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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第6話 フローティングアイとは

 今回の敵は、フローティングアイだという。

 それを聴いた俺は、チームを代表して、発言する。

「フローティングアイの戦力を教えてくれ。」

 すこし、クスクスという笑い声が聞こえる。

 どうやら、いくつかのチームが、俺の発言を笑っているようだ。

 そいつらは、強大なフローティングアイと戦ったことがないのだろう。


 大きく成長したフローティングアイは、恐ろしいほどの強さを持つことを、知らないのだ。


*****


 フローティングアイ。

 それは、その名の通り、空飛ぶ目玉のような魔法生物だ。

 その外見は、まさに目玉で、まぶたすらない白い眼球が宙に浮かんでいるモノである。

 瞳の色は地域性があり、魔法生物遺伝学の重要なサンプルになっているらしい。

 外見からはただ眼球が浮かんでいるように見え、アンデッドと勘違いされることも多いが、実際は、ちゃんと様々な内臓を持った生物である。

 瞳部分は透明な外皮、それ以外は白い外皮に覆われており、その外皮は分厚く、見た目よりも硬い。

 フローティングアイの断面を見ると、フクロウの目のような、断面が扇形をした眼球が身体の中央にあるのが分かる。

 眼底は球形の身体の背面と一体化しており、その眼球を球形の外皮が囲んでいる。

 眼球の形状から、外皮の間に大きな空間ができるため、そこ内臓が詰まっているのだ。

 口は小さな三日月形で、身体の下部の外皮が開くようになっている。

 球形で上下が分かりづらいため、口がある方を下部として判断する。

 眼球一つのみの場合『単眼』のフローティングアイと呼ばれ、その直径30㎝ほど。

 攻撃方法は、体当たりと瞳から飛ばす魔力弾である。

 群体としての特性も持ち、2体のフローティングアイが出会うと、魔力で形成されたラインを繋ぎ、直径40㎝の眼球二つが魔力の光で繋がった『二眼』のフローティングアイになる。

 二眼のフローティングアイは、栄養状態が十分なら交尾し、両眼の遺伝情報を持った5㎝ほどのサイズの単眼のフローティングアイを生み出す。

 子供である単眼のフローティングアイは、しばらく、親から魔力と栄養を供給されて育ち、直径20㎝ほどになったら独り立ちする。

 二眼のフローティングアイは、単眼のフローティングアイを生み出した後は、栄養と魔力を消費しすぎて互いに接続を保つことができなくなることが多く、分裂して単眼のフローティングアイに戻ることが多い。

 40㎝ほどになっていた一眼あたりの大きさは、しばらくすると30㎝くらいに戻る。


 大まかな構造や生態は、そんなものだ。

 次は肝心な強さについてだ。

 実際、強さを訪ねた際に鼻で笑った者がいたように、フローティングアイはあまり強くない。

 いや、正確には、『二眼まで』はあまり強くない。

 単眼のフローティングアイは、よく、小型犬程度の強さ、と言われる。

 攻撃方法は体当たりと、瞳から飛ばす極小規模な魔術である。

 その魔術は、魔力を弾にして飛ばしてぶつけるのみの、大したことがないモノだ。

 威力は、大人が軽く叩いた程度。

 雑食であり、これで木の実を落としたり、小動物や昆虫を気絶させてから食べたりしているのだ。

 二眼のフローティングアイは、一般人が遭遇すると少し危険だと言われてる。

 40㎝ほどになりそれなりに重くなった身体での体当たりと、成人男性のパンチ程度の威力の瞳からの魔術は、そこそこの威力だ。

 だが、戦闘旅客に勝てるほどではない。

 一般人とほぼ変わらない強さの、最低クラスである白クラスの戦闘旅客でやっと互角。

 赤クラスの旅客で問題なく討伐でき、黄色クラス以上ならば単独で討伐に赴くことができる程度である。

 以上のように、『二眼まで』のフローティングアイはあまり強くない。


 恐ろしいのは、この先なのだ。


 栄養状態が優れていると、二眼のフローティングアイが単眼のフローティングアイを生み出しても分裂しないことがある。

 単眼のフローティングアイを生み出しても分裂しなかった二眼のフローティングアイと単眼のフローティングアイが出会うと、『三眼』のフローティングアイになることがある。

 なぜ一度単眼のフローティングアイを生み出している必要があるのかというと、生み出したことで三眼以上を魔力で接続する感覚を掴むため、らしい。

 三眼になったフローティングアイは、かなり強力になる。

 攻撃方法は相変わらず体当たりと瞳からの魔術だが、その威力がだいぶ強力になっているのだ。

 なお、体当たりと眼球からの魔術という攻撃方法は、フローティングアイがものすごく強力にならない限り変わることはない。

 魔力弾は、ヒトを数m吹き飛ばすほどの威力になり、体当たりもプロボクサーのパンチ並みの重さになる。

 さらに、光線魔術を瞳から放つようになり、その威力は、1㎜程度の鉄板ならば貫通するほどである。

 このクラスになると危険であるため、緑クラス以上の旅客複数か、青クラス以上の単独旅客による討伐が行われる。

 だが、三眼のフローティングアイも、フローティングアイとしては、下位である。

 三眼程度までならば、文明圏でも稀に出現する。


 四眼以上は、さらに強力になる。


 四眼のフローティングアイは、文明圏で出現した場合は、緊急の討伐対象になるほど恐ろしい生物だ。

 攻撃方法こそ体当たりと瞳からの魔術であり変化はないが、その威力が三眼のころから跳ね上がっているのだ。

 一体当たりのサイズは70~80cmほどまで大きくなり、外見の威圧感もそれなりになる。

 体当たりは鎧を着た人を容易に轢き潰し、魔力弾は乗用車程度ならば一撃で大破させるほどの威力になっている。

 光線魔術の貫通力はRHA換算10㎜ほどにもなり、軽装甲の車両では危ない相手になっているのだ。

 防御力も高くなり、拳銃弾程度では傷もつかず、速度も最大で60㎞ほど出るようになる。

 討伐は赤熱銅以上の旅客複数人か、軍の部隊が対応するレベルである。

 日本出身の旅客などから、四眼にかけて『死』眼のフローティングアイなどと呼ばれるほどの、非常に危険な生物だ。


 個体が一体繋がるごとに、ものすごい勢いで強力になっていく。

 それが、フローティングアイの怖さなのだ。


*****

 

 フローティングアイは、魔力で繋がった個体数が増えるほど、その強さを飛躍的に増していく。

 それを知っていれば、フローティングアイの戦力を訊いたことを笑うはずがない。

 フローティングアイの怖さは、辺境の旅客ならば知っていると思ったが・・・。

 周囲の様子を伺えば、笑っていない旅客も、そこまで危機感を持ったような表情はしていない者が多い。

 どうやら、ここしばらくは多眼のフローティングアイが出現していないようだ。

 一部の旅客が、引き攣った険しい顔をしている。

 険しい顔をした旅客は、巨大なフローティングアイと戦ったことがあるのかもしれない。

「もっともな質問です。」

 俺の質問に、軍の担当官が答える。

 その表情は引き締まっているが、どことなく、恐怖が見える。

 ・・・かなりヤバい相手なのかもしれない。

「今回のフローティングアイは・・・。」

 声が少し震えている。

 さて。 

 どの程度だ?



「七眼が、確認されています。」


 その言葉を聴き、ブリーフィングルーム内が、ざわり、と騒がしくなった。

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