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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第9話 金色の地域

あけましておめでとうございます。

今年も『蒼い星にて戦士は往く』をどうぞよろしくお願い致します。

 現歴2265年6月4日 午後1時00分


 土煙を上げながら、緑のヒヨコ号は、赤茶けた大地を走る。

 俺は、車長ハッチから上半身を出し、周囲を見渡す。

 周囲には、直径数十㎝~数m、高さ数m~数百mにもなる巨大な柱が立ち並んでいる。

 柱の間には、所々に、巨大な生物の骨が何も言わずに横たわっている。

 植物は、骨が横たわっている場所に小さな林があるものの、それ以外の場所には殆ど見当たらない。

 その柱と骨は、日の光を浴びて淡い金色に輝いており、幻想的な雰囲気だ。


 林立する柱は、立方体が無数に集まった形状をしており、淡い金色で少しくすんだ金属光沢を放っている。

 柱の間には、梁のような構造もあり、上を見れば、金属光沢を放つ柱や梁が網目状に広がっている。

 網目の間は広く、日の光は十分差し込むため、暗さは全く感じない。

 柱を構成する淡い金色の立方体は、パッと見は黄鉄鉱のように見えるが、黄鉄鉱ではない。

 この星の辺境領域でしか発見されていない、黄金銀こがねぎんという金属である。

 黄鉄鉱によく似た結晶を作る金属で、とても硬く、化学的にも安定した金属だ。

 この地域は、黄金銀の金色の柱が乱立しているため、『金柱地域』と呼ばれている。


 その柱の間を、悠々と飛行する、巨大な生物がいる。

 シロナガスクジラをごつくしたような外見で、鈍い金色をしている。

 全長は小さいもので30m、大きなものでは200m以上あるだろうか。

 どういう原理で浮いているのかはわからないが、巨大な柱の間を、悠々と泳いでいる。

 その背中には、草木が茂り、鳥が飛んでいるのが下からでも見える。

 クジラ自体が、巨大な浮島になっているのだ。

 コンジキシマクジラという、シマクジラの一種だ。

 所々に横たわっている、淡い金色の巨大な骨は、このコンジキシマクジラの骨なのだ。

 骨がある場所にしか植物がないのは、コンジキシマクジラの背中に生えていた植物が、コンジキシマクジラが死んだ後もその場に生えているからである。

 余談だが、発見当時、空を飛ぶソラクジラと、背中に動植物を背負うシマクジラ、どちらに分類するかで学会がかなり揉めたという過去がある。

 

 このコンジキシマクジラのおかげで、第3前進都市は比較的安全でいられるのだ。

 コンジキシマクジラは、命の危険を感じない限り、多少流れ弾が当たったとしても怒らないほど温厚な生物である。

 だが、命の危機を感じた時だけは、違う。

 命の危機を感じたコンジキシマクジラは、その原因をこの世から消滅させるまで、莫大な魔力を使って魔術を乱発するのだ。

 その魔術の威力は凄まじく、一発で標準的な魔術師が10人以上で1か月以上準備して放つような大魔術とほぼ同等の威力を持つという。

 それを雨霰の如く撃ちまくるのだ。

 この辺りの生物で、その魔術に耐えることができる生物は少ない。


 金柱地域は、基本的に植生に乏しく、大型生物が生きるほどの食料を確保することが難しい。

 骨がある場所にできている林には、それぞれに主がいるため、その植物をあてにすることも難しい。

 さらに、地下は非常に硬い黄金銀の鉱脈が網目状に張り巡らされており、地下性の生物も住みづらい。

 そんな住みづらい土地に、恐ろしく強いコンジキシマクジラが多数生息しているのだ。

 こんな環境のため、ほとんどの生物は近寄ろうともしないのである。


 ザザ、というノイズが走る音がして、通信が入る。

 今は俺が車長をやっているので、その通信を受け取る。

≪方位340、距離3,500。第3前進都市視認。到着まで現在速度で約10分。≫

 先頭を行くエリザとエルザの軽戦車からだ。

 第3前進都市が見えてきた、とのこと。

 方位340とのことなので、北向きに目線を向ける。

 

 当初予定では、明日6月5日の昼12時に着く予定だったため、だいぶ早い。

「第3前進都市が見えてきたよ!」

 社内の3人に、第3前進都市が見えてきたことを伝える。

 俺の声に反応し、ヴァシリーサが兵員ハッチから身を乗り出し、単眼鏡で北方向を確認し始める。

 作太郎は、運転に集中しているのか、運転手ハッチから前方を見据えているままである。

 そして、エミーリアが、俺の隣の砲手ハッチから、ちょこんと顔を出す。

 ちょっとかわいい。

「・・・すごい景色。」

 エミーリアはそう言い、周囲をきょろきょろと見渡している。

 周囲の金色の柱に、感動しているようだ。

 確かに、この景色は雄大で、それでいて幻想的だ。

 意外なことに、金色の柱の金属光沢はあまり眩しくない。

 黄金銀の立方体の表面は少しくすんでいるため、光の反射が柔らかいのだ。

「あれが、第3前進都市?」

 エミーリアが、言う。

 エミーリアの視線の先には、一際大きな骨が横たわっている。

 そして、その骨の隙間には、他の骨と同じように林があるが、その木々の間に、黄金銀で造られた無数の建物が見える。


「そうだよ。あれが、第3前進都市、通称『鯨骨街げいこつがい』さ。」

 

 第3前進都市、通称『鯨骨街』。

 その名の通りクジラの骨に抱えられるように築かれた、西方辺境でトップクラスの大きさの前進都市である。


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