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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第17話 荒野を抜け、森を抜け・・・

 現歴2265年6月9日 午前11時00分


 錆色号と別れてから、2日。

 赤茶けた荒野を抜け、日の射さぬ暗い森も抜けた。

 赤茶けた荒野の端、昏い森への入り口付近で一夜を過ごし、日が登ってから暗い森に突入した。

 暗い森は、奇怪な形をした木々が生い茂る、不気味な森だった。

 暗い森の中では、フローティングアイの群れと、第2、第3討伐隊の面々が、激しい戦いを繰り広げていた。

 その戦闘は、旅客たちが優勢であった。

 5眼のフローティングアイを討伐する役割の第2討伐隊が、強力な4眼以上をうまく抑えることができており、余裕をもって対処できていたようである。

 多少の被害は受けていたが、そのフォローも十分できており、俺たちが助けなくても問題はなさそうであった。

 暗い森に元々生息している生物についても、特に襲い掛かってくることはなかった。

 どうやら、フローティングアイと旅客たちが戦っているのに巻き込まれないよう、隠れているようであった。

 まあ、襲われないに越したことはない。

 俺たちは、途中襲い掛かってきた少数のフローティングアイを倒しつつ、暗い森を抜けた。

 多数の敵をほぼ気にせずに戦闘地域を抜けられるのは、多くの旅客を動員する大規模な任務の利点だと言えるだろう。


 暗い森の先には川幅10mほどの川があり、その先は草原であった。

 川には、第2討伐隊と第3討伐隊の一部の旅客が先行して展開しており、架橋戦車により橋がかけられていたので、問題なく渡ることができた。

 第2討伐隊は、30人程度の部隊であり、6つのパーティで構成されている。

 そのうち1パーティが先行し、橋をかけていたようだ。

 60人ほどいる第3討伐隊のうち10人ほどが橋の近辺に展開し、守備している。

 どうやら、第3討伐隊に、架橋戦車を運用している部隊がいたようだ。

 橋を渡ってすぐの場所で一夜を明かし、草原に差し掛かる。

 

 現在は、その草原を進んでいるところだ。


*****


 ハッチから顔を出し、周囲を警戒する。

 周囲は、5cm程度の高さの草に覆われ、所々に低木の茂みがある。

 さらに、思ったより起伏もあり、隠れられる場所は多い。

 いつ、何が起きても不思議ではない。

 ・・・これは、警戒を厳に行う必要があるだろう。

 インカムのマイクを口に寄せ、言う。

「ここから先は、フローティングアイの縄張りだ。周辺警戒を厳にせよ。」

 エリザ・エルザの軽戦車から、了解の返事が返ってくる。

 コロが、緑のヒヨコ号の兵員室から出て、上面で周囲を警戒し始める。

 こういう状況では、コロの索敵能力は、大変頼りになる。

 

 橋を渡った先から、車両の跡がない。 

 第2、第3討伐隊は、草原までは到達していないようである。

 第3前進都市『鯨骨街』から黒い森の渡河地点まで、約60㎞。

 暗い森は、舗装こそされていないものの、第14前進都市と第3前進都市の間を移動するための車両が通れる道があったため、一日で抜けることができた。

 しかし、徒歩のみで抜けるには危険なルートだ。

 暗い森の生物は、装甲車両を傷つけられるようなものはほぼいないが、決して弱い訳ではない。

 複雑な地形と暗さ、多数生えているの巨大で奇怪な形の木を利用して奇襲を仕掛ける生物が多く、徒歩で抜けるのは困難を極めるのである。

 流石に、徒歩では鯨骨街から2日で来ることは難しい。

 この先は、今回の任務においては未踏の地ということになる。


 渡河地点を後にして3時間。

 7眼のフローティングアイが確認された地点へは、あと数㎞。

 フローティングアイは、基本的に遠距離戦を好む生物だ。

 見通しの良い草原は、フローティングアイにとって、理想的な戦場である。

 この辺りを拠点にしているフローティングアイの群れがいると考えて、間違いはないだろう。



 警戒し始めてから、30分ほど。

 コロの声が、響く。

「敵フローティングアイの魔力を検知!1時方向!距離2,300!」

 コロのを聴き、そちらを見る。

 コロが、丘の稜線の向こう側を探知したようで、肉眼では見えない。

 エリザ・エルザの軽戦車から、一人、上空へ飛び上がったのが見える。

 あれは、エルザか。

 稜線の先を見るつもりなのだろう。

 エルザは、垂直に上空へと飛翔していく。


 そのエルザが、ある程度の高度に達した瞬間、コロが言っていた丘の稜線から、真白い光線が、エルザ目掛けて放たれた。

 エルザは、ひらりと、その光線を躱す。


 その光線は、今まで戦ってきたどのフローティングアイの物よりも太く、密度も高い。

 さらに、その極太の光線に続くように、様々な太さの無数の光線が、エルザに襲い掛かる。

 エルザは、片翼しかないとは思えない、鋭く軽やかな動きで、全ての光線を縫うように躱し、降下してくる。


 降下したエルザは、緑のヒヨコ号に向けて飛んでくる。

 そして、上空を通り過ぎつつ、言う。

「いたわ。7眼よ。」

 そう言い、エルザは軽戦車へと戻っていった。

 7眼と、ついに接敵したのだ。


 7眼は、稜線から出てこようとはしない。

「窪地に停車!下車戦闘!」

 俺はインカムに叫ぶ。

 先ほどの光線を見ると、緑のヒヨコ号やエリザ・エルザの軽戦車程度の装甲では、あまり役に立たないだろう。

 むしろ、車両ごと乗員全てがやられる可能性の方が高い。

 下車戦闘の方が、まだ危険は少ない。

 

 俺の指示に従い、エリザ・エルザの軽戦車は、近くの窪地へと車両を進める。

 緑のヒヨコ号も、それとは異なる窪地に停車する。


 戦闘用意はできている。 

 すぐに下車戦闘に移行できる。


 エリザ・エルザの軽戦車側も同じで、完全武装のエリザ・エルザと、リトヴァが降りてきた。

 距離は、2,300m。

 幸い、地形の起伏はそれなりにある。

 射線を避けながら近づくことは、難しいができなくはない。


 フローティングアイに感づかれないよう、前進の合図をハンドサインのみで行う。

 エリザ・エルザとリトヴァには上手く伝わったようで、3人は前進を始めた。

 俺たちも、フローティングアイの群れまでの2㎞の道のりを、進み始めた。


*****

 

 2~3人ごとに散開し、狙いを散らしつつ、すぐに射線を避けることができるよう、窪地を経由するように進む。

 皆、一流の戦闘旅客である。

 展開速度は、速い。

 ものの数分で1000m以上距離を詰める。

 途中、5眼や6眼のフローティングアイが稜線から眼球を出し、こちらを探っているのが見える。

 その視線は、軽戦車と緑のヒヨコ号が停まっている盆地に向いている。

 反応を見ると、まだ、展開していることはばれていないようだ。

 次第に距離を詰める。


 稜線までの距離が、残り100mほどになった時、敵に動きがあった。

 丘の稜線から、ぬぅ、と、見たことがない大きさの眼球が、現れる。

 その大きさは、1つ辺り、直径5m以上はありそうだ。

 ゆっくりと、その巨体を現すのは、この群れのボスだろう。


 その眼球の数は、7。

 今回の討伐目標、7眼のフローティングアイだ。


 その視線は、こちらが見えていないはずの位置から、確実に、俺たちを見据えている。

 7眼のフローティングアイとの距離は、およそ100m。


 辺り一帯に、声が響く。

「私が力を得るのだ。2眼どもが、邪魔を、するな。」

 7眼のフローティングアイの声のようだ。

 何のことを言っているかわからない部分もあるが、少なくとも、2眼とは俺たちのことだろう。


 その声と共に、丘の稜線から、大量のフローティングアイが現れる。

 ざっと見ても、6眼が4体、5眼が10体近く、それ以外は、数えるのが嫌になるほどいる。

 報告よりも明らかに数が多い。

 この数日で数を増やしたのか。

 それとも、誤情報を掴ませるほど、知能があるのか。


 これは、激しい戦いになりそうだ。

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