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青い星にて戦士は往く  作者: Agaric
第5章
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第4話 緑のヒヨコ号

 現歴2265年6月1日 午前11時30分


 地面が、微かに震える。

 それと共に、響く重低音。

 次の瞬間、丘の稜線から森林迷彩に身を包んだ歩兵戦闘車が飛び出し、大地を疾走する。

 地球のナメル装甲兵員輸送車に似た、全体的に傾斜のかかった大型の車体に、お椀型の砲塔を搭載した歩兵戦闘車である。

 砲塔は大型で、大口径の短砲身砲を搭載しており、周辺視察を行いやすいように、設備の整ったキューポラ付きだ。

 全体的に丸みを帯びたデザインである。

 少し進んだ場所で歩兵戦闘車は止まり、その大柄な砲塔が旋回を始める。

 砲塔が静止して1秒後、1.5kmほど先に設置された1m大の的に向けて、歩兵戦闘車は発砲。

 砲口初速は遅く、大きな砲弾が弧を描いて的に向けて飛翔していく。

 1発目は外れ、的のすぐ横に着弾。

 しかし、外れたものの、口径由来の大きな爆発と共に、的を半分ほど吹き飛ばす。

 すぐに装甲車は2発目の発砲。

 2発目は的の手前に着弾。

 的に損害を与えることはできなかったようだ。

 3発目。

 3発目は再び的のすぐ横に着弾。

 爆風の範囲には巻き込んだようで、砲弾は的を粉々に吹き飛ばした。

 的を粉砕した歩兵戦闘車は再び走り出し、500mほど進んだ場所で、砲塔を横に向ける。

 そこには、小型の生物を模した、小さな的が10個ほど並んでいる。

 その的に向けて、砲塔上の15㎜重機関銃と同軸15㎜重機関銃が火を噴く。

 走りながらの射撃だが、射撃はそれなりに正確で、的は次々と砕け散る。

 歩兵戦闘車は、そのまま20秒ほどですべての的を片付けた。


 その様子を、俺は、その歩兵戦闘車の中から見ていた。 

 というよりも、主砲を操作していたのは、俺である。

 現在、車長は作太郎。

 装填手がエミーリアで、運転手がヴァシリーサである。


 砲撃は、全てしっかり照準を合わせていたが、当たらなかった。

 まあ、汎用砲システムの25口径125㎜砲では、精度はこんなもんだろう。

 汎用砲システムとは、危険な生物の対策に大量の火砲を必要とするこの星で運用されている、低コスト砲システムである。

 20㎜~100㎝砲まで20種類の口径が用意されており、それぞれ、大量生産ラインが確立されているのだ。

 これらの砲は射程や威力などの戦闘能力の性能向上よりも、信頼性や生産性、コスト低減などを中心に改良を重ねられており、性能はそれなりだが、とにかく安くて頑丈なのである。

 軍でも、大量に必要な要塞砲や、コスト削減を図りたい後方警備用として多数運用している。 

 俺たちの歩兵戦闘車に搭載されている汎用砲システムの25口径125㎜砲は、25口径という短砲身のため、精度がいまいちである。

 125㎜砲に対して小さい砲塔に搭載したため、俯仰角もいまいち広くない。

 まあ、倒木や落石などの障害物排除用に搭載したため、そこまで気にしなくてもいいだろう。


 購入した歩兵戦闘車の砲について考えていると、ヘッドセットから、音声が流れてくる。

『こちら訓練指示塔。5番、終了地点に向かえ。』

 訓練全体を統括している訓練指示塔から、指示がある。

 5番は、俺たちの車両に割り振られた番号である。

 指示に従い、ヴァシリーサが歩兵戦闘車を終了地点に向かわせる。

 そこには、10台ほどの装甲車や歩兵戦闘車、軽戦車が並んでいる。

 俺たち以外の、装甲車両を手に入れた戦闘旅客たちだ。

 その車列に、俺たちの歩兵戦闘車も並ぶ。

 車両から降りると、軍人が近づいてきた。

「お疲れ様です。5番、メタルさん方は、今日で訓練は終了ですね。ご武運を祈ります。」

 軍人はそう言い、笑顔で敬礼してくれた。


 俺たちは、歩兵戦闘車の訓練を行っていたのだ。

 戦闘旅客向けの簡易訓練コースだ。

 歩兵戦闘車を発注したのは、5月13日。

 納車になったのが5月20日。

 納車日から訓練していたため、10日ほど訓練していたことになる。

 旅客向けの装甲車は、全体的に操作や構造が大きく簡素化されている。

 10日もあれば、基本的な操作方法は習得できるのである。

 あとは、実際に運用する中で慣れていくことになるのだ。

 

*****


 歩兵戦闘車をいったん旅客向け駐車スペースに停める。

「これで、いよいよこれで出撃できますな。」

 作太郎がそう言いながら、歩兵戦闘車を叩く。

「・・・名前決める。」

 エミーリアが言う。

 確かに。

 このまま歩兵戦闘車と呼び続けるのも味気ない。

 名前を決めるのは、良い案だ。

「名前っすか。いいっすね。」

 さて。名前か。

 いざ考えるとなると、なかなか悩むものである。

「・・・ふむ。玄武号とかは、如何でござるか?」

 作太郎が言う。

「玄武っすか・・・?地球の亀の神様っすよね?」

「可愛くない。」

 しかし、女子二人には、不評のようだ。

 作太郎は、がっくりと項垂れる。

「でも確かに、なんだか動物ぽいっすね。」

 言われてみれば、丸みを帯びたデザインは、亀か、アヒルか、といった外見をしている。

「ヒヨコみたいな見た目。」

 エミーリアがぼそりと呟く。

 ヴァシリーサが、その声に、目を輝かせる。

「ヒヨコ、良いっすね!」

 可愛いネーミングだ。


 そこから、あれよあれよという間に話は進み、歩兵戦闘車の名前は決まった。

『緑のヒヨコ号』

 歩兵戦闘車とは思えない、可愛い名前になった。

 さらに、歩兵戦闘車改め、緑のヒヨコ号の砲塔側面には、でかでかと白いペンキで『緑のヒヨコ』と描かれた。

 車両に名前をかき込むのは、旅客が所持する車両では一般的である。

 意外なことに、作太郎も不満そうではない。

「可愛らしい名前も、乙なものでござるな。」

 ・・・まあ、チームメンバーが納得しているのならば、これもこれでありだろう。


 とにもかくにも、こうして、俺たちは、装甲車両を手に入れたのだった。

 緑のヒヨコ号を手に入れたことで、長距離の仕事を受注できるようになる。

 辺境のより奥を目指す仕事は、収入も非常に高くなるが、なにより、エミーリアを強くするには最適である。

 

 時間を見れば、午後5時。

 緑のヒヨコ号にペイントを施したりしていたら、遅い時間になってしまった。

 仕事を受けるのならば、明日からがいいだろう。


 さて。

 装甲車両も手に入ったことだし、どんな仕事を受注しようか。

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