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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
88/208

第8話 出撃

 さて。

 第1討伐隊の顔合わせも済んだ。

 これからは、準備の時間である。

 

 第3前進都市までの直線距離は約200㎞。

 そこから第14前進都市まで直線距離は約150㎞。

 第14前進都市は、第3前進都市の衛星都市の中でも、最も遠い位置にある都市だそうだ。

 そして、フローティングアイの出現場所までは第3前進都市から直線距離で約80㎞。

 要塞を出発するのは、明日6月3日の午前8時。

 そこから、2日で第3前進都市まで向かう。

 そして、第3前進都市から片道3日でフローティングアイの出現場所まで向かう予定だ。

 

 今回、第1討伐隊は全チームが車両を所持している。

 そのため、車両の速度のみを考えれば数時間で到達できそうな距離だが、実際はそんなに早くは進めない。

 第3前進都市と第14前進都市の間には、旅客の通行によって多少踏み固められた程度の土の道はあっても、舗装された道があるわけではない。

 また、道中に現れるであろう辺境の生物にも対応しながら進まなければいけない。

 そうなれば、1日で20~30㎞でも進むのが現実的なところだろう。

 当初軍が言っていた1週間程度の連続任務とは、第3前進都市を出発してから1週間ということのようだ。

 第3前進都市では補給と休養ができるため、そこを経由すれば『連続』任務ではない、ということらしい。

 第3前進都市で補給を行うことを考えれば、確かに、連続1週間の行動が可能なら対応可能なスケジュールである。

 

 まあ、よくある話だ。

 無論、軍からはブリーフィングで十分に説明があった。

 そこで仕事を降りる旅客も多かったが、再募集を行わなかった辺り、十分な人数は残ったようだ。

 

 時刻を見れば、13時。

 出発は明日の朝の予定である。

 第14前進都市が存続可能な時間は15日。

 準備に使える時間は、少ない。

 急いで準備をしなければいけない。


*****


 現歴2265年6月3日 午前10時00分


 緑のヒヨコ号が、大地を揺らす。

 辺境用の車両は、エンジンの消音性能を上げているため、エンジンの大きさの割に音は小さい。

 俺は、緑のヒヨコ号の砲塔ハッチから上半身を出し、周囲を見ていた。


 出発から3時間。

 周囲は見通しの良い草原。

 少し離れた場所で草を食んでいた、縦縞模様のサイのような草食獣が、何事かとこちらを見ている。

 あの草食獣は『オオシマサイ』。

 一見温厚だが、一度怒らせれば、10tトラックを易々と吹っ飛ばすほどの力を持っている。

 まあ、こちらから手出ししなければ安全なので、辺境の生物の中では危険度は低い。

 

 視線を移し、車列を見る。

 俺たちの緑のヒヨコ号は、車列の最後尾を走っていた。

 俺たちの車列は3台。

 前2台は、エリザ・エルザの姉妹と、チーム『青の戦士を仰いで』だ。


 エリザ・エルザの2人は小柄な戦車に乗っていた。

 戦車に対しては、特に名前は付けていないようである。

 地球連邦のロシア地区で過去に運用されていたというT-34-76中戦車にどことなく似ている車両である。

 T-34-76よりも一回りほど小柄でな車両で、二人乗り用に改造されているようである。

 主砲は、汎用砲システムの75㎜砲だろうか。

 また、排気口やエンジングリルを見た感じだと、エンジンは車体中央にあり、長い車体の後部を荷物室にしているようだ。

 まあ、二人だけならば必要な物資量も少ないので、戦車を改造して荷物室を付けたくらいでも大丈夫なのだろう。

 今は、砲塔からエルザが顔を出して周囲を偵察している。

 先ほどまでエリザが顔を出していたので、交代したのだろう。


 その戦車の後ろには、A7V突撃戦車に似た、大型の小屋のような装甲車が続いている。

 形状自体はA7Vに似ているが、足回りはしっかりしたもので、走破性は高そうだ。

 車体上面の中央には、15㎜重機関銃が装備された小型の砲塔が並列で配置されている。

 チーム『青の戦士を仰いで』の装甲車、『錆色』号だ。

 その名の通り、全体が錆色をしている。

 錆色だが、あれは錆びているのではなく、パルグラードでよく使われている錆止め塗装だ。

 リーダーのヴィクトルはパルグラート出身らしいので、その伝手で手に入れたのだろうか。

 移動基地としての機能を重視しているようでサイズが大きく、居住性は良さそうである。

 その砲塔からは、今はリトヴァとローランドが上半身を出し、周囲を観察している。

 屋根の上にはコロが寝そべっており、なんだか牧歌的な雰囲気だ。


 そして、最後尾に続くのは、我らが緑のヒヨコ号だ。

 今は、ヴァシリーサが運転をしている。

 俺が車長ハッチから、エミーリアが砲手ハッチから上半身を出し、周囲を視察中だ。

 作太郎は、中で休憩中である。

 物資を詰め込んでも、4人が寝泊まりするには十分な広さが残るようにカスタマイズしたため、内部には十分な休憩スペースがあるのだ。

 

 車列では、最も大きな錆色の小屋号が中心で、性能バランスに優れるエリザ・エルザの戦車が先頭、消去法で俺たちが殿になった。

 まあ、錆色号が先頭や最後尾になられると、大きすぎて視線を塞いでしまうため、索敵に難が出る。

 妥当な配置だと言える。


「警戒!方向16時!センジュ種が1!」

 コロの声が響く。

 どうやら、危険な生物が来たらしい。

 寝ているように見えて、コロは周囲を警戒していたようだ。


 16時方向に目を向けると、巨大な生物が、遠くの森から現れたところだった。

 全身は透明で、内部には透けていない青白く光る何かが詰まっている。

 身体は蛇のように長く、体側から無数の腕が等間隔に生えている。関節や体の起伏は不明確で、顔もない。

 2か月ほど前、この旅に出てすぐの時に戦ったツルギガミネセンジュに似ている。

 ツルギガミネセンジュの顔を無くし、色を黒から青白くしたような雰囲気の生物だ。

 それもそのはずで、あの生物は『アオジロセンジュ(青白千手)』という、ツルギガミネセンジュの近縁種だ。

 全長はツルギガミネセンジュと同等の10mほどだが、その戦闘力はツルギガミネセンジュの比ではない。

 戦闘ランクはE-8。

 装甲の無いソフトスキン車両くらいならば、簡単に破壊してしまうような強力な生物である。

 どうやら、オオシマサイを狙って森から出てきたようだ。

 

 俺たちが警戒している中、アオジロセンジュは、オオシマサイに襲い掛かる。

 オオシマサイの群れは、蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出すが、一頭がアオジロセンジュに掴まってしまう。

 捕まってしまったオオシマサイは、10tトラックを吹っ飛ばすその力で、アオジロセンジュに抵抗する。

 オオシマサイの角による攻撃は、数百m離れている俺たちまで聞こえるほどの打撃音を響かせるが、アオジロセンジュはびくともしない。

 アオジロセンジュに限らず、センジュ系統の生物は、物理攻撃に高い耐性を持っているのだ。

 俺が以前、ツルギガミネセンジュを打撃攻撃のみで倒せたのは、戦闘力差が大きかったからであり、本来は魔法攻撃で挑むべき相手なのである。

 そんなことを考えているうちに、オオシマサイはアオジロセンジュにあっけなく組み伏せられてしまった。

 ゴキン、と言う音がして、オオシマサイの首が変な方向に曲がる。

 そして、ぐったりとするオオシマサイ。

 アオジロセンジュの身体の先端部の外皮が、ぽっかりと開く。

 アオジロセンジュは、そのまま、オオシマサイを丸呑みにしてしまった。

「・・・大丈夫そうですわね。」

 前の車両のリトヴァが言う。

 その言葉の通り、アオジロセンジュは満足したのか、森に戻っていった。

 

 アオジロセンジュから襲われていても、この車列ならば、火砲を集中させれば近寄られる前に倒すことはできた。

 だが、下手に倒せば、その後処理が大変だ。

 より強力な生物を呼ばないために、手早く綺麗に処理しなければいけないのだ。

 そうなれば、大きな時間ロスである。

 襲われないに越したことはないのだ。


 その後、思った以上にトラブルなく車列は進んだ。

 そのおかげで、俺たちは予定より1日も早く、2日目には第3前進都市まで到着することができたのだ。

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