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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第13話 出撃する旅客たち


 エミーリアの想いを受け止めた次の日、鯨骨街から出撃する。

 ああいったことがあったとはいえ、仕事はしっかりと行わなければいけない。

 気を引き締めていくことにする。


 鯨骨街から出撃したその日は、一日中、金柱地域を進むことになった。

 金柱地域は、広いのだ。

 1日目の野営地点は、金柱地区を抜ける直前。

 まだコンジキシマクジラの縄張りであり、比較的安全な領域である。

 そのおかげで、特に問題なくここまで進むことができた。

 ここまでは、全旅客が一緒に進んでいたため、30台にもなる装甲車が車列を組み進んでいた。

 金柱地域が比較的安全だからできたことである。

 野営は、金色の柱に隠れるように行われた。

 金柱地域が比較的安全とはいえ、隠れもせずに野営できるほど安全ではない。

 とはいえ、比較的のんびりと過ごせる夜であった。


 2日目からは、小グループに分かれ、進むこととなる。

 辺境において、多数でまとまっているのは危険である。

 強大な生物に襲われ、一網打尽にされる恐れがあるのだ。

 そのため、2日目からは、各々、フローティングアイの発生地域に向かうことになる。


 戦果を求める者たちは早めに出撃し、安全を求める者は少し遅く出撃する。

 今回の報酬は、出来高制である。

 基本報酬に追加して、討伐したフローティングアイの強さや数によって追加報酬が出る。

 そのため、実力に自信がある戦闘旅客たちは、獲物を求めて早めに出撃しているのだ。

 軍の仕事とはいえ、旅客たちは軍属ではない。

 このような対応は、よくあることなのである。


 俺たちは、最後に金柱地区を出ることになっている。

 7眼と6眼を討伐するのが俺たちの役割だが、それに加えて、危険な状況に陥った旅客の救援も仕事に含まれている。

 最後尾から、他の戦闘旅客の様子を見ながら、最終的に追い抜いていく形になる。

 その中で、負けそうな戦闘旅客が居れば、救援することになるのだ。


 戦闘旅客たちが、1~3台ずつのグループに分かれ、野営地から出撃していく。

 俺たち以外の全員が出撃したのは、午後1時になったくらいであった。


「儂らも出撃しようかの。」

 ヴィクトルがそう言い、錆色号のエンジンに火を入れる。

 錆色号は、重たい音を響かせ、その車体を揺らす。

 俺たちも、緑のヒヨコ号のエンジンを始動し、出撃に備える。


 今回の車列も、先頭がエリザ・エルザの軽戦車で、次が、チーム『青の戦士を仰いで』の錆色号、最後尾に俺たちの緑のヒヨコ号が続く形になった。

 エリザ・エルザの軽戦車が、軽快に走り出す。

 その後ろに、錆色号がのっそりと続き、俺たちの緑のヒヨコ号がゆっくりとついていく。


*****


 金柱地域を抜けると、大きな岩が多数転がっている赤茶けた荒野が広がる殺風景な風景になる。

 俺の今の役割は、車長。

 ハッチから顔を出し、周囲を視察する。

 隣の砲手ハッチからは、エミーリアが顔を出して周囲を見渡している。

 変化のない周囲の赤茶けた風景に飽き、エミーリアの後頭部を眺める。

 エミーリアはまじめに周囲をきょろきょろと見渡している。

 俺の視線に気づいたのか、エミーリアが振り向く。

 そして、ほんのりとほほ笑む。

 そして、エミーリアは、何事もなかったかのように、周囲の視察に戻った。

 

 くそ、可愛いじゃないか。


 不意打ちである。

 このままエミーリアばかり眺めていたいところである。

 だが、それでは索敵できないので、気を取り直して、周囲を眺める。


 この赤茶けた大地には、ぱっと見では恐ろしい生物はいないように見える。

 しかし、無数に転がる黒々とした岩には、その岩に擬態したカタツムリみたいな生物が混じっている。

 『オオガンセキカタツムリ』と呼ばれるそのカタツムリは、文明圏にも生息しているが、辺境でも生存できるほど強いのだ。

 大きさは高さ2~3mほど。

 力も強く、簡単だが強力な魔術を使用するなど、文明圏に生息する生物では上位の強さを持つカタツムリである。

 特に、その殻の防御力は凄まじく、RHA換算で100㎜以上だと言われている。

 見分け方は、岩の周囲に、色が薄くなっている地面があることでその岩がカタツムリだと判別できる。

 この大地の赤茶けた色は、藻類によるものであり、カタツムリはその藻類を食べているため、地面の色が薄く見えるのだ。

 そのカタツムリを避けるように、俺たちは進む。

 

「警戒、方向4時、距離1500、カタツムリ4体と戦闘中の一団を確認!」

 コロの声が響く。

 先行した旅客たちの誰かが戦っているのだろうか?

 コロが示す方向に目を向けると、横転した装甲車が見える。

 その周囲には、4体のオオガンセキカタツムリ。

 戦っているのは、3名だろうか。

 2名、既に動かない者も見える。

 このままでは、全滅しそうだ。

「助けるぞ!」

 俺が叫ぶ。

 俺の声により、エリザ・エルザの軽戦車が増速し、救援に向かう。

 錆色号も増速するが、その足は遅い。

「俺たちは先に行く!続け!」

 俺がそう叫ぶと、錆色号の側面の扉が開き、蠍猿人のリピとゴリラ系猿人のローランドが飛び出す。

 二人は、チーム『青の戦士を仰いで』の前衛と中衛で、緑透金クラスの旅客だ。

 その二人が、エリザ・エルザの軽戦車に負けない速度で駆け出す。

 錆色号が遅いため、戦闘の際は、錆色号から出て走っていくようである。

 錆色号の上には、リトヴァが立つ。

 その視線は戦場を見据えており、堂々としている。

 リトヴァは、固定砲台役なのだろう。


 俺たちの緑のヒヨコ号も増速し、戦場に向かう。



 まず最初に、エリザ・エルザの軽戦車が発砲した。

 主砲は、40㎜機関砲のようだ。

 戦っている旅客に被害を出さないために単射で放たれた砲弾は、吸い込まれるように1体のカタツムリに着弾する。

 いい腕だ。

 しかし、砲弾は鈍い音を立てて弾かれてしまった。

 周囲に被害を出さないため、炸薬の無い純粋な徹甲弾を使ったのだろう。

 オオガンセキカタツムリの殻は、非常に硬い。

 文明圏のオオガンセキカタツムリでも、RHA換算で100㎜程度の防御力があるのだ。

 さらに、この地域のオオガンセキカタツムリは、食性の影響か、RHA換算で200㎜近い防御力がある。

 汎用砲システムの40㎜機関砲の徹甲弾では、貫徹することはできない。

 だが、カタツムリの注意を引くことは成功したようだ。

 1体のカタツムリが、見た目に反して素早い動きで、こちらに向かってくる。

「HEAT!」

 叫ぶ。

 カタツムリは、速い。

 だが、そのお陰で、旅客から十分に離れてくれた。 

 これならば、HEATを使っても大丈夫だろう。

 俺の声に従い、作太郎が砲弾を装填する。

「てぇっ!」

 再び叫べば、エミーリアによって操作された主砲から、125㎜HEAT弾が放たれる。

 狙い通りに、HEAT弾はカタツムリに着弾する。

 メタルジェットが強固な殻を貫通し、そのエネルギーがやわらかい体内に吹き込んでいく。

 カタツムリは、その痛みに少し身を震わせる。

 しかし、止まらない。

 なかなかな生命力である。

 カタツムリの周囲に、岩石が複数、ふわりと浮かび上がる。

 その岩石が、こちらに向けて撃ちだされてくる。

 オオガンセキカタツムリの魔術だ。

 その威力は、生身の人間ならば、胴体でも当たり所によっては致命傷になるくらいはある。

 だが、装甲車両相手には、威力不足である。

 岩石は、緑のヒヨコ号とエリザ・エルザの軽戦車に命中する。

 しかし、貫通力が足りず、表面に少し傷をつけるだけで終わった。

 オオガンセキカタツムリは、攻撃力は大して高くないのだ。

「ジェダイトランス・ギガント!」

 後方から、リトヴァの声が聞こえる。

 それとほぼ同時に、電柱のようなサイズの、翡翠色の槍が、カタツムリに向かう。

 その槍は、強固なカタツムリの殻を叩き割り、そのまま、地面にカタツムリを縫い付けてしまった。

 RHA200㎜の防御を相当を叩き割る槍とは、流石である。

 だが、カタツムリの生命力は凄まじく、大きく暴れ、翡翠色の槍をどうにか抜こうとする。

 そこに、リピが到達する。

「流傷雷撃!」

 リピが叫ぶと、手に持った短杖が、電撃を纏う。

 それをカタツムリに押し付けると、今まで刻まれた傷から、電撃が迸る。

 ダメージを受けた部位に、電撃を走らせる魔術だ。

 今まで体内に多く傷をつけられたカタツムリには、致命傷になったようだ。

 電撃が収まると、カタツムリはぐったりと動かなくなった。

 ローランドがどこに行ったのかを見てみると、他のカタツムリと戦っている旅客たちに駆けつけ、前衛としてさらなる被害を防いでいる。

 その動きは洗練されており、緑透金クラスとは思えないほどだ。


「停車!下車戦闘!!」 

 再び叫ぶ。

 あまり近くまで緑のヒヨコ号を近づけると、車両が余計なダメージを受ける可能性がある。

 装甲車は、今後も必要なのだ。

 オオガンセキカタツムリは、文明圏ではトップクラスの強さを持つ魔法生物で、辺境にも生息できるほどの生物だ。

 だが、俺たちにとって、そこまで強い相手ではない。

 急いで仕留めて、倒れている旅客たちを助けなければいけない。


 

 俺たちは、武器を手に取り、オオガンセキカタツムリとの戦いに加わるのだった。


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