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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第5話 ブリーフィング

 現歴2265年6月2日 午前9時00分


 歩兵戦闘車の操車訓練を終えた次の日。

 俺たちは、仕事を受注するために、第3旅客任務局に来た。

 半月ほどぶりである。

 任務局のデザインは、相変わらず、軍の要塞内らしく、武骨で味気のないモノだ。

 だが、そこにいる人々は、決して冷たくはない。


 旅客任務局は、半月前と変わらず、熱気に満ち溢れている。

「緊急任務発令!緊急任務発令!腕に覚えのある戦闘旅客の参加を求む!」

 任務発令を叫ぶ軍人。

「その仕事、詳しく聴かせてくれ!」

 仕事を受けようと声を上げる、ごっつい鎧に身を包んだ馬人の戦士がいる。

「いや~、今回は稼いだな!乾杯!」

 辺境から戻り、その戦果にほくほく顔で酒を酌み交わす猿人の旅客たちがいる。

「あらぁ、稼いだみたいねぇ。お兄さん、一緒に楽しいことしない?」

 稼いだ戦闘旅客に声をかける、艶めかしい女性の旅客もいる。

 それ以外にも、たくさんの戦闘旅客や、彼らを対象に商売する者達がひしめいている。

 その溢れた喧騒と熱気は、コンクリ打ちっぱなしの味気ない壁ですらも、どこか熱を持ったように見えるほどだ。


「緊急任務発令!緊急任務発令!1週間程度の連続任務が可能な戦闘旅客の参加を求む!」

 旅客情報局に満ちる喧騒を切り裂いて、軍人の声が響く。

 余談だが、軍が仕事を発令するときはそれを任務と言い、旅客がそれを受注するときは仕事と言うことが多い。

「必要クラスは赤熱銅クラス以上、必要人数30人以上!護衛ないし討伐任務である!」」 

 ふむ。

 1週間程度の仕事。

 護衛または討伐。

 歩兵戦闘車を使った初めての仕事としては、ちょうどいい内容と長さかもしれない。

「今の仕事など、良いのではないか?」

 作太郎にも良い感じに聞こえたようだ。

「詳細を確認しようか?」

 そう訊くと、エミーリアとヴァシリーサも頷く。

 よし、ならば、声を上げよう。

 軍人が叫んでいる仕事を受注するには、参加したい意思を示せばよい。

「その仕事、詳しく!」

 そう叫ぶと、軍人がこちらを見る。

「詳細は第8ブリーフィングルームで聴け!」

 よし。

 第8ブリーフィングルームか。

 

 旅客任務局を出て、ブリーフィングルームに向かう。

 ブリーフィングルームは、旅客任務局の向かいに伸びた廊下に、たくさん並んでいた。

 一部屋ごとがそれなりに大きいようで、扉と扉の間隔は広い。

 第8ブリーフィングルームは、すぐに見つかった。

 分厚い鉄の扉を開き、中に入る。

 ブリーフィングルームルームには、部屋の奥に向けて、100席ほどの椅子が並んでいる。

 並んでいる椅子は、各種族の体格に合わせるため、大きさは様々だ。

 俺たちよりも先に、数人が座っている。

 俺たちも、部屋の中央付近に、まとまって座る。

 ここで、ブリーフィングが始まるまで待てばいいのだろう。


 少し経つと、次々と戦闘旅客がやってくる。

 10分ほどで、部屋はいっぱいになった。

 部屋を見渡せば、立ち見の旅客もいるため、150人ほど居るだろうか。

 部屋が薄暗くなる。

 それと同時に、部屋の正面の少し高くなった場所に、軍人が二人現れた。

 一人は映像装置操作で、一人は任務の内容説明をするようだ。

「諸君、集まってくれて感謝する。任務の前に、事前通知事項がある。」

 軍人は、紙を手に、説明を始める。

「説明を聴き、任務を受注しない判断をすることは自由である。そのことによる不利益もない。受注しない場合、退室してよろしい。」

 ブリーフィングルームには来たものの、そこから実際に仕事を受けるかどうかは、自由なのだ。

 実際は、ここで仕事の内容を聴き、自分たちの実力を勘案したうえで、受注を決めるのだ。

「では、早速任務説明を始める。」

 必要事項をさっと話した軍人は、挨拶や前置きなどは最小限で、任務の説明を始める。

「今回の任務は、第14前進都市の救援である。」

 

 前進都市。

 それは、辺境に築かれた都市である。

 厳しい辺境の中でも、比較的安全だと評価された場所に築かれている。

 軍が計画的に建造することもあれば、旅客たちが安全地帯を利用し続けるうちに自然と都市になった場所もある。

 その中でも、一時的なものではなく、3か月以上存続して、恒常的な都市になったと軍が判断したものに番号が割り振られ、前進都市となるのだ。

 番号は、単純にできた順番である。

 その規模は、人口数十人の小さな村から数千人のしっかりした都市まで様々だ。

 数か所しかないが、人口が1万人を超えている都市もある。

 各都市は、陸路、空路などで要塞や文明圏と接続されており、辺境における重要な活動拠点となっている。

 

 今回は、その中の一つ、第14前進都市の救援が仕事だそうだ。

「昨日2209に、第14前進都市への3陸路がすべて遮断されたことが確定した。今回の任務は、それら陸路を回復することである。」

 軍からの説明によると、第14前進都市は、人口1500人ほどの前進都市で、人口1.5万人の第3前進都市の衛星都市の一つだそうだ。

 人口4桁の前進都市の中では比較的奥地にある都市で、通常は陸路3本と空路1本で補給を行っていたらしい。

 この第14前進都市が潰れてしまえば、それに付随する4つの小規模な前進都市の閉鎖につながるようである。

 そもそも、辺境の前進都市が閉鎖されるのは、日常茶飯事だ。

 環境が厳しく、状況も良く変化する辺境では、都市が存続できなくなることは、良くあることなのである。

 だが、閉鎖するにしても、そこに住んでいる人々を退避させなければいけない。

 そのため、存続させるにしても、閉鎖するにしても、陸路の開放は必須であるらしい。

「空路はどうなってんだ?」

 集まった旅客の一人から、声が上がる。

 もっともな疑問だろう。

「現在、種不明の大型ソラクラゲの群れが第14前進都市近隣の空域にとどまっている。空路は安定していない。」

 空路は、ソラクラゲの群れが近隣に漂っているため、群れが離れた隙を見てしか近づくことができず、安定していないようだ。

 人を退避させるにも、物資を運ぶにも、便数が全く足りていないとのことである。

 ソラクラゲは、どうやらここ最近大量にこの地域をうろついているようだ。

 先日白い森で遭遇したダイオウソラクラゲも、その影響のようである。

 大型のソラクラゲは、その柔らかい体で、多くの攻撃のダメージを軽減してしまうため、数匹ならまだしも、群れになってしまうと排除が非常に難しい。

「第14前進都市の人々は生きているのですか?」

 これももっともな疑問だ。

 そもそも、全滅していたら、陸路を回復する意味は薄くなる。

 薄情なようだが、都市一つが壊滅するような状況の地域に不用意に近づくなど、命を捨てに行っているようなものである。

 もし、第14前進都市が壊滅していた場合、作戦は陸路の回復ではなく、精鋭による第14前進都市とその衛星都市の生存者の救助作戦になる。

「少数の偵察隊によって、都市の生存は確認されている。」

 どうやら、都市自体は無傷のようだ。

 ならば、都市を助け出す必要があるだろう。

 

 その後も、状況説明が続いた。

 それによると、備蓄と僅かばかりの空輸により、第14前進都市が維持できるのは、15日ほど。

 偵察隊が陸路で第14前進都市に到達できたならば、そこから物資を運べばよいという声もあった。

 だが、偵察隊が進んだのは、山や洞窟などの険しい地形を越えた、道なき道だったようだ。

 物資を大量に運ぶことができるルートではない、とのことである。

 

 今回、第14前進都市への3つの陸路が遮断された理由は、それぞれで異なるとのことである。

 3つの陸路それぞれが、全く別の理由で同時に遮断された、とのことであった。

 北の陸路は、山を迂回するルートだったが、地滑りにより、物理的に塞がったとのこと。

 中央を通る、最も太い陸路は、途中に『テイコクアリ』の巣ができ、彼らによって封鎖されているとのこと。

 南の陸路には、『フローティングアイ』の群れが出現、危険で通ることができないとのことである。


 今回の仕事の対象は、北の陸路と南の陸路だ。

 北の陸路は、土砂を撤去する工事の護衛。

 南の陸路は、フローティングアイの討伐である。


 中央のテイコクアリは、既に軍と政府で対応しているとのことである。

 テイコクアリは高度知的生命体であり、個々人を見れば、問題なく話の通じる人々である。

 だが、本能的なモノなのか、そのコロニーは、高い確率で女王を中心とした帝国主義に染まる。

 テイコクアリのコロニー発生は、辺境ではよくあることであり、その対応方法もマニュアル化されている。

 今回もいつものとおり、軍と政府で外交部隊を送り、平和的な解決を目指しているようである。

 なお、交渉が成功する確率は半々で、テイコクアリ側から宣戦布告されることも多いとのことである。 


 北の、土砂を撤去する工事の護衛は、まあ、詳しく解説することもないだろう。

 辺境では工事にも護衛が必須なのである。


 南の『フローティングアイ』の討伐については、その通り、フローティングアイという生物の討伐である。

 フローティングアイは、文明圏にも生息する、”いつもならば”大した強さではない生物である。

 今回、俺たちが受注するならば、この仕事だろう。

 そのことを3人に確認すれば、それでいいとのことである。

 俺は、チームを代表して、発言する。

「フローティングアイの戦力を教えてくれ。」

 すこし、クスクスという笑い声が聞こえる。

 どうやら、いくつかのチームが、俺の発言を笑っているようだ。

 そいつらは、強大なフローティングアイと戦ったことがないのだろう。


 大きく成長したフローティングアイは、恐ろしいほどの強さを持つことを、知らないのだ。


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