第16話 戦闘後の処理
「全員集合!」
コロが叫んでいる。
フローティングアイの群れとの戦闘が終わり、一度全員を集めようとしている。
損害の確認だろう。
声に従い、全員が集まっていく。
「皆、健在か?」
皆が集まった場所で、ヴィクトルが言う。
とりあえず、大きな怪我をした者はいないようだ。
「ああ、問題ない。メタルが大きいのを相手にしてくれて、助かった。」
ローランドが言う。
そう言うローランドは、元気そうだ。
俺が5眼以上を相手にしたのも、意味があったようだ。
「エミーリア、作太郎、ヴァシリーサ、大丈夫?」
俺のチームのエミーリアに作太郎、ヴァシリーサにも確認する。
「問題ない。」
エミーリアが短く答える。
エミーリアは、後方で助けた旅客たちの護衛役をしており、戦闘にほぼ参加していないため、消耗はなさそうだ。
「うむ。大事ない。」
作太郎も問題なさそうである。
戦った後だということすら感じさせないような、涼やかな様子だ。
「ま、あの程度なら問題ないっすね。」
ヴァシリーサも、ケロッとしている。
うちのチームは、全く問題ないようだ。
他チームの様子を見ると、エリザとエルザ、チーム『青の戦士を仰いで』の皆も、大きな損害は無いようである。
皆が無事なことに安堵したのも束の間、コロが、言う。
「メンバーは大丈夫だけど、錆色号が・・・」
コロの言葉に、全員が、錆色号の方を見る。
「げぇ・・・」
呻き声は、チーム『青の戦士を仰いで』の誰かのモノだろうか・・・。
錆色号の側面には、2発の大きな被弾痕があったのだ。
*****
錆色号のハッチから、ヴィクトルが顔を出す。
「エンジンと予備燃料がやられておる。ちと厳しいの。」
錆色号の状態確認と整備のため、錆色号に入って作業していたヴィクトルが言う。
「この穴の大きさだと、4眼の攻撃かな。とりあえず、足回りは大丈夫そうよ。」
リピが言う。
リピは、4本の腕を駆使して足回りを整備していたが、表情を見る限り、どうやら状態は悪くないようだ。
「エンジンはどうにか動くが、この状態じゃと、だましだまし動かして鯨骨街まで帰るので精一杯じゃな。悪いが、錆色号はここで脱落じゃ。」
そう言い、ヴィクトルは錆色号から降りる。
「ま、助けた者達を鯨骨街まで運ぶくらいはできよう。」
俺たちが助けた5人組は、もう戦える状態ではない。
3名がいまだ意識が戻らず、2名も命に別状はないモノの、軽くはない怪我を負っている。
さらに、助けた者達が乗っていたであろう装甲車は、横転ている。
状態を確認したが、よほどひどい一撃を受けたようで、大破している。
特に足回りの損傷はひどく、横転しているのを起こしたところで、自走は不可能だろう。
そうなると、助けた5人を鯨骨街に運ぶ車両が必要になる。
今回損傷を受けた錆色号は、撤退しなければならない。
そのため、錆色号は助けた5人を運ぶ役目を担うこととなった。
「ですが、私たちのチーム全員が抜けるわけにはいかないのではなくて?」
リトヴァが言う。
確かに、チーム『青の戦士を仰いで』の全員に抜けられると、人数が11人から6人になってしまう。
戦力的にはまだどうにかなるかもしれないが、決して望ましい状態ではない。
「ならば、チームを分けるしかあるまい。」
ヴィクトルが言う。
旅客がチームを分けるのは、珍しいことだ。
その判断がすぐにできるというのは、珍しい。
個々人が、チームを分けても行動できるだけの自信があるのだろう。
「錆色号と戻るのは・・・そうじゃな、儂とローランドで行こう。前衛は多いのじゃ。抜けるなら、前衛じゃろう。」
今回のメンバーは、後衛がリトヴァとコロ、中衛がヴァシリーサとリピ、前衛がそれ以外の7名と、前衛に偏った構成だ。
ヴィクトルとローランドが抜けても、まだ、俺とエミーリア、作太郎、エリザ・エルザの5名が前衛として残る。
確かに、前衛2名が抜けるのが、妥当だ。
「ボクたちは、悪いけど、他の2台に乗せてもらうしかないね。」
コロが言う。
「私たちの軽戦車は、」
「あと一人は乗れるわ。」
そう言うのは、エリザとエルザ。
俺たちの緑のヒヨコ号も、多少余裕はある。
2人位ならば乗せられるだろう。
最終的に、エリザ・エルザの軽戦車にリトヴァが乗り、緑のヒヨコ号にはコロとリピが乗ることになった。
1時間ほどかけ、大破した装甲車から使えるものを運び出し、その荷物をそれぞれの装甲車に積みなおす。
なるべく早く出発したいところだが、物資は大切だ。
ここでしっかり整えなければ、後々、命取りになることすらある。
さらに、錆色号から、リトヴァ、コロ、リピの分の荷物を緑のヒヨコ号とエリザ・エルザの軽戦車に移動する。
緑のヒヨコ号とエリザ・エルザの軽戦車は、外側にも多数の荷物が括り付けられ、雑多な印象になった。
内部に積み切れないので、仕方がない。
原生生物に攻撃され、剥ぎ取られないことを祈るしかない。
倒したフローティングアイは、荷物を積み込んでいるときに、手が空いた者が解体していた。
その素材は、できる限り錆色号に積んだ。
フローティングアイの素材は、いろいろと使える優秀な部位も多い。
だが、今回は錆色号のエンジンがやられているため無理はできない。
そのため、最も価値のある水晶体部分のみ、しかも5眼の物のみを積むこととなった。
3つとは言え、5眼の水晶体は非常に高価だ。
大きな収穫といえるだろう。
日付と時刻を見れば、6月7日の午後2時。
戦闘を開始したのが午前10時くらいなので、3時間ほど進軍が止まったことになる。
ここで先ほどの規模の群れと戦闘になるのならば、この先では、より多数のフローティングアイが徘徊していると考えられる。
先に出撃した旅客たちも、フローティングアイと戦っていることだろう。
その旅客たちの負担を減らすためにも、なるべく早く中核となるフローティングアイは討伐しなければいけない。
そのため、今日中にできる限り進んでおきたい。
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「では、ご武運を!」
錆色号のハッチから顔を出したローランドが叫ぶ。
そして、錆色号は、不規則なエンジン音を響かせながら、鯨骨街方面に向けて走り出した。
あの中では、ヴィクトルが、ダメージを受けたエンジンと格闘しているのだろう。
「よし、俺たちも出るぞ!」
錆色号を見届けた後、俺は、声を張り上げる。
俺の声に反応し、エリザ・エルザの軽戦車がエンジンを唸らせ、発信する。
「よし、緑のヒヨコ号も、前進。」
インカムにそう言うと、緑のヒヨコ号もエンジンでその身体を震わせ、前進を開始する。
俺たちは、辺境のさらに奥に向けて、車両を進めるのだった。




