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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第12話 想い

「「メタル。私のうち一人と、ここに残って。」」

 二人のエミーリアが、声を揃えて言う。

 

 声色には、予想以上に必死な響きが混ざっている。

 

 エミーリアの、変化の薄い、しかし、実は感情豊かな表情は、強張っている。

「それは、どうして?」

 俺がそう返すと、エミーリアは、すぐに口を開いた。

「・・・不安そう。」

 いつものとおり、言葉は足りない。

 だが、それなりに一緒に旅をしてきたのだ。

 何を言わんとしているのかは、なんとなくわかる。

 エミーリアは、彼女にしては珍しく、言葉を続ける。

「メタルは、いつも、自信があった。でも、今回の敵は、不安。質問もしていた。」

 いつも、絶対に負けない自信にあふれている俺が、何かを心配しているように見えた。

 さらに、ブリーフィングの時にわざわざ敵の強さについて質問した。

「メタルは、今まで、どんな敵でも、不安そうじゃなかった。でも、今回は、違う。」

 エミーリアの声色は、必死だ。

 そこまで、俺を心配しているのだ。 


 ・・・そう、見えていたのか。

 とある事情があって嫌な予感がしていたのを、エミーリアは、俺が不安だと捉えたようだ。

 悪いことをしてしまった。

「・・・だから、私のうちの一人と、ここに残ってほしい。」

 いつのもエミーリアの口数は、少ない。

 そのエミーリアがこれだけ言葉を紡ぐのは、それだけ、必死だということなのかもしれない。


 エミーリア自身を一人置いていくのは、保険だろうか。

 俺でも勝てないと考えるような相手と戦うため、エミーリアが全員死なないようにするためなのだろう。

 エミーリアは、強くなりたくて、俺と旅をしてきた。

 強くなって、果たしたい目的があるのだ。

 その目的のために、エミーリア全員が命を落とし、レギオンとしての死を迎えることはできない、という判断なのだろう。

 

 しかし、それでは、俺に残ってほしいと言う理由がない。

 エミーリアが数人、残ればよい。

 なんなら、エミーリアが作戦に参加しない、という選択肢もあるのだ。

 

 なぜ、俺にも残ってほしいと、言うのだろうか。


 ・・・いや、なぜ、ではないな。



 それなりに一緒に旅をしてきたのだ。

 何を言わんとしているのかは、わかる。

 エミーリアと会ってから、もうすぐ2か月。

 たったそれだけの期間で、わかるようになったのだ。

 言葉の足りない、エミーリアの、言外の意思が。


 考えてみれば、この2か月、俺の視界の端には、いつもエミーリアがいた。

 俺も、伊達に長くは生きていない。

 エミーリアを見たときに心によぎる感覚が何なのか、自覚はある。


 エミーリアの眼に宿る不安、懸念、覚悟は、言葉よりもよほど饒舌だ。


 そして、その眼に宿る、親愛、恋慕も、不足しがちなエミーリアの言葉よりも、よほど、エミーリアが言わんとしていることを伝えてきている。


「エミーリア・・・。」

「まって。私が、言う。」

 俺が、言葉を発しようとすると、エミーリアが止めてきた。 


 そのまま、顔を赤くする。

 そして、二人のエミーリアが、口をパクパクとする。

 一人のエミーリアが、もう一人のエミーリアの背中から、するり、と中に戻る。

 

 目の前には、1人の、そして40人のエミーリアが、立っている。


 

「・・・最初は・・・打算だった。」

 ぽつり、と、エミーリアが、か細い声で言う。

 最初は、強くなるために強い戦闘旅客についていく、以上のことはなかったのだろう。

「自覚したのは、アルバトレルスに突入するとき。」

 俺も、覚えている。

 俺が、エミーリア全員を一人も欠けさせないように、説得した時だ。

 その時、エミーリアは顔を赤くしていた。

 自分の気持ちを、自覚したのだという。


 エミーリアの顔は、湯気が出そうなほど、真っ赤だ。

 再び、エミーリアは、言葉が出ないかのように、口をパクパクとする。

 少し口を動かして、そのまま俯いて口を真一文字に閉じる。


 数秒後、意を決した表情になり、顔を上げる。

 


「私は、メタルと、生きたい!」



 エミーリアの言葉が、俺の身体を打ち据える。

 溢れ出んばかりのエミーリアの想いが、これでもかと詰まった一言だった。

 

 エミーリアは顔を真っ赤にしながら、こちらを見据えて、少し、震えている。

 そのエミーリアを見て、心の底から、愛おしさが湧き上がってくる。

 思わず、エミーリアの身体を、かき抱く。


 腕の中のエミーリアが、か細い声で、言う。

「死なないで・・・。行かないで・・・。」

 

 俺も、言葉を返す。

「大丈夫。俺は、死なないよ。」

 俺の背中に、ゆっくりと、エミーリアの腕が回される。

「・・・ほんとに?」

 まだ不安そうなエミーリアの言葉に、エミーリアを抱きしめる力を強くする。

 そして、答える。

「ああ。もちろんだとも。」

 そして、エミーリアの耳元で、ささやく。

「俺も、エミーリアが好きだよ。」

 俺がそう言うと、エミーリアは、ハッとしたような表情になり、俺の背中に回した腕の力を、強める。


 俺が、エミーリアを見たときに心によぎる感覚。

 それは、情愛だ。

 愛おしさだ。

 伊達に、長くは生きていない。

 自分の心は、よくわかる。


 俺も、エミーリアが好きだ。


 好きなのだ。

 


 俺たちは、しばらく、その場で互いに強く抱き合っていた。

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