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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第14話 救助

 オオガンセキカタツムリとの戦いは、数分で終了した。

 戦果は、俺たちのパーティで1体、元からいた旅客で1体、ヴィクトルのパーティで1体であった。

 戦ってみれば、RHA200㎜相当だというオオガンセキカタツムリの殻は、硬いが弱点がない訳でもないものであった。

 確かに、基本的にはRHA200㎜相当の防御力はあるようだが、殻には所々に継ぎ目があり、その部分は思った以上に脆かったのだ。

 リトヴァの放ったジェダイトランス・ギガントも、殻を貫通しているわけではなく、衝撃に耐えきれなかった殻の継ぎ目が割れていたのである。

 

 俺たちのパーティでは、ヴァシリーサが、魔術でオオガンセキカタツムリ動きを止め、作太郎が継ぎ目からカタツムリを両断した。

 オオガンセキカタツムリの動きが止まっていたとはいえ、まばたきほどの時間でオオガンセキカタツムリが真っ二つになったのは流石であった。

 俺たちが来た時点で戦っていた戦闘旅客たちは、あくまで数に押されていただけのようで、1体のカタツムリを、危なげなく撃破していた。

 ヴィクトルのパーティでは、コロとリピが1体を倒していた。

 コロとリピは、リピが躍るようにカタツムリと戦いながら呪文を詠唱し、紫色の力を纏ったコロがカタツムリを呪殺していた。

 リピの踊るような動き自体が呪術儀式になっており、それによりコロを強化したようだ。


 呪術は、魔術とは異なるエネルギーを用いた技術である。

 宇宙は、概念的な歪みや空間の傷等、宇宙の存続にかかわる異常をを感知した際、その修復のため、異常のある場所にエネルギーを発生させる。

 そのエネルギーを呪力と呼んでおり、呪術とは、様々な手順を踏むことでそのエネルギーを呼び出し、利用する技術なのだ。

 宇宙の傷を修復するような強力なエネルギーを活用するため、強力かつ効果時間が長い術も多いが、その分、発動には大きな手間がかかる。

 今回も、リピが躍るように戦うこと自体を儀式とし、それによって呪力を呼び出したのだが、それなりに時間がかかっている。

 呪術に対し、魔術は、魔導子と呼ばれる目に見えないサイズの粒子を用いて、自然現象を再現する技術であり、呪術は根本から異なるのだ。

 

 そんな感じでオオガンセキカタツムリを倒した俺たちは今、先にオオガンセキカタツムリと戦っていた旅客たちの治療を行っている。

 オオガンセキカタツムリとの戦闘を行わなかったエリザ・エルザやエミーリアなどは、治療を行っていたのだ。

 それに、戦闘が終わった者達も合流する。

 旅客たちの状態は、良くない。

 俺たちが駆け付けた時点では3人は意識があって戦っており、2人が意識を失っていた。

 しかし、救援が来たことで安心したのか、もう1人も意識を失ってしまった。

 元々倒れていた2人もそうだが、追加で倒れた1人の怪我もひどい。

 気合でどうにか戦っていたようだ。

「生命力剤はあるか?」

 どうにか動けそうな2人にローランドが訊くと、横転している装甲車に積んであるようだ。

 エミーリアが装甲車に駆け寄り、それらしきものを取り出してくる。


 生命力剤とは、その名の通り、生命力を実体化させた薬剤である。

 生命力とは、全ての生物が持っている、生命を保つための力のことであり、呪力に近いモノだ。

 常に生物の体内で生成され、体内に満遍なく循環しているが、怪我や病気などを治す際に消費されていき、生成が追い付かなくて全て無くなると死亡してしまうのだ。

 生物の体に満遍なく存在するため、輸血用に抜き取った血液などにも宿っている。

 しかし、抜き出した血液からは、数時間で霧散してなくなってしまう。

 そこで、無くなるはずの生命力を呪術と魔術で繋ぎ止め、薬剤化したのが生命力剤である。

 怪我や病気の人に投与すれば、無理やりにではあるが延命が可能なのだ。

 生命力の消耗は怪我や病気の度合いによるため、状態により生命力剤の効果時間の差こそあるが、事故や災害の際に生存者がぐっと増えた、画期的な薬なのである。

 なお、生命力を抽出した血液も、輸血に使用してもその効果や用法に全く変化がないことが証明されている。


 その生命力剤を使用するということは、とりあえず延命を図らなければいけないほどの状態だということなのだ。

 エミーリアが、医療品の中から、小さな瓶と注射器を取り出し、受け取りに来た3人に手渡す。

 生命力剤を注射すると、倒れている3人の顔色が、目に見えてよくなった。

 これで、応急処置の間は持つだろう。


 応急処置に、人手は足りている。

 俺は、意識のある者に、何があったかを聞き取ることとする。

 戦闘前にどういったことがあったかを確認しておかないと、救援に来た俺たちも纏めて他の原生生物に襲われるなど、二次被害につながりかねない。

 確認しておくのは重要なのだ。

 さらに、戦闘中の動きを見る限り、この襲われていた旅客たちは、強い。

 決して、数匹のオオガンセキカタツムリに敗けるような戦闘旅客たちではない。

 そのため、戦闘前に何か、予想外なことが起き、その時点でパーティーが半壊していた可能性が高い。

「なにがあった?」

 すると、意識のある一人が、答えてくれた。

「フローティングアイだ。フローティングアイに奇襲されたんだ。」

 なに?

 まだ発生地域からは遠いはずだが・・・。

 俺が訝し気な顔をしていると、もう一人の意識のある旅客が、続けて答えた。

「5眼が2体と4眼が4体。3眼以下は数えている暇がないほどの大規模な群れだった。」

 相当な数である。


 さらに詳しく話を聞く。

 フローティングアイの群れは、最初、三眼を中心とした群れに見えたそうだ。

 所々にある岩の陰から、急に現れたらしい。

 だが、文明圏に発生すれば恐ろしい3眼も、この戦闘旅客たちの敵ではない。

 順調に倒していた時、突然閃光が迸り、装甲車が横転したのだという。

 二人の旅客に案内されて横転した装甲車を調べれば、貫徹はしていないものの、着弾痕が複数ある。

 装甲車自体、防御力は高いが若干トップヘビーな車種である。

 そのトップヘビーさも相まって、かなり遠くから4眼クラス複数に狙撃され、その衝撃で横転したようだ。

 そこから、戦況が一変したのだという。

 装甲車が横転してからすぐに、4眼と5眼が突入してきたらしい。

 4眼はまだしも、5眼は、この戦闘旅客たちの手に負える相手ではない。

 どうにか逃亡しようと防戦に努めたが、旗色は悪かったそうだ。

 だが、3眼以下を半数程度を倒したところで、フローティングアイの群れは撤退したそうだ。

 助かったと思ったのも束の間、フローティングアイの群れの撤退直後、オオガンセキカタツムリに襲われたのだという。

 気絶した二人を守りながらの戦いは多勢に無勢で、諦めが漂い始めたところで、俺たちが救援に来たとのことである。


 話を聞いているうちに、話している旅客の顔色が悪くなってくる。

 体調が悪い訳ではなく、話しながら状況を再確認することで、状況が良くないことに気が付き始めたようだ。

 話を聞いている俺も、なんだか嫌な予感がしてきた。


 この状況、フローティングアイからすれば、絶好の襲撃機会ではないだろうか?


 そう思うとほぼ同時に、俺の視界の端に、魔力の閃光が移る。

 

 避けていいか?

 周囲を確認。

 避けると、被害が出そうだ。


 咄嗟に腕を突き出し、閃光を弾く。

「敵襲!」

 同時に、叫ぶ。



 俺の叫びと同時に、雨のように無数の閃光が、俺たちに襲い掛かってきた。


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