全て対応される。
こちらに被害はない。
フローティングアイの群れと戦闘を始めて、30分。
フローティングアイの群れは、正面に3眼と4眼を並べ、その後ろから5眼以上が遠距離支援を行う形で展開している。
俺たちは、遠距離攻撃を行うリトヴァとコロを守るように展開し、3眼と4眼の波をしのいでいる。
フローティングアイの攻撃は、こちらの前衛を突破できず、こちらの戦力が減ることはない。
一方、リトヴァとコロの魔術も6眼以上にはあまり効果が無く、大きな損害を与えることができていない。
どちらの攻撃にも決定打が無く、状況は30分前から大きく変わってはいない。
だが、戦況が拮抗しているわけではない。
俺たちの周囲には、切り裂かれたり叩き潰されたりした眼球が無数に転がっている。
さらに、少し離れた場所では、元3眼や4眼だった単眼や2眼のフローティングアイが、震えている。
敵の数はまだまだ多いが、こちらの体力もまだ余裕がある。
緑透金クラス以上の旅客は、一人一人が一騎当千の猛者である。
それが、9人。
個人での戦闘能力が最も低いエミーリアでも、4眼のフローティングアイ程度ならば、苦戦せずに倒すことができる。
このまま状況が進めば、こちらの体力が尽きるよりも、フローティングアイの群れが殲滅される方が早いだろう。
少し怖いのは、7眼のフローティングアイが、状況を観察するのみで攻撃に転じていないことだろうか。
*****
さらに戦うこと20分。
5眼のフローティングアイが、それぞれの眼から、計5本の光線を放つ。
その射線上にリピが躍り出し、ショートワンドを振るう。
すると、鏡のような防壁が1枚、リピの前に現れる。
さらに、リピはその防壁に合わせて、短剣を突き立てる。
その瞬間、防壁のサイズが一気に大きくなる。
防壁は、5本の光線を難なく受け止めた。
「狐火宝珠!」
コロの宣言で、美しく輝く、密度の高い火の玉が5眼のフローティングアイに襲い掛かる。
5本の光線を放った直後で動けなかった5眼のフローティングアイは、防御できずに炎に包まれる。
そして、そのまま動かなくなった。
5眼のフローティングアイ、撃破。
今倒した5眼のフローティングアイで、9体いた5眼全てを倒したことになる。
さらに、3眼と4眼の密度が、目に見えて減ってきた。
「ふむ。強いな。」
声が響く。
その声の主は、7眼のフローティングアイだ。
7眼のフローティングアイの、エネルギーが高まるのを感じる。
それに呼応し、4体の6眼も、力を溜め始める。
あのエネルギーから推察される威力の攻撃は、ちょっとまずい。
敵の溜まっていくエネルギーを感じ取った瞬間、俺が声を賭けなくとも、全員が、1~3名に分かれてはじけるように散開する。
一網打尽にされることは避けなければいけないのだ。
別れたメンバーを確認する。
俺とエミーリアのペア。
作太郎とコロ、ヴァシリーサ。
リトヴァとリピ。
そして、エリザとエルザ。
咄嗟とはいえ、バランスよく分かれている。
「死ぬがいい。」
その声と共に、7眼と6眼4体から、光線が迸る。
「エミーリア!俺の後ろに!」
俺の方に迫ってくるのは、7眼の光線。
7眼は、このメンバーでは俺が最も強いと判断したようだ。
灰鉄の剣と盾では、これは防ぐことはできない。
咄嗟に愛剣『蒼硬』を抜き、光線の先端に向けて、突きを放つ。
蒼硬から、強い衝撃が伝わり、視界が真白い光で包まれる。
だが、俺に傷をつけるには、威力が足りない。
光線は、蒼硬に切り裂かれ拡散し、周囲に飛び散った。
俺のところに7眼の光線が来たということは、他の者には、6眼の光線が襲い掛かったということだろうか。
光線が収まり、視界が晴れる。
真っ先に目に入ったのは、7つの眼がそれぞれ別の方向を向いた、7眼のフローティングアイ。
その瞬間、悟った。
・・・やられた。
俺に撃った光線は、目くらましだったようだ。
7眼は、それぞれの眼で、別々の者を狙ったのだ。
すぐに周囲を確認する。
周囲には、7眼と6眼の攻撃により、無数のクレーターが形成されている。
ヴァシリーサとコロ、リピ、リトヴァが被害を受けている。
作太郎は、そもそも狙われなかったようで、健在だ。
ヴァシリーサとコロは、どうにか防いだようだが、光線の余波を受けたようだ。
無傷ではないが、大きな怪我はない。
だが、消耗が大きいようで、表情が険しい。
リピとリトヴァは、さらに被害が大きい。
光線を防ぎきれなかったようで、リピの左腕2本が、力を失ったようにだらりと垂れている。
表面は酷い火傷をして血を流しており、すぐさま治療が必要だろう。
リトヴァダメージが大きく、左の脇腹辺りが大きく抉れ、傷口が炭化している。
アンデッドであるフレッシュデッドでなければ、死んでいただろう。
エリザとエルザは飛んで逃げたので無傷のようだ。
無事なのは、俺とエミーリア、エリザ、エルザ。
無傷ではないが、まだ戦えそうなのは作太郎。
消耗や怪我で戦うのが厳しそうなのがリトヴァとリピ、ヴァシリーサ、コロ。
特に、リピとリトヴァは辛そうだ。
「ふむ。思ったより、耐えるな。」
7眼の声が響く。
「だが、もう、終わりだな。」
7眼は、既に勝ったと思っているようである。
これは、俺の判断ミスだ。
序盤の状況から、そのまま倒せると思ったが、7眼の戦闘力を見誤ったのだ。
撤退だ。
そのためには、俺以外にもう一人、7眼を余裕をもって相手にできる者がいてほしい。
撤退の護衛と7眼の抑え役にそれぞれ1名ずつほしいのだ。
作太郎は無傷だし、十分に強いが、戦法的に護衛は向かず、遠距離戦主体の7眼のフローティングアイ相手には相性が悪すぎる。
エリザとエルザは・・・。
そこまで考えたとき、エリザとエルザの声がした。
「メタル。」
「私たち。」
「「一つになるわ。」」
俺の返事を待たず、エリザとエルザは、二人で手を繋いで、垂直に飛翔する。
飛び上がりながら、エリザとエルザは、抱き合う。
二人の事情を知らない、俺以外の者は、驚いた表情で、二人を見ている。
7眼のフローティングアイも、突然の行動に、警戒の視線を向けている。
エリザとエルザは、そんな視線を一切気にせず、互いに抱き合ったまま、二人揃って、高く飛び上がる。
「姉さん。」
「姉さん。」
「「一つになりましょう。」」
その瞬間、二人の姿が、上手く見えなくなる。
なんというか、そこだけ画像がぼやけているような感じだ
だが、それも一瞬。
すぐに、二人・・・いや、一人の姿が明瞭になった。
そこに、片翼で片角の双子竜人、エリザとエルザは居なくなっていた。
いるのは、しっかり1対の翼と1対の角を持った、エリザ・エルザと同じ見た目のただ一人の竜人だけであった。
その竜人は、7眼のフローティングアイの方を見て、ギザギザの牙が生えそろう口を、三日月のように広げ、笑う。
「ああ、おいしそう。」
その声と共に、竜人は、7眼のフローティングアイに襲い掛かった。




