第3話 装甲車を選ぼう
数時間後。
「よし、だいたい目星がついたっすね。」
ヴァシリーサが言う。
俺たちの前には、複数の付箋が付いた装甲車カタログがある。
「まあ、実物を見てからでござるな。」
作太郎が言う。
それも、先程話し合って決めたことだ。
装甲車を買う際も、実物を見てみないことには、実際の雰囲気はわかりづらい。
そのため、明日、この要塞にもある、装甲車の展示場へ見学に行くことにしたのだ。
ロンギストリアータ第6要塞の幅は200km。
この地峡を完全に塞いでいる。
この要塞は、北から数十kmごとに5つの区に分かれており、最も北が第1区、最も南が第5区となっている。
その中で、最も多くの施設が集中しているのは、軌空車の駅がある第3区である。
軌空車による後方からの物資輸送の中継点であり、ここから第2区と第4区へ物資が運ばれていくのだ。
また、豊富な物資を活かして辺境攻略を積極的に行っており、第3区付近の辺境は広い範囲で状況把握ができている。
そのため、要塞に近い位置は比較的安全になっている。
第3区には、ヒトとモノ、双方が集まっており、内陸部の辺境攻略の中核を担っているのだ。
次に施設が多いのは、両端の第1区と第5区だ。
海から物資を運ぶことができるため、軌空車の駅がある第3区に次いで多くの施設が集中している。
海に沿って辺境の探索も進んでおり、地図が造られた範囲は第3区付近に次いで広い。
どちらも第3区に負けず、旅客の人数も多く、活気のある区である。
残る第2区と第4区は、激戦区として知られている。
物資を第1区、第3区、第5区から運んで来ざるを得ず、物資補給が遅れ気味な区である。
要塞周辺の地図作成は進んでおらず、手付かずの辺境が要塞のすぐ近くまで広がっている。
また、強力な原生生物も多く、基本的に防戦中心の戦闘を行っている。
一方で、第1区、第3区、第5区とは違い、要塞のすぐ近くの辺境に、未知のモノや凶悪な強さの原生生物が満ち満ちている。
そう言った事情から、第2区と第4区で活動することができれば、その利益は計り知れないレベルなのだ。
そのため、決して活気がない訳ではない。
最上位クラスの戦闘旅客と、その者たちをターゲットにしたそのほかの旅客たちで賑わっているのだ。
装甲車の展示場は、軌空車の駅に近い第3区か、港がある第1区、第5区にある。
要塞守備隊に配備されている装甲車両は要塞内に製造ラインがあるが、それ以外の車両は外から運び込んできている。
そのため、運び込むための輸送手段のある第3区、第1区、第5区に車両関係は集中しているのだ。
俺たちが今いるのは第3区なので、最も近い第3区装甲車展示場に向かうこととした。
*****
装甲車展示場は、主要塞の前に広がっている防衛要塞の一角にあった。
要塞内部だが思ったよりも広く、多数の装甲車が展示されている。
扇形をした低いカーテンウォールの内部に作られているようで、壁が一部弧を描いている。
広い空間には、各メーカーごとにブースがあり、それぞれ工夫を凝らした装飾で、自社の装甲車をよく見せようとしている。
工夫を凝らしたスタイリッシュな装飾の数々で、雰囲気はカーショウのようであり、要塞内部のような武骨さは鳴りを潜めている。
思ったよりも多くの旅客が、装甲車を見に訪れており、会場はそれなりに賑わっているようだ。
ヴァシリーサが、入り口付近に設置されている、会場地図が描かれたパンフレットを手に取る。
「とりあえずぜんぶ見る?」
エミーリアが言う。
まあ、急ぎの旅ではないのだ。
ぐるっと全て見て回ってもいいだろう。
装甲車展示場を、4人で見て回る。
展示場は防衛要塞のたくさんある扇形区画の一つを丸ごと占拠しているようで、非常に広い。
そこに、数多の装甲戦闘車量が展示されている。
「これ、可愛いっすね。」
そうヴァシリーサが言うのは、こぢんまりとした軽戦車。
確かに可愛げがある。
被弾経始を意識したような半球型の砲塔に、鋳造の滑らかな車体。
前後が短いため、全体的に丸みを帯びた、可愛げのあるデザインに見える。
「ま、今回は買わないっすけどね。」
ヴァシリーサの言う通り、見た目は良いが、今回ほしい車種ではない。
「これ、いい。」
そう言うエミーリアの目線の先には、装軌式の移動要塞車がある。
5m以上ありそうな全高に、20m近くありそうな全長。
大口径砲を搭載した主砲塔に、小~中口径砲を搭載した多数の副砲塔。
車体背面が開き、小型の車両を一台格納できるようになっている。
要塞車としては小型だが、装甲車として見れば、かなり巨大なサイズだ。
そのゴツゴツとした外見はいかにも強そうで、格好いい。
だが、俺たちにとっては、大きすぎるだろう。
「でも、大きすぎる。」
エミーリアも、大きすぎることはわかっているようだ。
この要塞車をフルスペックで運用するには、20人以上必要である。
エミーリアは、50人ほどに分かれることが可能だが、長く分かれていると非常に疲れるそうだ。
50人の独立した自我があっても、あくまで一人なのだろう。
この車両を恒常運用するのは、少し無理がある。
「ふむ。やはり、この車両がちょうどいいですかな?」
作太郎がそう言い指差すのは、中型の歩兵戦闘車だ。
大手メーカー製のもので、最初から旅客向けに設計された車両である。
装軌式で、全高を高くしたBMP-1といった趣の装甲戦闘車量である。
二人乗りだが一人でも操作可能な砲塔に、広めの兵員室を備えており扱いやすそうだ。
この車種は、いくつか決めていた候補の中でも最有力なものである。
「中も見れるようですな。」
そう言いながら、作太郎は装甲車の中を眺めている。
俺もつられて見てみれば、4人で運用するにはちょうど良い感じだ。
簡易ベッドが展開でき、荷物を積むラックも多い。
オプションで内装を変えることができるということだが、このままでも十分使用できそうだ。
「う~ん、やっぱり、これがいいかなぁ。」
思わず言う。
流石、技術蓄積の多い大手メーカー製である。
無難に使いやすくまとまっている感じだ。
まあ、決定はほかの車両を見てからでもいいだろう。
そのまま、装甲車展示場を一周する。
少し疲れたので、飲み物を買い、展示場の中央あたりにある休憩スペースに腰を掛ける。
いくら長時間戦っても疲れないくらいの体力があるとはいえ、広い展示場を一周すれば、なんとなく気疲れはする。
休憩スペースは、丸テーブルに椅子がいくつか置かれたものが複数配置されたものだ。
軽食も売っており、それなりの人数が休んでいる。
全て回ってみれば、様々魅力的な車両があった。
強大な重戦車に、運用しやすそうな装甲兵員輸送車、100人で運用するような要塞車もあった。
だが、その中でも、やはり、3番目に見た大手メーカーのものが最も良さそうな雰囲気であった。
「やっぱり、あれがよかったよね。」
休憩用のベンチに座りながら、先ほど見た装甲車を指さす。
「うん。」
エミーリアが、こくんと頷く。
エミーリアは、あの装甲車はそれなりに気に入ったようだ。
「まあ、無難すぎて少しつまんないっすけどね。」
ヴァシリーサはそう言いつつも、その表情は明るい。
べつに悪くも思っていないようだ。
「・・・まあ、あれで確定でいいでしょうなぁ。」
全員、あの装甲車でいいようだ。
俺たちは休憩を終えると、装甲車を注文するために、そのメーカーのブースに向かうのだった。




